全国初、受刑者が協力 絶滅危惧種守の保全 喜連川社会復帰促進センター

絶滅危惧種に指定されているチョウ「シルビアシジミ」(うじいえ自然に親しむ会提供)

 受刑者が絶滅危惧種の保全に協力-。法務省は本年度から、栃木県さくら市の「喜連川社会復帰促進センター」で、希少な生物や植物を守り育て、命の大切さを学ぶ新たな受刑者処遇を導入した。全国の刑務所で初の取り組みという。地域と連携した「サステナブルプリズン(持続可能な刑務所)」を新たに掲げ、再犯防止と環境保全の融合を目指す。地元の自然保護団体や行政も活動を歓迎し、後押ししている。

 同市の西側を流れる鬼怒川の中流域は、水の流れが急で水位の変化が激しく、全国的にも珍しい自然環境が残されている。絶滅危惧種に指定されている在来種のチョウ「シルビアシジミ」や、キク科の「カワラノギク」が生息する。

 こうした環境を守ろうと、住民団体の「うじいえ自然に親しむ会」が保全に注力。法務省は、木工品の製作や金属部品の加工といった従来の刑務作業だけではなく、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を含め、社会課題の解決を見据えた受刑者の処遇を検討する中、同会の活動に着目し、協力を申し入れた。

 同センターでは4月から、同会の助言を参考に、受刑者はシルビアシジミの幼虫のエサとなる「ミヤコグサ」と、カワラノギクを12個のプランターで栽培している。育てた植物を今後、受刑者自らが河川敷に移植することも計画中という。

 同会長の高橋伸拓(たかはしのぶひろ)さん(48)は「種を守る意味や命の大切さを受刑者に伝え、再び犯罪を起こすことがないよう協力していきたい」と力を込める。

 同センターでは本年度、施設内で出た生ごみを堆肥化して活用する有機農業や、ニホンミツバチの養蜂など、受刑者の環境教育にも取り組み始めた。農産物などは地元の道の駅での販売も計画中で、さくら市の担当者は「共に連携しながらSDGsを推進したい」と意気込む。

 法務省矯正局の森田裕一郎(もりたゆういちろう)企画官(51)は「地域住民と環境保全に取り組み感謝されることで、自己肯定感の向上につながる。『社会の役に立っている』という実感は再犯を防ぐ力になる」と期待した。

 同センターは初犯や心身に障害のある受刑者を収容する。定員は約2千人。

受刑者がプランターで育てているミヤコグサとカワラノギク=6月中旬、さくら市喜連川

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