「ゴミ」という概念をリフレーミングする 対談:Loop Japan エリック・カワバタ氏×PwCコンサルティング 野口功一

SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」では都市住民が環境に与える影響を減らすこと、ゴール12「つくる責任、つかう責任」ではゴミの発生量の大幅削減を掲げています。リユース容器を活用する循環型ショッピングプラットフォームを日本で展開するLoop Japan合同会社日本代表のエリック・カワバタ氏と、PwCコンサルティング合同会社常務執行役パートナーの野口功一が、ゴミの本質を捉えなおすことから日本におけるリサイクルの課題にアプローチしました。

見えなくなっている日本のゴミ

野口:「捨てるという概念を捨てよう」というLoopの発想は、非常に面白いなと思います。リサイクルをはじめとした環境にやさしい取り組みは、かねてから「良いこと」として認識され、多くの人が日常的にゴミを分別し、特に環境に関心のある人たちはリサイクルされた商品を購入するなど熱心に取り組んできました。それでも、ゴミはやっぱりゴミとして認識され、どうすればゴミを減らせるか、リサイクルを進められるかという話にとどまっていますよね。

カワバタ:私もそうでしたが、多くの人が日本ではきちんとリサイクルが行われ環境に良い取り組みができていると考えているのではないでしょうか。各家庭ではゴミを分別し、決められた日に回収に出します。多くの人は、それらのゴミが国内でリサイクルされているものと思っている。あるいは、その先までは詳しく知らない。街の中、川や海などで大量のゴミや廃棄物を目にすることもありませんので、そう思うのも当然です。私自身、日本に長年暮らしていますが、日常生活でゴミ問題を意識したことはありませんでした。しかし詳しく調べてみて、分別されたゴミはサーマルリサイクル(熱回収)で焼却されたり、現在は禁止されていますが輸出されたりしていたことを知りました。野口さんのおっしゃる通り、ゴミはゴミとして処分されているんですね。

Loopの出発点は、ゴミとして捨てられる商品のパッケージが、捨てられなくなるにはどうすればよいかということです。かつて、牛乳配達ではビンの容器が使われ、配達した牛乳ビンは、飲み終わったら回収していました。その一連の過程では、パッケージのゴミは出ていないのです。現在の流通・小売の中で、ゴミが出ないようにリユースを拡大することを目指すのがLoopの取り組みです。

Loop Japan合同会社 日本代表 エリック・カワバタ氏

「安く作る」がゴミを生み出す

野口:「そもそもゴミと言っているものは、本当に捨てるしかないものか?」という物事の捉え方の転換ですね。

多くの企業はこれまで利便性や効率性の向上にずっと注力してきて、捉え方を変えることが難しくなっているんです。そのような課題に対し、PwCではBXT(Business – eXperience – Technology)というアプローチで解決を支援していますが、その中にリフレーミングという手法があります。直面している課題や物事を、別の視点から捉え直すということです。

最終的にゴミとして捨てる容器なら、できるだけ安く作るしかないと考えるわけですが、容器自体が価値を提供するものであればコストをかけて作ることもできるようになりますよね。まさにゴミというものをリフレーミングしたと、僕には見えるんですね。これまでのゴミを減らそう、リサイクルしようという考え方とは全く異なるアプローチで、斬新な取り組みだと思います。

カワバタ:ありがとうございます。Loopでリユースに取り組む背景には、リサイクルではすべての廃棄物を循環できないという事実もあります。鉄やガラスは不純物を取り除くなどして循環することができますが、樹脂は溶かすと強度が変わるのでまた同じ容器に戻すことができないんです。リサイクルも良い取り組みなのですが、リユースに取り組んでいかなければ、結局は捨てるものが出てきてしまいます。

また、企業がビジネスを行う環境の変化もあります。かつて缶やビンだった容器は、企業の資産でもあるとみなされ、回収されリユースされていました。一方、より低コストのプラスチックに変わってからは、容器も含めて消費者に販売するため、企業からするとコストと認識されるようになった。より低コストでの製造を求めてきたのは、そこに経済合理性があったからです。しかし、サステナビリティの視点が浸透していく中で、外部不経済も含めての経済合理性が問われるようになってきました。

