【コラム】マカオのカジノ法改正案に大きな変更…衛星カジノの存続と税負担軽減盛り込む(WEB版)/勝部悠人

マカオでは、現行のカジノ経営コンセッションの満期が近づく中、次期コンセッションの入札に向けて、政府が娯楽場幸運博彩経営法律制度(通称「カジノ法」)の改正に向けた手続きを進めている。現行コンセッションの満期日は全6社とも6月26日だったが、最近になっていずれも12月末日まで延長され、時間的余裕も確保できた状況だ。

同法は、現行カジノコンセッションのスタート時期にあたる2001年に制定されたもので、政府は20年の間にカジノ業界はもとより、経済・社会状況も大きく変化したことを踏まえた改正が必要との考えを示してきた。コロナ禍で準備に遅れが生じていたものの、昨年(2021年)秋頃から改正に向けた動きが本格化。同年内にパブリックコメント(意見公募手続き)と総括報告書を取りまとめた。その後、今年1月下旬のマカオ立法会本会議で賛成多数で一般性通過となり、いよいよ最終段階となる立法会常設委員会での細則性審議に入ったところだ。本稿執筆時点(2022年6月初頭)でも審議が続いているが、近く表決に至るとみられる。

去る5月14日、政府側から立法会常設委員会に最新の改正法案が提出され、2つの重要な変更点が盛り込まれたことから、大きく脚光を浴びるかたちとなった。

まず1つ目は「衛星(サテライト)カジノ」の取り扱いに関する変更だ。衛星カジノとは、コンセッション事業者の所有ではない物件内にあり、フランチャイズのような契約形態で運営されるカジノ施設を指す。主にマカオ半島新口岸地区の中規模ホテルなどに入る施設が該当し、その多くがSJMとの契約によるものだ。今回の法改正の動きの中では、当初、カジノ施設はコンセッション事業者が所有する不動産内に設置すること、規定に沿わない施設については3年の猶予期間内に対処することを求めるとしてきたが、最新案では一転して3年の猶予期間後もコンセッション事業者に場所の所有権を切り替えずとも存続可能とされた。

現在、マカオにはおよそ20軒の衛星カジノが存在するが、コンセッション事業者と比較して体力が乏しく、長引くコロナ禍で経営困難に直面している施設も多いとされる。カジノ法改正案の内容が明らかになった後、撤退を表明する、あるいは売りに出ていると噂されるところもあった。インバウンド旅客数の低迷による景気後退、昨年末以来のジャンケット系VIPルームの閉鎖ラッシュに加え、衛星カジノの撤退が進むことによる雇用や周辺ビジネスへのマイナス影響が懸念されるとし、多くの立法会議員から政府に対して一刀両断的な措置に対する見直しを求める声が上がっていた。

2つ目は税負担の軽減。コンセッション事業者が義務として負担する公租公課はさまざまなものがあるが(詳しくは5月号の本稿をご参照いただきたい)、一般的にカジノ税とされるものは、カジノ売上(Gross Gaming Revenue=GGR)の「35%」にあたるカジノ特別税が一般財源へ、また「最大2%(実勢1.6%)」が公共財団であるマカオ基金会への拠出金(文化、社会、経済、教育、化学、学術、慈善活動用途)、「最大3%(実勢2.4%)」が都市インフラ整備、観光振興、社会保障のための特定財源へそれぞれ充当され、合計でGGRの「40%(実勢39%)」となっている。これについては当初、現状維持とみられていたが、最新版の法案では、マカオ基金会及び特定財源への充当分(最大5%分)につき、公共の利益に資する場合(具体的には中国本土以外の海外市場の開拓に係る貢献分)は、ゲーミング委員会への意見聴取を経て、行政長官が一部または全部の免除を決定できるとされた。

マカオ政府は、マカオを世界的ツーリズム・レジャーセンター化する目標を掲げているが、実際には旅客ソースの7割が中国本土からと偏っている。中国では刑法第303条(賭博罪)が改正され、賭博目的で中国人観光客を海外へ誘致する行為などが厳しく制限された。マカオは中国の一部なのだが、海外と捉えることもできるとされるほか、ジャンケット系VIPルームの閉鎖ラッシュの引き金となった大手ジャンケット事業者トップの相次ぐ逮捕とも関連しているとする見方があり、コロナ後にこれまで通り中国本土からカジノ目当ての旅客が戻るか不透明な状況。国際観光都市としてのマカオの持続可能性を考慮するならば、旅客ソースのダイバーシティ化を迫られているともいえる。ただし、立法会議員の中には、基金の財源にメスを入れることによる民生への影響を懸念する声も上がっている。

いずれにしても、まもなく改正法の内容が固まることから、どのような落としどころに至るのか、注目したい。

マカオ半島新口岸地区にある衛星カジノのひとつ(資料)=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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