飼料、肥料高騰に「もう無理」 苦境にあえぐ岡山県内農家

乳牛に牧草を与える檜尾さん。飼料価格が高騰し、経営を圧迫している=勝央町

 岡山県内の農家が、飼料や肥料の価格高騰に苦しんでいる。いずれも原材料の多くを輸入しており、新型コロナウイルス禍による物流の混乱に、ウクライナ情勢や円安の影響も加わって値上がりに拍車がかかっている。上昇分を価格転嫁したくても、取引先もコロナ禍のダメージを受けていて難しく、解決の糸口が見えない状況に不安を募らせている。

 「もう無理じゃないかな。このままだと3カ月ほどで資金が底を突く」。100頭近くの乳牛を育てる酪農家の檜尾康知さん(56)=勝央町=がため息をつく。昨年9月から毎月赤字が続き、貯蓄を切り崩して営農を続けている。

 原因は飼料価格の上昇だ。トウモロコシを主原料とする配合飼料、牧草はともに2020年秋ごろから徐々に値上がり。今月の飼料代(見込み)は約430万円と、この1年半で1.3倍に膨らんだ。乳業メーカーに卸す乳価は変わらず、コストだけが増えている。

 国内に出回る飼料用トウモロコシは米国やブラジル産、牧草は米国やオーストラリア産が中心。物流の混乱と原油高で運賃がかさみ、ウクライナ情勢で国際相場が上昇、円安による輸入コストの増加も重なって価格が押し上げられている。

 飼料を扱うJAおからく(津山市川崎)は7~9月期、主力商品の価格を前期(4~6月期)に比べて14%高の1トン当たり8万9140円に引き上げる。値上げ幅は過去最大で、酪農家への打撃は必至。檜尾さんは「乳価が上がるか、国や県の支援がなければ酪農を続けられない」とこぼす。

 窮状打開に向けた動きもある。JAおからくなど中国5県の生産団体でつくる中国生乳販売農業協同組合連合会(中販連、岡山市北区桑田町)は、メーカーに乳価1キロ当たり15円(約1割)以上の値上げを求めて交渉を続けている。

 ただ、コロナ禍による外食需要などの落ち込みから、メーカーも乳製品の在庫を積み増しており、応じにくい状況にある。中販連は「消費者にも製品の積極購入や値上げへの理解に協力してもらわないと出口が見えない」とする。

 苦境にあえぐのは畜産業者だけではない。総社市の茅原弘和さん(52)はナスや黒豆などを約1.2ヘクタールで栽培し、生産資材の高騰に悩まされている。

 「肥料に重油、防草シート、ハウス用ビニール…、何から何まで値上がり。価格を見るのもうんざりだ」。調達コストは2年前に比べて3割近くアップ。今後も化学肥料の値上がりが控えているという。

 JA岡山中央会(岡山市北区磨屋町)によると、複数成分を組み合わせた「高度化成肥料」は昨春から約2.3倍に値上がり。肥料成分の一部はロシアが主産地で、経済制裁により供給が滞っているからだ。

 茅原さんは化学肥料の使用を抑えるため、家畜のふん尿などを原料とする堆肥の活用を進める。化学肥料より安い半面、人力でまく量や回数が多く負担が大きい。「しんどいが、体力と時間をかけて補うしかない。どれだけ節約になるか分からないけれど」と歯を食いしばる。

 総社市の野菜、果樹農家らでつくるJA晴れの国岡山・吉備路園芸振興部会(467戸)の部会長として新規就農者の育成にも力を入れており、資材高が就農の障壁にならないか懸念している。「ハウスの新設は、ひと昔前の2倍の費用がかかる。ベテラン農家でも収益確保が大変なのに、農業に希望を持ってもらえるだろうか」

 JA岡山中央会の劔持敏朗専務理事は言う。「農家やJAの努力ではどうにもならないほど価格が高騰している。国や県の支援は欠かせず、食料安全保障の観点からも参院選を通じて活発に議論してほしい」

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