片桐仁、驚きの連続…日本画の伝統と革新、その全てが詰まった歴史ある展覧会「院展」

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月1日(土)の放送では、「そごう美術館」で開催された「院展」に伺いました。

◆歴史ある日本画の展覧会「院展」

今回の舞台は、神奈川県・横浜のそごう横浜店 6Fにあるそごう美術館。ここは1985年、百貨店の開業と同時に開館。デパートの催事場で行われる美術展とは一線を画し、学芸員が収蔵作品を管理する本格的な美術館として人気を博しています。

片桐は、そんなそごう美術館で開催されていた「院展」へ。「院展」とは「日本美術院」が主催する公募展で、同院の登録作家の他、一般からも作品を募集。内閣総理大臣賞や横山大観の名を冠した賞など多くの賞があり、現代日本画壇の巨匠から若手までの作品が一堂に会する歴史ある展覧会です。

なお、入選作品は東京都美術館で展示された後、一部が巡回展として全国を周りますが、このそごう美術館では開館3年目から「院展」を開催。同館恒例の展覧会として毎年多くの来場者を集めています。

日本画をこよなく愛する同館の学芸員・市塚寛子さんの案内のもと、片桐は会場内を巡るなか、まず注目したのはエッフェル塔を下から見上げた様を描いた前田力の「塔を行く」(2021年)。「これも日本画なんですね。ごっついぜ~、でこぼこしてるぜ~」と片桐が見入っていたこの作品は、作者の前田が鉄骨の曲線美や造形美に惹かれ、この絵を描いたとか。

前田は2021年に新たに"同人(どうにん)”に推挙された気鋭の日本画家。同人とは日本美術院の会員区分の最高位に位置する呼称で、同院を運営する存在のこと。その区分は院展に入選すると"研究会員”となり、その後も入選や受賞などキャリアを重ねることで"院友”、"特待”、"招待”とステップアップし、最後は同人に。

続いては、2007年に同人に推挙された宮北千織の「月影」(2021年)。これは、月光の美しい影の中に佇むのは青年がふさわしいと宮北が描いた作品で、片桐は一面に施された木目模様に注目。「この木目は木の板を貼っているわけじゃない。すごいなぁ」と感心しつつ、「あとは青年の表情ですよね。なんとも言えない、まるで仏像みたいな、内面をあえて全部出さない表情。これは難しいでしょうね」と舌を巻きます。

また、2017年に同人となった岸野香の「リフレイン」(2021年)を前に「細けえぜ~」と唸る片桐。

岸野の作品は爽やかな光が特徴的で、これはハンガリーのブタペスト駅がモチーフ。片桐は「ヨーロッパのカラッとして、ちょっと寒い感じの光がきていますよね」、「細やかな色が綺麗」とベタ褒め。院展ではこうした海外の風景を描いた作品も多いそうです。

◆伝統を刷新する最新型の日本画とは?

片桐は同人の作品に続き、一般参加の受賞作を鑑賞。「これは綺麗な色ですね」と見惚れていたのは、「東京都知事賞」に加え、横山大観の名を冠した「大観賞」とも呼ばれる「日本美術院賞」を受賞した、加藤厚の「葦間」(2021年)。

画中には若い葦と枯れつつある葦が描かれ、左上にカワセミ、右上にヨシキリ、下にカイツブリと3種類の鳥が。そして、ところどころに金が使われており、「こういうのが日本画っぽいなと思いますよね。すごく綺麗」と感服。また、必要な要素以外は描かれておらず「日本画といえば省略ですよね。日本画って感じがする」とも。

そして、同じく「日本美術院賞」を受賞した、1986生まれの若手作家・西岡悠妃の「サンサシオン」(2021年)を前に、片桐は「両方とも『大観賞』ですけど、全く違いますね」とビックリ。

とりわけ、「サンサシオン」は日本画らしくなく「これはもうすごい。日本画の振れ幅というか……」と目を丸くする片桐。さらには「院展っていわゆる権威として、"ザッツ日本画”みたいな印象があったけど、最初にエッフェル塔があり、葦があり、これがあると、もう何が良い絵なのか分からなくなってきますね。その基準が」とお手上げ状態。そして、「我々は日本で昔から描かれている絵が日本画だと思っていますが、これを見て『日本画ですね』とは思わない。自由なんですね」と考えを改めます。

