<書評>『宮古先人の足跡』 刻苦勉励で新境地開く

 宮古人材史研究会(代表・垣花豊順、波平勇夫)から『宮古先人の足跡』が刊行された。

 取り上げられているのは作曲家の金井喜久子、歴史家の慶世村恒任、稲村賢敷、医師の砂川正亮、物理学者の工藤恵栄の5氏である。

 作曲家の金井は東京音楽学校(現東京芸術大)作曲科を卒業して、作曲家とし活躍した。作曲した曲は交響曲やオペラ、歌曲、舞台音楽など多岐にわたる。中でも「交響曲第1番ハ短調」は女性作曲家による日本初の交響曲だとされる。1972年5月15日、沖縄の祖国復帰記念式典では金井が作曲した祝典序曲『飛翔』が演奏された。金井は「沖縄の音楽は世界の宝」だと、その普及に一生をささげた。

 宮古の歴史を語るとき、慶世村恒任著『宮古史伝』と稲村賢敷著『宮古島庶民史』の話題は不可欠である。

 慶世村は宮古歴史研究の基礎を築き、初めて体系化した人で、「宮古研究の父」として碑が建立されている。稲村は日本・琉球やアジアの広がりの中での宮古史の独自性を解明した。

 医学博士の砂川正亮は東京医学専門学校(現東京医科大学)を卒業後、奈良県庁の衛生課長として、奈良県の結核撲滅のために力を注いだ。その功績により叙勲を受章した。七又公民館向かいに「砂川正亮生誕の地」の碑が建立されている。

 物理学博士の工藤(旧姓豊見山)恵栄は保良出身、東京教育大の教授を務めた。専門は分光学と光物学。試料(物質)に光(電磁波)を照射、物質が放出または吸収した光をスペクトルに分解して、その物質の種類、性質、構造などを研究する物理学の分野である。氏は自ら「赤外分光光度計」を開発して、研究に活用、その成果は論文や著書にまとめられ、その道のバイブル的存在になっている。

 取り上げられた先人たちには共通点がある。貧困や後進性の中で、あるいは、沖縄に対する偏見がある時代に郷里を愛し、誇り、刻苦勉励、新境地を切り開いてきた。その影響には計り知れないものがある。

 (仲地清成・元県立高校長)
 宮古人材史研究会 垣花豊順氏(琉球大名誉教授)、波平勇夫氏(沖縄国際大名誉教授・元学長)らを中心に活動。今回は5人の先人の功績などについて、研究者ら9氏が執筆した。
 
宮古先人の足跡 宮古人材史研究会
A5判 160頁

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