文政権 南北関係優先で金正恩氏の謝罪文偽造疑惑や人権軽視の前科も

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大統領就任式で文在寅前大統領を握手する尹錫悦新大統領 出典 KOREA_The_20th_President_Inauguration_Ceremony_524 / koreanet

金正恩氏の「謝罪文」まで偽造した疑い

北朝鮮と融和で韓国人見殺しの文在寅政権 新政権の「清算」の標的にの続き。

 韓国国内での事件の反響の大きさに驚いたのか、2020年9月25日午後2時、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長から「新型コロナ対応で大変なところを韓国国民に失望を与えたとすれば申し訳なく思う」という内容の「謝罪文」が届いたとし、大統領府の公式サイトにその全文が掲載された。

 しかし、謝罪文といっても金委員長が統一戦線部に指示して作成させ送ってきた「通知文」だった。

 しかも、この通知文の文面は、北朝鮮が使用するハングルのつづり字や文体ではなく、明らかに韓国側で作成された文書だという指摘が脱北者からもたらされた。

 その翌日には、何の説明も発表もなく、この通知文が北朝鮮風に書き改められ、再掲示されていた。

 龍谷大学の李相哲教授の調べによると、再掲された文書には、たったA4用紙1枚の文面で、60か所近くの修正や追加があったという。

 これが本物の外交文書だとしたら、明らかに異常だったが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、「北朝鮮の謝罪は異例だ」として高く評価し、国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長も、この事件に金正恩氏は一切関与しておらず、あくまで男性とともに新型コロナウイルスが侵入することに対処するための現場の判断だったと強調した。

 つまり、事件での北朝鮮と金正恩委員長の責任を回避し、事件を沈静化させる方向で議論が進んでいるように見えた。

遺族は文在寅氏を殺人幇助などで刑事告発する予定

 男性の遺族の中には当時、高校生だった長男もいて、文大統領に手紙を書き「父は北に亡命する意志も理由もなかった」と訴え続けた。

 「越北者」の家族とされると差別され就職も不利だと言われる。こうした遺族の涙の訴えと執念が、尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権を動かし、今回の最終捜査結果の発表で、前政権の判断の誤りが公になる結果となった。

 遺族は今、文在寅氏を男性の行方に関する書面報告があってから3時間以上も救助に向けて何の措置もとらなかったとして殺人幇助か職務怠慢容疑。また、徐薫(ソ・フン)前国家安保室長に対しては公務執行妨害容疑で、それぞれ告発することにしている。

 文氏が刑事裁判の法廷に立つ可能性も出てきた。

 尹大統領もこの事件の真相解明を選挙公約に掲げていた。

 尹大統領は、越北を否定した今回の発表について、「国の最も大きい責務は、国民の命と財産を守ることだ。遺族の真相解明の要請に前政権はきちんと応じなかった」と批判した。

文在寅前政権への清算の動きが始まっている韓国(ソウル市役所前・著者撮影)

北朝鮮との関係を重視するあまり人権を軽視

 実は、文政権にはもう1つ前科があった。

 2019年11月、日本海で拿捕した北朝鮮のイカ釣り漁船の乗組員2人が、韓国への亡命を希望したにもかかわらず、板門店を通じて直ちに強制送還した。

 2人は、漁船の同僚16人を殺害する事件を起していて、北朝鮮に戻したら確実に死刑になると知りながら、何の取調べも事情聴取もせずに北朝鮮に強制送還したことがあった。

 文在寅政権は、南北対話と金正恩政権との関係を重視するあまり、彼らの意向を無視することができず、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏の罵詈雑言にも反論せず、自国民が海上で射殺され、遺体が焼却されても何の抗議もできなかった。

 あげくの果てには、北朝鮮の同胞が亡命を求めてきても、その願いを一顧だにすることなく簡単に突き返したのである。

 「慰安婦」や「徴用工」など被害者中心の人権重視を標榜してきた文政権だが、実際は、人権には何の配慮も示さない冷酷無情の政権だった。

 今回の政権交代は、前政権のそうした実態を白日の下にさらす結果になった。

 北朝鮮との関係を含めて、前政権が行った不透明な政策や不正など積弊の数々を清算する動きが始まっている。

海洋警察庁幹部9人全員が辞意を表明

 最後にこの事件の真相究明を巡る新しい動きをお伝えしておく。

 24日、政権与党「国民の力」のタスクフォースの調査結果によると、事件直後に韓国軍合同参謀本部が、大統領府青瓦台に最初に報告した文書には、「自ら越境した可能性は低い」と書かれていたという。

 ところが、翌未明、青瓦台が関係長官対策会議を開いたあと、政府は男性が自ら越境したと、判断を変えたのだという。

 タスクフォースは、判断を変えるまでの間に青瓦台で何があったのかを確認するためには、大統領指定記録物の公開が必要だとした。

 男性の遺族側も24日、事件当時の文在寅前大統領の足取りを公開するよう求めた。一方、海洋警察庁の丁奉勳(チョン・ボンフン)庁長を含む幹部9人全員が24日、辞意を表明した。

小須田 秀幸(こすだ ひでゆき) 
韓国在住4年目。KBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。日韓の歴史の舞台となった場所を訪れ、韓国の今を紹介するコーナー「歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。