さらに今回、最高賞「内閣総理大臣賞」を受賞した村岡貴美男の「循環」(2021年)も自由な発想の賜物。「シンメトリーで、真ん中に赤いゾーンがあって、海の中で命が生まれて、でも赤い。これは変わった絵だな~」と片桐は驚きを隠せません。

また、内閣総理大臣賞に次ぐ「文部科学大臣賞」を受賞した北田克己の「風の称号」(2021年)もまたインパクト大で、片桐は「この形、いいんですかこれで! Tシャツにするわけじゃないですよね(笑)」と驚嘆。

そこに描かれているのは馬と女性で、馬には翼が生え、希望の象徴として描かれていますが、特筆すべきは四角ではなくT字になっているキャンバスの形。同人になると出品時に審査されないこともあり、大きさや形が斬新な作品が少なくないとか。日本美術院は日本画の伝統を維持しながらも次の世代へ新しい美術を築くという志が当初からあり、そういった意味でも本作はとてもチャレンジングな作品となっています。

◆進化し続ける日本画に片桐も感服

最後は再び同人、巨匠と呼ばれる作家の作品へ。まずは、手塚雄二の「月乃葉」(2021年)。これは金を用い、あえて経年変化したように仕上げており、片桐は「綺麗ですね~」とうっとり。

手塚は2020年に明治神宮に屏風を奉納しているのですが、その前に奉納されたのは1920年で、当時奉納したのは日本画の大家で日本美術院の先輩・下村観山。それを聞いた片桐は「100年経って手塚先生に。日本美術院で繋いだわけですね!」と脈々と受け継がれる日本画の系譜に感嘆します。

そして、最後は今回の院展のキービジュアルにもなっている日本美術院理事長・田渕俊夫の「春爛漫」(2021年)。片桐は「これぞ日本画」と瞠目しつつ、「幹とかもはっきり描くわけではないんですけど、この存在感というか、リアリティがすごい」と絶賛。

田渕は、鶴岡八幡宮や智積院、さらには薬師寺などに絵巻物や襖絵、壁画を奉納されている名実ともに誰もが認める日本画界の巨匠。片桐は「確かにそういうところに飾られて、100年後、200年後の日本人が見ても『おぉ~!』ってなりますもんね。拝みたくなるような」と感慨深そうに語り、さらには「院展で上まで上り詰める、日本画のゴールはそこにある気がしますね」とも。

今回、現代日本画の伝統と革新を存分に体感した片桐は「初めて院展を見させていただいたんですけど、今の日本画のイメージを叩き込まされました。ジャンルを超えた、いろいろな表現、描き方があって、100年後、200年後の日本人が見たときに『日本っていいな』って思う絵なのかなと思いましたね」と率直な印象を語ります。

また、「あとは"同人”、今日覚えました(笑)」と苦笑いしつつ、「描き続けている間に視野もどんどん自由になっていくのかもしれないですね。そして、絵のサイズの制限やレギュレーションがなくなっていく、それも面白い話だなと思いました」と片桐。そして、「常に進化し続ける日本画を見せてくれる院展、その絵をデパートの上で見ることができるそごう美術館、素晴らしい!」と称え、進化し続ける日本画に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、鈴木信太郎の「白い服と黒い服の人形」

そごう美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものから、学芸員の市塚さんがぜひ見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。今回選ばれたのは鈴木信太郎の油絵「白い服と黒い服の人形」(1978年)。

そごう美術館では、1960年代に洋菓子店の包装紙などを手がけたことでも知られる鈴木の作品を、約170点所蔵しています。片桐が「その名のごとく!」と唸る通り、本作には白い服と黒い服の人形が描かれています。「この朴訥な……うまく描こうとか、そういう雑念のない、とにかくシンプル」と片桐はその印象を語ると、市塚さんが本作を好きな理由は「かわいいところ」と回答。さらに、「人間にも見えなくて、でも人形に見えるというのがすごい」と絶賛していました。

最後は、ミュージアムショップへ。そこも他の美術館とは異なり、寝具売り場の横に設けられ、仏像のレプリカが並ぶその様に「すごくないですか!」、「度肝抜かれました!」と驚く片桐。

店内には鈴木信太郎のクリアファイルやチケットファイル、トートバッグなど定番のグッズがあり、「いいですね~」と興味をそそられるなか、とりわけ片桐の琴線に触れたのはノート。さらにはメモ。そして「これはいい!」とさまざまな種類のマグカップに興味を示していました。

※開館状況は、そごう美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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