現在、Loopで扱っている商品は、何度も繰り返し使用できるガラスやステンレスなどの容器を用いています。容器の開発や製造コストは使い捨ての容器よりも高くなりますが、コストをかけて価値を生み出しているのです。それは思わず欲しいと思うデザイン性や、温度変化を抑制できるといった機能です。10回使えるのであれば、使い捨て容器の10倍のコストを開発・製造に回せるので、そのような価値を付加することが可能になります。

実際は、そこまで単純ではないのですが、そのようにしてユーザーが欲しい、使いたいと思う商品を提供することが重要だと考えています。つまり、リユースとそのメリットをもう一度見直すということです。環境のために頑張って生活を変えていくのは不可能ではありませんが、大多数の人にとっては困難を伴います。利便性を損なわず、生活を変えることもなく、欲しいものを買うことが、リユースの拡大につながっていくことを目指しているのです。容器がこれまで提供されてこなかった価値をもたらし、何度もリユースされることで、製品のライフサイクルを通じて見るとこれまでよりもゴミが出ないようになるのです。

野口:きちんとコストをかけて容器の機能やデザイン性を高めることができたのは、ゴミそのものをリフレーミングしたからですよね。製品を提供する企業側では、容器=コストをリフレーミングした。さらに、リユースを普及していくためには、環境に関心がある人ばかりではなく、それ以外の多数の人に手に取ってもらわなければなりませんから、そのためのリフレーミングも必要になります。

多くのユーザーに対して良い購買体験を提供できるか。言い換えると、環境に良いですよということが先にあるのではなく、かっこいいデザインや使いたい機能があるなどユーザーの購買意欲が満足する体験があるか。そして、その上で「実はこれ、リユース容器なんですよ」というストーリーがあることを知り、他にはない体験が得られる。ユーザーエクスペリエンス(UX)をリフレーミングして、これまでとは異なる体験を提供するアプローチですね。

そのようなUXが広がるにつれてその商品は売れていき、企業側がリユースできる商品を一層強化していくことも期待できるでしょう。Loopが触媒となって、企業側の経済合理性もユーザーエクスペリエンスもリフレーミングされ、よりサステナブルなアプローチにつながっていくと感じます。

PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 パートナー 野口功一

取り組みを継続できるかどうかが問題

カワバタ:まさにサステナブルであることが重要なんです。ユーザーはゴミをきちんと分別していますし、企業側は製造者の責任としてリサイクル費用をきちんと支払っているので、これまで見えていなかったのですが、日本にも対応しなければならないゴミの問題があると分かった。では、取り組みがきちんと続くためにはどうすればよいかということですね。

ゴミの問題が広く認識されている欧米では、消費者が声を上げ、グリーンプレミアム(環境にやさしい商品に対して支払う追加コスト)を負担することもあり、企業側も取り組みを進めてます。日本では消費者からそこまで声が上がっているわけではありませんが、企業側は取り組みを始めているところが多く、お声がけしたメーカー各社も「企業としてやるべきことだから、一緒にやりましょう」と言ってくださいます。

野口:以前から日本の企業もCSR(Corporate Social Responsibility)には一所懸命に取り組んでいるんですよね。今のお話も、企業としてきちんと責任を果たそうという姿勢そのものです。では、それらの活動がサステナブルかというと心もとない。CSRのための活動をどのような時も継続してきたかというと、残念ながら、業績の悪化が続くような場合は難しくなってしまっていた。それは、本業とCSRが別物と考えられていたからなんですよね。

しかし近年、ESGやSDGsへの取り組みでは、本業であるビジネスを通じて環境や社会の課題の解決に貢献することが重視されるようになってきました。自分たちがビジネスを拡大すればするほど世の中が良くなっていく、なおかつ株主価値や企業価値の向上にもつながる。環境や社会の課題解決に対する企業の動機づけは、大きく変わってきていますね。

本記事はPwC Japanグループのオウンドメディア『 Value Navigator 』からの転載です。
対談後編「『意識しない』取り組みがサステナブルな課題解決につながる」は、 こちら からご覧ください。

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