北九州で大地震が起きる可能性は? 地震研究で培った科学的思考を生徒に/山口広訓さん(塾講師)

最近、地震のニュースを見ることが増えてきています。北九州市は比較的、地震の影響を受けにくい地域ではありますが、いろいろな地域で地震が起きているのを見ると、どうしても気になってしまうもの。

今回は北九州市の地震事情に詳しい山口広訓さんに話を聞きました。山口さんは八幡西区折尾にある「大学受験のTG」で物理・数学の講師として現在働いていますが、元々は東京大学大学院で研究を行ってきた地震予知の研究者です。

地震予知について関心を持ち、進路を決定させたきっかけ「阪神淡路大震災」

山口さんは鹿児島の名門・鶴丸高校を卒業後、九州大学理学部に進学。その後、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻へと進み、理学修士号を取得、地震予知についての研究をしました。

なぜ地震の予知について関心を持つようになったのか尋ねると、1995(平成7)年に起こった阪神淡路大震災がきっかけだったと言います。当時高校生だった山口さんは、ただひたすら勉強するだけの無味乾燥な日々を過ごしていましたが、阪神淡路大震災の甚大な被害を目の当たりにしたことで、地震の研究について調べてみたところ、研究に数学と物理を多く使うということを知りました。

数学を得意としていた山口さんは地震予知の研究のために自分の力を活かすことで、人様の役に立てるのではないかという考えに至り、漠然としていた進路もおのずと決まったとのこと。

東京大学大学院では異次元レベルの優秀な人たちに囲まれ、地震予知について研究する日々

九州大学理学部では、地震や火山についての基礎を学び、地震予知の手法などについても自分なりに研究を進めたと言います。その後、さらに道を究めるため、東京大学大学院に進みますが、そこで待っていたのは異次元レベルの優秀な研究者たちでした。

「東京大学大学院では、超優秀な人たちばかりに囲まれ、地獄のような日々でした。九大でいい成績を収めていたので、やっていけるだろうという自信があったのですが、初めて危機感を抱きました。生まれて初めて必死で努力したのもこの頃です。大変だったけれど、優秀な研究者に囲まれ充実した環境のもと、九大にいては出来なかった研究ができました。濃密な日々でした。人生で1番頭が良かった日々だったと思います。でも二度はやりたくない」と感じるほど、研究所で濃密な日々を過ごしました。そんな状況の中、「どうにかして地震を予知することができないのか」ということだけを考え、正味3年にわたり、地震予知について研究を進めてきました。

しかし、「火山噴火の予知はかなり精度が高くなっていますが、地震はただでさえ曖昧なメカニズムである上にどこで起きるか場所が分からない。それだと自分のやり方では地震の予知は難しいということが、やればやるほど分かってきた」と、深く研究すればするほど地震の予知の難しさを痛感した山口さん。「地震の予知はやはり無理。防災対策の方が大切」だと考えるようになりました。

その気付きを機に地震予知の研究からは離れた山口さんですが、これまでの研究内容を元に、自身の防災対策の一環として東京から福岡県北部へと移住してきました。現在は、日々の防災対策に努めつつ、塾講師として働く日々を送っています。

市内を通る活断層の直近の活動記録は数千年〜数万年前

そんな山口さんに北九州市で起こりうる地震、あるいは今後どのくらい『北九州がやばい』のかズバリ聞いてみました。

北九州市の防災ガイドブックには、平成24年の福岡県の調査(地震に関する防災アセスメント調査<福岡県>)によると、市内を通る活断層による地震が起こった場合、市内で最大震度6弱(一部6強)の揺れが想定されており、市内の死傷者は最大で4000人以上にのぼると予測されていると記載されています。

「北九州市には小倉東断層や福智山断層帯など複数の断層があります。それらの断層での直近の活動記録は数千年〜数万年前に遡ることから、今すぐ大地震が起きる可能性はデータの上では低いと思われます。ただ、それ以外の断層の影響を受けないとも限らず、対策はしておくに越したことはありません」と山口さん。

太平洋側で起きた地震の波は北九州まで伝わる際にいくらか弱まる

また、プレート境界の地震として懸念されているのが、南海トラフでの巨大地震の発生です。国の検討会(南海トラフの巨大地震モデル検討会(内閣府))によると、市内では最大で震度5弱~5強の地震が想定されていると北九州市防災ガイドブックに記載されています。

山口さんによると、南海トラフ地震をはじめ、日本の大地震の大部分は太平洋側に震源を持つものだと言い、これらの地震の波は太平洋側で発生したあとに北九州まで伝わる際にいくらか弱まると言います。

「北九州は直接太平洋側に面しておらず、太平洋からも距離があるため、太平洋沖ほどの被害はないと思われます。実際、北九州市は市政が始まって以来、震度5以上の地震はほとんど経験していません(2005年3月20日、福岡県西方沖地震で市の一部で震度5弱を観測)。このことが私が福岡北部に居住し、仕事している理由の一つです」と続けますが、それでもやはり『家屋の倒壊』や『火災』のリスクはあるとのこと。

そのため、日頃から避難所の場所の確認、自宅の家具を倒れにくくするための工夫、防災セットの準備などしておくと安心だと山口さんは説明してくれました。

防災対策に役立つ1冊「北九州市防災ガイドブック」

防災対策する場合に参考にしやすいのが「北九州市防災ガイドブック」です。

この防災ガイドブックには、土砂災害や洪水、高潮、津波といった災害に関する基本的な知識や避難に関する取り組みなどが紹介されています。もちろん、地震についての記載ページもあり、地震が起こった場合の避難のタイミング・ポイント、家具の転倒や落下を防ぐポイントなどが紹介されています。

「自分も地震体験車でリアルな地震を体験したことがありますが、震度6になったら何もできません。ただ、地面に倒れて流れに身を任せるしかありませんでした」と話す山口さん。大きな地震の場合は、ガスの元栓を閉めようと思っても体が動かない状況なので、自分が何もできないということを前提に、身を守るということを一番に考えてほしいと言います。そのためには、家具の転倒防止や避難経路の確認、食糧の備蓄など、普段からの地道な備えが大切になってくるのだそう。

最新の北九州市防災ガイドブックは、北九州市ホームページからも見ることができるので、いざという時に慌てないよう、日頃から確認しておきたいですね。

地震予知の研究で培った『科学的思考』を生徒たちに教えるのは非常に楽しい

今回、北九州の地震についていろいろと教えてくれた山口さんは、「本当は東京大学に行きたかった」という思いを胸に、九州大学合格後も次の東京大学大学院入試に向けて勉強を続け、東大合格をつかみ取りました。

夢の東大大学院でライフワークにしていた地震予知の研究からは離れてしまいましたが、その時に培った科学的思考を生徒たちに教えるのは非常に楽しいとのことで、浪人生や高校生に人気の講師として活躍中です。

◆取材協力:「大学受験のTG」(北九州市八幡西区折尾3-1-14)

※2022年6月24日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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