【インドネシア居残り交換日記】 Day 21 宇田川朋美(東ジャワ・クディリ) 2020年6月1日 こんな時だからこそ、家でおいしいものを

私はインドネシア第二の都市スラバヤから約100キロ南西に位置するクディリ(Kediri)という街で、日本で14年間ケーキ修行を積んだインドネシア人の夫と「パティスリーアフマドアリス宇田川」という日本仕込みのケーキ屋をしています。おいしく繊細な日本のケーキに魅了された夫が、母国インドネシアのヘビーで体に悪そうなケーキを変えたい、日本のおいしいケーキを広めたい、と開店しました。

クディリは「グダンガラム」というインドネシア大手のたばこ会社の発祥地なので、街にはマクドナルド、吉野家やモールもあり、わりと栄えています。しかし、一歩中に入れば田園風景が広がる、のんびりした田舎です。

たばこ会社発祥というほかに、木材が豊富な土地なので、海外と取り引きする裕福な華人が住んでいます。スラバヤとクディリの両方に家を持っていて、平日はクディリ、週末はスラバヤで過ごす人が多いです。逆に、地元のジャワ人は、平日はスラバヤへ出稼ぎに行き、週末はクディリに帰る人が多くいます。

ですから、今回の新型コロナ・ウイルスの感染を予防するため、国道に警察を配備し、マスク着用や、車に乗っている人の体温や乗車人数などを確認しています。裏道の大半は、地元民以外は通れないように封鎖されています。また、街の大通りには簡易手洗い所が設けられ、市内のモスクはほぼ閉鎖されています。

簡易手洗い所(髪を洗っている人もいた……)

封鎖された道

インドネシアで新型コロナ・ウイルス感染が始まったたころ、街は閑散としていました。しかし、断食月が始まる前と断食明けの大祭(レバラン)前は、市場やスーパーや洋服屋はいつも通りの人であふれていて、レジを待つ人は詰める詰める。前の人との間隔を空けていると、どんどん私の前に人が入り、後ろに並んでいる人には「前に詰めて」と諭(さと)される始末。感染は大丈夫なのだろうかと心配でした。

レバラン間近のクディリの大通り

スーパーのレジ待ちの行列

その矢先、レバランの4日前に、スーパーの店員から新型コロナ・ウイルス感染者が3人出たとの情報が飛び交い、一気にそのスーパーから人が消えました。

レバランは、政府があいさつ回り自粛を推進していましたが、いつものレバランとさほど変わらない人出があったように感じます。

現在、東ジャワで感染拡大していますが、緊張感は薄くなっている感を受けます。マスクを着用し、小道の封鎖は続けていますが、レバラン以降、人出は増えています。

ナシ・トゥンパン(nasi tumpang)というクディリの名物料理があり、夜になると街の大通りに売り子が並びます。レバラン前に、売り子はほとんどいなくなっていたのに、レバラン後には、ほぼ普通に売り子も客も戻って、店先で食べています。

当店の話に戻ります。

当店のお客様の大半はインドネシアの方です。2014年に開店した当初は、華人のお客様がほとんどでした。日本ですとクリスマスが一年で最も忙しいのですが、当店は旧正月が一年で最も忙しい時期です。

少しずつ、ジャワ人のお客様にもご利用いただくようになってきてはいましたが、正直、クディリだけでの売上では厳しく、スラバヤ駐在の日本人の方への配達、カフェへの卸し、ジャカルタやチカランのバザーに参加することで、収益を得させていただいてきました。

しかし、コロナ・ウイルスの影響で、クディリの店舗だけでやっていかなくてはならなくなり、これから進学する子供たちや借金を抱え、どうしたものかと主人と頭を抱えました。

試行錯誤の末、定期的な換気やスタッフのマスク着用などの感染予防はもちろん行った上で、市内での宅配無料サービスをスタートしてみました。すると、ありがたいことに、「こんな時だからこそ、お誕生日はちゃんとしてあげたい」、「こんな時だから、家でおいしいものを食べたい」というお客様が多くいらして、毎日、ご利用いただけています。

最近、クディリのお客様の間で人気のアルファベットケーキ

また、口コミや、インドネシア大手新聞社である「ジャワ・ポス」の地域情報欄に掲載していただいたお陰で、新規のジャワ人のお客様からの問い合わせや利用が増えました。ちょうど断食月からレバランまで、毎年、閑古鳥が鳴いていたこの時期も、お陰様で開店6年目で初めて忙しかったです。

他県のお客様からもケーキが食べたいという声を多くいただき、どうにかならないか、何かできないものかと考えています。

少しずつですが、私たち夫婦の願いであった、日本のケーキのインドネシアへの浸透ができてきたことはとてもうれしいですし、店作りを通して持てたインドネシア各地の方とのつながりは宝物だなと改めて思いました。

新型コロナ・ウイルスの早い収束と皆さんのご健康を心から願っています。

インドネシア人には、初めはインドネシア風ケーキだと思われて見向きもされなかったが、試食していただき、今では一番人気のロールケーキ

宇田川朋美(うだがわ・ともみ)
2014年に夫の故郷であるインドシア・ジャワ島に移住し、東ジャワ島クディリ州に、ケーキ屋「パティスリーアフマドアリス宇田川」を夫婦で開店。夫、子供5人、義母、義姉夫婦、義弟の総勢12人とヤギ4匹と一つ屋根の下で暮らしている。

Pâtisserie Achmad Aris Udagawa
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