【ファクトチェック】5兆円軍事費増やすなら「医療費の窓口負担、倍にしなくちゃならない」共産党志位和夫委員長→根拠不明

Japan In-depth編集部

【まとめ】

・共産党志位委員長が軍事費を増額すれば、医療費の窓口負担が倍増すると発言。

・軍事費増額が医療費の窓口負担増加を招く必然性はない。

・窓口負担増加を伴う軍事費増額は自民党の主張とも一致せず、志位氏の今回の発言はミスリードと言える。

【疑義言説】

2022年6月19日(日)放送のFNN系列「日曜報道 THE PRIME」9党首討論会で、政府・与党の、原子力潜水艦導入などを含む防衛費増の与党方針を受け、共産党の志位和夫委員長は、「5兆円軍事費増やすわけですよ。財源どうするんですか。消費税でまかなおうとしたら2%以上の増税になりますよ。医療費にかぶせようとしたら、医療費の窓口負担、倍にしなくちゃならない。現役世代、今3割負担ですから6割負担にしなきゃならない」と発言した。

この言説についてファクトチェックする。

検証

窓口負担とは、厚生労働省によれば、医療費の一部負担(自己負担)のことを意味し、義務教育就学前は2割負担、6歳から69歳は3割負担、70歳から74歳は2割負担、75歳以上は1割負担を基本としている。ただし、70歳以上であっても現役並みの所得者である場合は、3割負担となっている。

現在の医療費の窓口負担は、2021年度11月9日に厚生労働省より公表された「令和元(2019)年度 国民医療費の概況」によれば、令和元年度の国民医療費は44兆3,895億円となっている。この国民医療費を制度区分別から捉えれば、患者等負担分は、5兆4540億円(構成割合:12.3%)となる。

▲図1 制度区分別国民医療費(令和元年度) 出典:厚生労働省「令和元(2019)年度 国民医療費の概況」

また、同じく国民医療費を財源別から捉えると、患者負担は、5兆1837億円(構成割合:11.7%)となっており、窓口負担の金額は、約5兆2000億円〜約5兆5000億円ということになる。

なお、下記の図表を見れば分かる通り、国民の医療費は患者負担以外に、保険料による負担と、病気の種類に応じて国や自治体が医療費を助成する公費による負担がある。公費による負担はさらに、国による負担と各地方自治体による負担に分けられ、国による負担が11兆3000億円程度、地方自治体による負担は5兆7000億円程度となっている。

▲図2 財源別国民医療費(令和元年度) 出典:厚生労働省「令和元(2019)年度 国民医療費の概況」

次に、現在の防衛費について調査する防衛省の令和元年版防衛白書によると、令和元(2019)年度の防衛関係費は、5兆70億円となっている。防衛関係費とは、防衛省によると防衛力整備や自衛隊の維持運営のための経費のほか、基地周辺対策などに必要な経費のことである。

志位委員長の「医療費にかぶせようとしたら、医療費の窓口負担、倍にしなくちゃならない」という発言の「かぶせる」の意味は不明だが、推察すると、5兆円の防衛費増額の財源が、国による医療費の公費負担の削減によって賄われた場合、国民自らが負担する医療費の窓口負担が倍になるという意味だと思われる。

▲写真 国民医療費の財源構造(平成25年度予算ベースだが、各財源の比率は最新のデータと概ね一致) 出典:内閣官房.pdf)

確かに、5兆円の軍事費増額の財源が医療費の公費負担の削減によって賄われ、その公費負担の削減分が窓口負担によって全額補填されるとすれば、窓口負担は5兆円増えることになり、現在の倍近い金額となる。

しかしながら、政府・与党が防衛費の増額分を医療費の公費負担の削減によって全額賄い、しかもその削減分を全額窓口負担によって補填することを検討している情報は今のところ見当たらない。

また、図2財源別国民医療費に着目すると、令和元(2019)年度の患者負担と平成30(2018)年度の患者負担を比較すると増加額は570億円であり、1.1%しか増加していない。過去の患者負担額の推移を見ても、短期間に患者負担を倍増させる政策を政府・与党が取ることは極めて困難だと思われる。

医療費の窓口負担の倍増は、その理由の如何に関わらず国民の大きな反発を招くことが明らかなため、政府・与党としても窓口負担の極端な増加を招く形での防衛費増額は避けるだろう。

そうした現実論を置いても、防衛費の増額を主張する自民党の高市早苗政調会長は、今月12日に出演したテレビ番組にて、防衛費増額の財源は短期的には国債発行で賄い、長期的には日本経済を拡大して賄うとして、他の予算を削減して充てるわけではないとの考えを示している(東京新聞)。

軍事費を倍増させると「医療費の窓口負担、倍にしなくちゃならない」との志位委員長の発言は、政府・与党があたかも軍事費の増額を医療費の公費負担削減で賄おうとしているかの印象を与えかねない。

仮に志位委員長が、他の根拠にもとづいてこうした発言をしたとしても、視聴者は上記発言を聞く限り、「軍事費が増えると、何らかの理由で医療費の負担が増える」との印象を持つだろう。どちらにしても本発言はその根拠が明確でなく、視聴者に誤解を生じさせる可能性が否定できない。

以上のことから、この発言は「根拠不明」と判断する。

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トップ写真:参院選大阪選挙区の候補者の応援演説に駆けつけた日本共産党志位和夫委員長(6月26日) 出典:志位和夫Twitter

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