飲食店主の思い引き出す「オレ」の正体は 京都・福知山の情報サイト編集長の戦略

「ふくたん」の編集作業をする倉田さん(福知山市厚東町)

 明るくおしゃべりな「オレ」が、京都府福知山市の飲食店を紹介するエッセーを手がける。「『オレ』の視点はこの街の誰かに当てはまる」と、客目線で店主の人生や店の歴史に迫る。倉田楽さん(61)は雑誌編集者だった経験を生かし、2年前から地元情報を発信するサイト「ふくたん」の編集長を務める。

 飲食店を巡る不定期の連載を始めたきっかけは、新型コロナウイルス禍だった。店は軒並み休業し、取材を受けてもらえなくなった。打開策として取り入れたのが、客の「オレ」が店に飛び込み、食べながら交わす会話から店主の思いを引き出す手法だった。

 「オレが(料理の)感想を伝えれば、店主は満足そうな笑顔で返してくれた」「店主の誠実な人柄もまた、この店の隠し味になっている」―。料理の内容や店主とのやりとりを臨場感たっぷりに描く。時には「オレ」のエピソードも交え、読者の共感を誘う。

 同市大江町出身。高校2年の時にファッション誌に魅了され、映画や音楽など都会的な情報に憧れた。金沢市の大学在学中に「情報を受け取るしかできない読者と発信者の関係性を変えたい」と、21歳でタウン誌を発行し街の話題を探した。だが、創刊号で経営が立ちゆかなくなり大学をやめた。

 その後、同市に拠点を置く出版社に就職。情報誌の編集者として、映画監督北野武へのロングインタビューを担った。編集長、東京支社長を経て40歳で独立し、経済や歴史書の執筆を請け負った。締め切りに追われ「地元のことを考える余裕はなかった」。

 だが、母の体調悪化で一変する。2019年に帰郷し、ライターとして「ふくたん」の立ち上げに加わった。当初は「地元貢献の意志は薄かった」というが、取材を重ねるうちに、物事の背景や人柄を伝えたいと考えるようになった。

 交流サイト(SNS)の普及で情報伝達は速くなったが、深掘りした記事は少ないと感じる。「読者が触れられる情報の幅を広げたい」。その信念はライターを始めた21歳の時と変わっていない。

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