『ソー:ラブ&サンダー』予告編で話題、ガンズ・アンド・ローゼズ「Sweet Child O’ Mine」を振り返る

Guns N’ Roses photo - Courtesy: Ross Halfin

発売から約35年が経つガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)の大ヒット曲「Sweet Child O’ Mine」が、2022年7月8日(金)公開予定のマーベル・スタジオ劇場公開最新作『ソー:ラブ&サンダー』の予告編に起用されて話題となっている。そんなこの楽曲について音楽評論家の増田勇一さんに寄稿頂きました。

<YouTube予告編:「ソー:ラブ&サンダー」>

バンド唯一の全米1位曲

ガンズ・アンド・ローゼズの「Sweet Child O’ Mine」が米ビルボードの調べによる“Hot Hard Rock Songs”チャートで首位を獲得したとのニュースが届いたのは、去る4月末のこと。1987年夏に発表された彼らのデビュー・アルバム『Appetite For Destruction』の収録曲であり、翌年6月に同作からの3曲目のシングルとしてリリースされたこの楽曲は、同年9月には全米シングル・チャートにおいて2週連続で1位に輝いている。ちょうどアルバム自体が発売から丸1年を費やしながら首位に到達した翌月のことだった。

今となっては信じ難くもあることだが、彼らはいわゆる鳴り物入りの新人としてデビューしたわけではなく、同作が全米アルバム・チャートに初登場した際のランキングは182位だった。しかし絶え間ない精力的なツアー、インパクトの強い「Welcome To The Jungle」のビデオ・クリップなども効果的に作用しながら、このバンドの存在は1年がかりで浸透していったのだ。

しかもこの「Sweet Child O’ Mine」のシングルは“危険な香りのするバンド”といったイメージが定着しつつあった彼らの逆の一面を感じさせるものでもあり、それまで以上に幅広い層へのアピールへと繋がっていくことになった。

当時のバンドメンバーの発言

筆者の手元には1987年のアルバム発売前に米ゲフィン・レコードにより制作されたプレス資料があるのだが、そこにはメンバー自身による収録曲解説が含まれており、アクセル・ローズはこの楽曲について次のように語っている。

「これは、この曲を作っていた当時のガールフレンドに関する実話。まず詩として書き始めたものがあったんだけど、煮詰まったのでそのまた放置してあった。ところが、のちにスラッシュとイジーが一緒に曲作りをしているところに俺が入っていった時、イジーが弾き始めたリズムを耳にした途端、頭の中にあの詩が頭に浮かんできてね。そうやって一気に嵌まっていったんだ。ロック・バンドの多くには、マジでキツい事態に陥った時でもない限り感傷や情感を曲に反映することに腰が引けてしまいがちなところがある。これは俺が初めて書いた前向きなラヴ・ソング。ここまでポジティヴなのを書いたやつは過去にいないと思う」

このアクセルの発言に呼応するように当時のイジー・ストラドリンも「これは本物のラヴ・ソングだ」と言い切り、また、ダフ・マッケイガンは「俺とスティーヴン(・アドラー)にとっては、アルバム中いちばん苦労した曲だと思う。なにしろ安定感を保ちつつ、ずっと感情を込め続けないとならなかったからね」とレコーディングの過程を振り返っている。

この曲がリアルなラヴ・ソングであるということを、当時の彼ら自身も強調したかったのだろう。ほぼ演奏シーンにより構成されているこの楽曲のビデオ・クリップに、当時の各メンバーの実際のガールフレンドが登場しているのもそうした意向の表れだったのかもしれないし、当時のアクセルの発言には「一度撮影してみたところボン・ジョヴィのビデオかと思うようなものが出来てきたので、撮り直した」というのもある。

そして当然ながらこの歌詞の基になったアクセルのポエムの主人公もその映像の中に登場する。のちに彼とごく短い結婚生活を送ることになるエリン・エヴァリーである。当時モデルをしていた彼女は、ザ・エヴァリー・ブラザーズのドン・エヴァリーの娘にあたる。アクセルのお気に入りのバンドのひとつにナザレスがあるが、彼らの最大のヒット曲である「Love Hurts」(1976年、全米8位)は、そのザ・エヴァリー・ブラザーズのカヴァーだったりもする。

映画での使用

また、「Sweet Child O’ Mine」という楽曲自体は、1999年には映画『ビッグ・ダディ』のサウンドトラック盤の中で、シェリル・クロウによってカヴァーされており、彼女が1998年にリリースした第3作『The Globe Sessions』の新装盤が翌年登場した際にはボーナス・トラックとして追加収録されている。そしてこのカヴァーは、彼女にグラミー賞(Best Female Rock Vocal Performance部門)をもたらすことになった。

映画といえば、この楽曲は1988年に公開された『悪夢の惨劇』というアメリカのホラー映画でもクロージング曲としても使用されているが、それは単純に、当時のガンズ・アンド・ローゼズがまだ新進気鋭のバンドに過ぎず、使用料がほとんどかからずに済むという理由からだったようだ。

また、バンドがこの楽曲のビデオ・クリップを制作することになった際、同映画の映像を盛り込む計画も立てられていたようだが、それはエリン・エヴァリー側からの「自分のことが歌われている曲のビデオにホラー映像が使われるのは嫌だ」という反対意見により却下となったらしい。実際、こうしてこの楽曲が長きにわたり愛されてきたことを考えれば、それは賢明な判断だったというべきだろう。

『ソー:ラブ&サンダー』の予告編

そして今年、ふたたびこの楽曲に注目が集まっていることにも実は映画が大きく関係している。この7月8日(金)に日米同時公開を迎えるマーベル・スタジオの劇場公開最新作『ソー:ラブ&サンダー』の予告編映像の中でこの楽曲が使用されていることが、今回の再ヒットへの引き金になっているのだ。

実のところ、この映画自体にとって「Sweet Child O’ Mine」という楽曲の存在がどのような意味を持っているのかは定かではないが、ソーが“雷神”であることと、この曲に含まれている「雷と雨が静かに通り過ぎていきますように、と子供の頃に身を隠しながら祈った暖かで安全な場所」という歌詞には何かしらリンクする部分があるのかもしれない。その答え合わせについては映画の公開を待ちたいところだ。

かつてシェリル・クロウによるこの楽曲のカヴァーが人々の目をガンズ・アンド・ローゼズに向けさせることになった当時、ガンズ・アンド・ローゼズはアーノルド・シュワルツェネッガー主演による映画『エンド・オブ・デイズ』のサウンドトラックに「Oh My God」という新曲を提供している。ただしその頃のガンズにはスラッシュもダフも不在であり、アクセルが率いるバンド自体の活動再開もすぐには叶わなかった。

それからすでに23年もの年月が経過しようとしているわけだが、『ソー:ラブ&サンダー』が注目を集めている現在、彼らはツアーの日常に身を置いている。去る6月4日からスタートしている欧州ツアーでは、いまだに謎の部分の多い新曲「Hard Skool」が披露されている他、「Back In Black」や「Walk All Over You」といったAC/DCのカヴァー(アクセルが同バンドのツアーでピンチヒッターを務めた頃からすでに6年が経過している)なども登場して話題を呼んでいるが、当然ながらこの「Sweet Child O’ Mine」も演奏されている。

ガンズ・アンド・ローゼズにとって現時点において唯一の全米No.1シングルということになるこの楽曲が、今後どのような物語を歩んでいくことになるのかに注目したい。そして同時に、この曲が「唯一のNo.1シングル」ではなくなる日の到来にも期待したいところである。

Written By 増田 勇一

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