『ベイビー・ブローカー』赤ちゃんポストは社会の“歪み”の中心にあるギリギリの救済手段

『ベイビー・ブローカー』ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

赤ん坊をめぐる複数の視点

“闇のブローカー”という言葉は漫画などでなんとなく目にしていたが、ブローカーの意味をちゃんと知らなかったので調べたところ、手数料をもらって取引の仲介をする人(もしくは会社)ということらしい。つまりベイビー・ブローカーとは、赤ちゃんを手放す親と、赤ちゃんを欲しがっている親の仲介を行う者ということだ。

ソン・ガンホ演じるサンヒョンはクリーニング店を営む男。カン・ドンウォンは施設で働く男ドンスを演じている。その勤務先の施設には育てられなくなった子供を匿名で預けることが可能な「赤ちゃんポスト」が設置されている。2人はポストに入れられた赤ちゃんを施設で預からず、こっそり売り捌く仕事を裏稼業としていた。

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と、ここまで書いて、これが日常的にやっていることだとしたらブローカーではなくバイヤーなのでは? と思ったが、ある夜、子供を預けようとポストの前に来たものの施設の前に置いて帰ってしまった母親ソヨンが翌日、思い直して施設に来たところ自分の子がいないことに気づく。警察への通報を恐れた2人はソヨンに悪事を白状し、子供を高額で買い取ってくれる養父母を一緒に探すという不思議な関係になる。なるほど、今回のケースは確かにブローカーである。

この関係に人身売買を捜査する警官2人が加わって、それぞれの事情と思惑が交差する奇妙なサークルが形成される。

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行き詰まった社会のギリギリの救済手段

2000年にドイツのハンブルクの民間幼稚園で始まったとされる「赤ちゃんポスト」はヨーロッパで広まって以降、日本にも設置されている。韓国では2009年にキリスト教系の教会に設置されたのが最初で、他にも別の教会とお寺の計3か所に存在しているそうだ。2000人近くのベイビーが今まで預けられ、母親の約半数が未婚であったり未成年の場合も多いという。

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どうしても子供を育てられない親から子供を預かるという社会福祉的な側面を持つ赤ちゃんポストが、政府ではなく宗教団体を母体にもつ民間施設に開設され、救われない母子の状況をフォローしているという状況が国家の限界を感じさせる。かつ養子に関わる法律と現状の齟齬も起きていることを踏まえると、さまざまな歪みが発生しないわけがなく、その歪みの中心地点にあるのが「赤ちゃんポスト」なのだなと思った。

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なので『ベイビー・ブローカー』は「ポスト」を中心として、その周縁に蔓延るいろいろな矛盾がブローカーの二人、母親、警察、その中の誰が善人で誰が悪人なのか、ということを回転させていくところに興味深さがあった。それぞれの人物のセリフから垣間見えてくるバックボーンにより、互いの正しさが揺らぎ、ひいては赤ちゃんポストの存在が、ぐにゃぐにゃの地面に打ち立てられたギリギリの救済手段なのだという切ない納得感までもたらす。

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社会の病理が犯罪として表出するというのは一般的にされる話だが、この映画は監督が赤ん坊のブローカー行為という2人の男の犯罪によって社会が抱える問題を鮮やかに炙り出しながら、一方では一つ一つのケースは特殊であり一般化できない家族の問題でもあるということを描いたドラマであり、こんな辛い世の中、少しでも良くなってくれと願わずにはいられない作品だった。

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文:川辺素(ミツメ)

『ベイビー・ブローカー』は2022年6月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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