「おじさんだらけの国会」を少しでも変えるには ネットで共感が広がる「2枚目は女性」キャンペーン 3児の母が立ち上がったきっかけは「野太いヤジ」

 7月10日投開票の参議院選で、「投票用紙の2枚目は女性候補の名前を書こう」と呼びかけるキャンペーンが、インスタグラムやTikTokなどの交流サイト(SNS)で広がっている。政策起業家で、3人の娘を育てる天野妙(あまの・たえ)さんらのグループが行う「#女性に投票チャレンジ」だ。「#2枚目は女性」のハッシュタグ(検索目印)で日々、情報発信している。
 「2枚目」とは、比例代表の投票用紙のこと。比例代表は、政党名を記入しても個人名を記入してもいい。そして、ある政党が議席を獲得した場合、「特定枠」として優先される候補者を除き、原則、個人での投票数が多い順に当選する。有権者の約8割は政党名で投票しているが、「女性の『推し候補』を明記することで、どの政党でも、女性の当選確率が高まる」(天野さん)。日本は現在、衆議院の9割、参議院の8割が男性議員だ。「有権者の半数を占めるのに、政策決定の場にあまりに女性が少ない。生活実感のある人を一人でも多く国会に送り込みたい」(共同通信=山口恵)

 ▽女性議員が置かれているひどい環境

 発案のきっかけは、天野さん自身が国会で浴びた野太いヤジだった。今年2月の参議院予算委員会。天野さんは野党側の参考人として呼ばれていた。市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」代表として、子育て支援における所得制限について、話し始めた直後のこと。
 「手短にしてくれよ!」
 議場から飛んできた高圧的な男性の声に動揺し、しどろもどろになった。
 一方で、男性参考人へのヤジはなかった。「女性だからヤジを飛ばされた、と思わざるを得なかった。女性議員はこんな環境の中で仕事をしているのか」

「#女性に投票チャレンジ」の活動に取り組む、市民団体代表の天野妙さん(左から3人目)ら有志のメンバー=6月21日、東京都千代田区

 国会にもっと女性議員が多ければ、こんなひどい扱いを受ける機会は減るのではないか。最近では選挙時に投票をちらつかせてハラスメントをする「票ハラ」の問題も顕在化している。女性議員が安心して仕事に取り組むためにも、数を増やす必要があると痛感した。

 ▽3割を超えれば女性の声が届く

 政界の「ジェンダー不平等」は深刻だ。現在、女性の国会議員は参議院で約23%、衆議院にいたっては9・7%しかいない。今回の参院選には過去最多の約180人の女性が立候補したが、それでも全候補の約33%となっている。2018年に施行された「政治分野の男女共同参画推進法」は、各党に候補者を男女同数とするよう促しているが、実現までの道のりは遠そうだ。
 海外と比較しても、見劣りは明らか。2021年3月に公表された世界経済フォーラムの「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告書」では、女性の政治参画は153カ国中144位。最低水準が続いている。
 ただ、政治分野に限らず、女性の割合を増やす動きに対しては「女性優遇」「逆差別」などという批判がつきまといがちだ。
 

 これに対し、天野さんは「すでにある不平等な社会構造を少しでも是正するためのアクション」と説明する。現状ではどうしても政治が、マジョリティである男性目線に偏りがちだ。女性の声が十分に政治に届くには、少なくとも3割は女性議員が必要と言われている。根拠は「黄金の3割理論」だ。
 この理論は、社会学者のカンターが唱えた。企業などの組織内でマイノリティーが3割を超えれば、意思決定に影響力を持つようになるという内容。天野さんらも「3割を超えれば市民の中の女性の声が届きやすくなる」との思いを抱いている。

 ▽2つの意味

 「投票用紙の2枚目に女性候補を書く」とは具体的にどういうことを指すのか。参院選の投票の仕組みを解説しながら、紹介していきたい。
 投票所に行くと、2枚の投票用紙を渡される。1枚目は都道府県を主な単位とする「選挙区」で、ここでは候補者の個人名を書く。
 次に2枚目の「比例代表」。政党名と候補者の個人名のどちらを書いても良く、個人名を書いた場合もその候補の所属政党の票としてカウントされる。
 そして、得票数に応じて政党の議席枠が決まり、その中から個人の得票数が多い順に当選する仕組みだ。つまり、比例代表に個人名を書くことで、1枚の投票用紙に「支持する政党」と「支持する候補」の2つの意味を持たせることができる。

 冒頭でも紹介したとおり、比例代表になると大半の有権者は政党名を書く。2019年の参院選で個人名を書いた人は全体の約25%だった。つまり、各党内の25%の投票で、実際の当選者が決まっていることになる。
 ただ、業界団体はこの仕組みを利用し、自らの代表をコンスタントに国会に送り出している。天野さんらは「比例代表に政党名ではなく、自分が応援したい女性の個人名を明記することで、女性候補を押し上げられる」と考えた。

参院選で女性候補者への投票を呼びかけるプロジェクト「#女性に投票チャレンジ」のSNS投稿の一例(インスタグラムより)

 今回、天野さんが「2枚目に女性」キャンペーンを思いつき、周囲に協力を呼びかけたところ、10~40代の男女がボランティアで集まった。
 2人の娘を持つ男性や、生理の貧困についての署名を立ち上げた女子大生、フェムテック商品を開発する企業に勤めるグラフィックデザイナーなど、バックグラウンドはさまざま。政治に対する考えもそれぞれだが、選択制夫婦別姓の問題や、子育てなどで生きづらさを抱える人が多いという。
 グループではキャンペーンに先立ち、候補者アンケートも実施した。対象は比例代表の女性候補。賛否を尋ねた内容は(1)選択制夫婦別姓(2)性交同意年齢の引き上げ(3)緊急避妊薬の薬局での入手―。結果はインターネット投稿サイト「note」などで順次公開していくとしている。(https://note.com/joseini_touhyou

 天野さんはこう問いかける。「暮らしと政治の現場はつながっている。女性も含めた国民すべてのことを、男性ばかりの集団で決めるのはあまりに偏っていませんか」

© 一般社団法人共同通信社