力強い選手のコールがスタジアムに響く。そこには長年、声で栃木SCを鼓舞し続ける裏方の姿があった。スタジアムで試合を盛り上げるMCを担うDJ Tetsu(ディージェーテツ、本名・渡辺徹也(わたなべてつや))さん(46)=茨城県在住=は2009年から栃木SCのDJを務め、今年5月25日の町田戦で250試合を達成。「あっという間だった。ここまでマイクを持たせてくれて感謝」と感慨深そうに振り返った。
試合開始3時間前、観客の入場案内からDJの1日が始まる。キックオフ直前は高らかにスタメンを読み上げ、得点の瞬間は「ゴーーーール」とマイクに全力で声を乗せサポーターたちと喜びを共有する。
クラブとの出合いは09年、知人の紹介だった。「電話で『Jリーグやってみない?』と聞かれたのは鮮明に覚えている」。サッカー経験もなければ、知識も人並みで何をすべきか分からない。最初の試合は「不安7割、期待3割。緊張で膝が震えた」と懐かしがる。
サッカーのとりことなったのは2年目。足元にボールが転がってくると、当時のDF入江利和(いりえとしかず)から「早くボール(をくれ)」と言われた。「なんて熱いスポーツなんだ」と胸を打たれ、それからは誰よりも愛情を持ちマイクを握ってきた。
その長いキャリアの中で特に印象的だったのが菅和範(かんかずのり)前主将の引退セレモニーだ。「彼はポジティブなことがモットー。通常の湿っぽい雰囲気ではなく、ここがスタートという場にしたかった」。選手の心に寄り添い感動的なセレモニーを演出した。
元々は県内で派遣業務などに就いていたが2000年頃、派遣先でイベントのMCをすることに。「これがきっかけで話す仕事に魅力を感じて」。そこからはパチンコ店のDJなど徐々に仕事を増やし、キャリアを積んできた。
しかし新型コロナウイルス禍による大打撃を受けた。サッカー以外の収入源だったイベントが相次いで中止に。脳裏には別な仕事に就いて引退する選択肢もちらついた。それでも続けるのは「コロナ禍で自分が唯一声を出せる存在だから」。現在はアルバイトを掛け持ちしながら、大好きなサッカーのために使命を全うしている。
何よりも望んでいるのは栃木SCが愛されるクラブになることだ。「週末になるとわくわくする。そのお手伝いになるなら、いつでもどこでも声を出す」。クラブが成長していくために、ホームスタジアムにはまだまだTetsuさんの声が欠かせない。