「聞こえない声は声じゃない」“ふるさと復興”へ動き続けた住民の魂の叫び 熱海土石流から1年

今週末の日曜日、7月3日で熱海土石流災害から1年が経ちます。復興に向けて災害直後から地元のために行動してきた住民の1年を振り返ります。

今年4月にオープンしたあいぞめ珈琲店(静岡県熱海市伊豆山)。土石流災害後、地元の憩いの場になっています。

<あいぞめ珈琲店 高橋一美さん>

「めちゃめちゃありがたいですよ。パワースポットですよ。みんなのエネルギーをここに集めてもらって。前向く言葉しかないし、励まされますね」

このカフェを立ち上げた高橋一美さん(45)。土石流被害にあった伊豆山地区の出身です。

2021年7月3日、高橋さんはあの日、土石流を目の当たりにしました。生まれ育った地元が大量の土砂に飲まれるのを見て、支援活動を始めます。弁当店を営んでいたことから被災者に食料などを配達。SNSで活動を発信し続けたことで、徐々に仲間が増え、ボランティア団体「テンカラセン」を立ち上げました。

小学校への花の寄付や献花台の設置。大みそかには伊豆山神社の参道に復興を願うキャンドルを灯すイベントを行い、義援金を集めました。そして2022年1月、人がつながる拠点を作りたいとカフェの建設に乗り出しました。クラウドファンディングで募った資金は1か月足らずで目標額を超え、4月に「あいぞめ珈琲店」がオープンしました。

<地元の客>

「楽しみが一つ増えたみたい。あんまり外出できないから、ここに来ればみんなに会えるし」

活動を続けてきて高橋さんが感じているのは、途切れてしまった地元のつながりでした。そこで、高橋さんが次に取り組むのは「新聞づくり」です。

<あいぞめ珈琲店 高橋一美さん>

「テンカラ新聞と言って、伊豆山で活動してくれている団体とか町内会とかを一つにまとめたものになっています。いろんな団体が動いてくれることによって、こんなにいいことしてるのに、こんなに立派なことしてくれてるのに、伊豆山の人に情報が行き届いてないんだなとか思ったら、これを一つのつながりとして正確な情報を一つにして届けたい。その思いで作った感じですかね。1年経ったからどうのって分岐点は置いてないですね」

高橋さんは伊豆山の人たちが前を向いていけるように後押します。

この1年、港の復興に力を注いできた人もいます。松本早人さん(46)。サザエやイセエビの漁が盛んな伊豆山港で漁師をしています。

2021年7月の土石流災害では、港に土砂が流れ込み、大きな被害を受けました。松本さんたちは、国に掛け合ったり、クラウドファンディングで資金を集めたりして、港にあった施設の再建を目指しています。しかし、いまもこの港は使えません。

<漁師 松本早人さん>

「トイレもない、手も洗えない、道具も洗えない、港にはまるっきり水は来てない」

松本さんは、仲間の漁師と共に港への水道管を早く復旧してもらえるよう、静岡県や熱海市に呼びかけています。

<漁師 松本早人さん>

「来年なのか再来年なのかわからない状態で、それを自分たち待ってられないんで、仮設の水道を引くことに関して県の方に協力してもらいたいと思って」

「声をしっかり伝えないと、この問題はまるっきり解決されないので、上の人に声が届いて、1日も早い再建につながると、声を出さないとわからない。聞こえない声は声じゃない。ちゃんと聞こえて初めて声に変わるんで」

災害から1年。松本さんが感じたのは「被災者自ら行動しなければ、困り事の多くは気づいてもらえない」ということです。

© 静岡放送株式会社