大阪のIR、2029年開業に向け加速する人材育成の現場をのぞいてみた 本場のポーカー「テキサスホールデム」が若者にブーム

大阪市のディーラースクールでの授業風景=4月

 大阪でのカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開業をにらみ、関連企業が人材育成を急いでいる。目標とする2029年の開業に向けて運営に関わる米企業は関西の大学と連携してリーダー層の養成に取り組む。カジノディーラー学校は新型コロナウイルス禍で落ち込んだ入学者数を回復させ、遅れを挽回しようと模索している。足元では若者の間で、世界の主要カジノで親しまれるポーカー「テキサスホールデム」のブームが起きており、カジノゲームへの関心が早くも熱気を帯び始めている。(共同通信=坂手一角)

 ▽ラスベガスで研修

 米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人は今年3月、関西学院大や近畿大など6大学から参加した計50人の学生に向けたオンライン研修会を開いた。IRの事業運営がテーマで、MGMのエドワード・バウワーズ社長は「IRは人々に感動と驚きを与える、やりがいのあるビジネスだ」とIRビジネスの魅力を訴えた。
 MGMは大阪・夢洲(大阪市此花区)での施設運営を担う「大阪IR株式会社」の中核株主だ。カジノや国際会議場などが一体となった施設は日本で前例がなく、運営を担う人材を養成しようと、20年から研修プログラムを実施してきた。同年には本場の米ラスベガスに学生を2週間招き、施設の規模感や複雑な運営の仕組みを学んでもらった。

MGMが米ラスベガスで行ったIR研修=2020年2月、米ラスベガス

 MGMの広報担当者は研修の背景について「日本では、ホテルやリゾート施設の国際的なマネジメント経験や知見を持つ人材不足が課題で、教育機関や基盤も整っていない」と指摘する。今後も産学連携を進めながら「学生にグローバルなマインドを育む契機を提供し、日本のインバウンド観光の将来を担う人材の育成に貢献したい」とコメントした。
 3月のオンライン研修に参加した京都大経営管理大学院の学生は「IRは、大阪・関西で新たな日本の文化を形成、発信するという挑戦であり、日本の魅力を最大限に引き出していくチャンスだと感じた」と感想を述べた。開業までの間に「世界の観光地や統合型リゾートを視察し、日本の魅力を最大限に生かす方法を考えたい」と話した。
 研修には大学から新規の参加申し込みが相次いでいるという。コロナ禍を受けて2021年以降はラスベガスでの現地研修を実施できていないが、23年からは再開したい考えだ。

 ▽大阪で2千人規模のディーラーが必要に

 新型コロナの流行で、ディーラー養成所も大きな打撃を受けた。大阪や東京に教室を構える「日本カジノスクール」は、感染防止のために体験入学イベントを自粛した影響などで21年度の入学者は約50人にとどまり、18年度の3分の1以下に落ち込んだ。スクールは対策として、今年1月からオンライン動画教材を採用した。トランプやルーレットを扱う実技や、外国人の接客に使う「カジノ英会話」など全ての授業をオンラインで見られるようにし、学習の利便性を高めた。
 この4月からは教室での体験入学も再開した。同月には大阪府と市がIRの区域整備計画を国に認定申請したほか、新型コロナの感染状況が落ち着き始めたことで、今後は復調に弾みがつくと期待している。

サミーが東京・目黒に出店したアミューズメントカジノ=東京都目黒区(同社提供)

 4月に入学した堺市の永井祐太さん(24)は「ニュースで大阪にカジノができる可能性があると知り、ディーラーという仕事に興味が湧いた。現在は日雇いの仕事が多いが、卒業後はカジノ関連の仕事をしたい」と語った。
 大阪IRは2千人規模のディーラーが必要になるとされる。同スクールではこれまでに約千人が卒業し、約2割が海外のIRに就職した。大岩根成悦校長は「ディーラーはIRの核となるカジノでの最重要ポジションだ」と強調し、育成を急ぐ考えを示した。

 ▽「テキサスホールデム」って?

 ディーラースクールを卒業した若者の当面の就職先として、お金を賭けずにカジノゲームを楽しむ「アミューズメントカジノ」がある。本場のカジノで親しまれるルールのポーカー「テキサスホールデム」が若者の間で昨年から流行し、にぎわいを見せている。大阪・北新地の「IRカフェ」では毎月、テキサスホールデムの成績を競うトーナメントを実施しており、5月は約70人が参加した。全国にある同業店の成績優秀者を集めた大規模大会も盛り上がりを見せているといい、カフェの責任者は「(流行の影響で)大阪や東京でアミューズメントカジノの店舗数がすごい勢いで伸びている」と語る。

アミューズメントカジノ「IRカフェ」でポーカーをする客ら=5月24日、大阪市

 ポーカーには複数の遊び方があり、日本で主に遊ばれてきた「ドローポーカー」は、実は世界では主流ではないという。遊技機メーカーのサミーによると、テキサスホールデムが最もメジャーな遊び方で、世界の競技人口は約1億人に上る。人気スパイ・アクション映画「007」シリーズの「カジノ・ロワイヤル」(06年公開)で、主役のジェームズ・ボンドがこのポーカーで敵と勝負するシーンもある。
 基本ルールは、プレーヤーごとに配られた2枚のトランプと、場で段階的に公開されていく5枚のカードを合わせた7枚のうちから計5枚を選択して「ワンペア」や「ストレート」などの役を作り、役の強い人が勝つというものだ。プレーヤーは手元や場のカードを見て、他のプレーヤーに勝てそうなら賭けるチップを増やし、勝ち目が薄いと思えば降りることもできる。手札が弱くてもチップを増やして相手にプレッシャーをかけ、ゲームから降ろすこともできる「心理戦」の側面が強い。

サミーのゲームアプリ「エムホールデム」(C)Sammy 2021

 サミーは昨年7月、テキサスホールデムのスマホ用アプリ「エムホールデム」を配信したところ、主に20~30代の男性に人気となり、ダウンロード数が70万を超えるヒット作となった。同社担当者は「テキサスホールデムは面白く、世界的に有名なので、国内でブームを起こそうと開発した」と語る。サミーは東京でアミューズメントカジノ「エムホールデム目黒」も昨年に出店。初心者向けのポーカー講習もあり、アプリで遊んだことをきっかけに来店する人も多いという。
 動画投稿サイト「YouTube」上で関連動画が人気なこともブームを後押ししている。プロポーカープレーヤーの横澤真人さん(29)のチャンネル「世界のヨコサワ」では、横澤氏が世界大会で活躍する様子を見ることができ、チャンネル登録者数は約70万人に上る。
 大阪市の田和拓也さん(23)は、横澤氏の動画を見て興味を持ち、約1年前から北新地のIRカフェに通い始めたという。「数学的な戦略や心理面、運が合わさって勝敗が決まるところが面白い。大阪にIRができたら遊びに行ってみたい」と語った。

ポーカーファンに人気のYouTubeチャンネル「世界のヨコサワ」

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