ラナ・デル・レイ「Summertime Sadness」: 自身最大のヒット曲にまつわる物語

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2010年代の音楽シーンはEDMに代表される明るいダンス・ポップ・サウンドに席巻されていたが、ラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)は自らの煤けた声にマッチした沈鬱で詩的なリリシズムでそんな状況をくぐり抜けてきた。

彼女以外の女性アーティストのほとんどは未来的なサウンドを目指していたが、ラナ・デル・レイは、1950年代や1960年代のアメリカーナ・ポップ・カルチャー、そしてキューブリック監督の映画『ロリータ』に影響を受けたエロティックなテーマ、あるいはハリウッドの黄金時代を音楽の中で表現することで有名になった。

ラナ・デル・レイは、2010年にデビュー・アルバム『Lana Del Ray A.K.A. Lizzy Grant』を制作し、自主制作盤として発表。その翌年、シングル「Video Games」のヒットをきっかけに、Interscope Recordsと契約を結んだ。そして2012年、自らのイメージを「ギャングスター・ナンシー・シナトラ」に変身させ、メジャー・デビュー作『Born To Die』をリリースした。

トリップホップ、バロック・ポップ、大作映画のような雄大なメロディーが融合した『Born To Die』には、シングルとしてリリースされ、彼女のメインストリームにおけるキャリアの初期を特徴づけたトラックが5曲収められていた。

その5曲とは「Video Games」「Born To Die」「Blue Jeans」「National Anthem」、そして「Summertime Sadness」だった。これらの中でも、特に「Summertime Sadness」はアルバムの中でもかなりアップビートな曲として群を抜く存在だったが、「Got my bad baby by my heavenly side, I know if I go, I’ll die happy tonight(天国のそばには悪い子がいる、行けばわかる、今夜は幸せに死ねる)」といった歌詞のおかげでやはり重みを持った内容になっていた。

「Summertime Sadness」のほろ苦い側面は、ミュージック・ビデオによってさらに強められた。このビデオには女優のジェイミー・キングとラナ・デル・レイが出演し、幸せな人生に自殺でピリオドを打つカップルを演じている。監督を担当したのは当時ジェイミーと結婚していたカイル・ニューマンだった。このメロドラマのようなストーリーは、この時期に流行していたインスタグラムのフィルターを通して描写されていた。

最大のヒットとなったREMIX

とはいえ、2013年には皮肉なことが起こった。フランスのハウスDJ/プロデューサーのセドリック・ジェルヴェが「Summertime Sadness」を弾けるようなダンスフロア・アンセムにリミックスし、ラナ・デル・レイの倦怠感をポップなトレンド曲に作り変えてしまったのである。それは、従来の彼女の作品が避けていたスタイルだった。それでもなお、ジェルヴェのリミックスの成功は無視できないものだった。ジェルヴェがリミックスしたヴァージョンは全米シングルチャートで最高6位にランクインし、ラナ・デル・レイにとって最大のヒット・シングルになっている。

ジェルヴェはこのリミックスについてビルボード誌で次のように語っている。

「僕の曲“Molly”が成功すると、多くの人から大物アーティストのリミックスを依頼されるようになった。僕にとっては、仕事を選ぶときにギャラの額はあまり関係ない。だから多くの依頼を断った。けれどラナ・デル・レイから依頼が来たときは、金額も聞かずに“すぐにヴォーカルを送ってください”とだけ頼んで、1日でバッキング・トラックを作ったんだ。あのときは、ヒットするかどうかは考えていなかった。とにかく彼女というアーティストが大好きで、尊敬していただけだった」

映画に愛されるラナ・デル・レイ

それからのラナ・デル・レイは数多くのアルバムをチャートのトップ10に送り込み、グラミー賞にも何度もノミネートされている。また、彼女のノスタルジックなサウンドはハリウッド映画でも人気となった。

2013年の映画『華麗なるギャツビー』には「Young and Beautiful」を、2014年の『マレフィセント』に「Once Upon A Dream」のカヴァーを提供。2014年のティム・バートンが監督した伝記映画『ビッグ・アイズ』では同名のテーマ・ソングを担当し、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされている。

そして2019年のギレルモ・デル・トロ監督の映画『スケアリーストーリーズ 怖い本 』ではドノヴァンの「Season of the Witch」をカヴァーしている。

夏にヒットするラナ・デル・レイ

またデル・レイは、日差しの強い季節、つまり夏に特化したヒット曲を出し続けてきた。「Summertime Sadness」に続いて、2015年の『Honeymoon』からは「High by the Beach」がシングル・カット。さらに2017年の『Lust For Life』からはエイサップ・ロッキーをフィーチャーした「Summer Bummer」がヒット。2019年の『Norman Fu**king Rockwell』ではサブライムの「Doin’ Time」をカヴァーし、その1年後にはジョージ・ガーシュインの「Summertime」をカヴァーしている。

ラナ・デル・レイの「Summertime Sadness (Cedric Gervais Remix Edit)」は2013年にリリースされたオムニバス形式のコンピレーション・アルバム『Now That’s What I Call Music! 48』に収録され、ケイティ・ペリーの「Roar」やダフト・パンクの「Get Lucky」といったポップ・ヒット曲と肩を並べている。

Written By Bianca Gracie

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ラナ・デル・レイ『Born To Die』
2012年1月27日発売

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