【参院選2022×「Z世代」】投票するか否か、若者隔てる壁は 新入社員や留学生の思い

今春から都内の洋菓子店に勤めるマサシ

 昨秋の衆院選。県内の大学野球部員だったマサシ(23)は就職を控えて政治への関心が芽生え、初めての投票に向け、不在者投票の手続きを進めていた。しかし、投開票日に投票に行こうとして不在者投票は前日までだったことを知り、権利を行使できずに終わった。昨秋の『Z世代×未来 2021衆院選』で、そんな等身大の姿を伝えた。

◆多忙な日常に埋もれ

 あれから8カ月─。マサシは大学卒業後の今春から都内の製菓メーカーに勤務している。朝5時半に起床して洋菓子店へ。先輩の見よう見まねでクリーム作りや、飾り付けなどに取り組み、9時半に開店すると一日中立ちっぱなしだ。

 地元の愛知県で両親が営むケーキ店を継ぐための修業だが、過酷さから同期6人のうち2人が既に退職してしまった。そんな中で、7月10日の投票日が迫る。

 「当日は仕事なので今回こそ期日前投票に行くつもり。そろそろ調べないと…」。そう言うものの、就職してから政治について考える時間はなかった。

 多くの若者がこの春、学校を卒業して就職した。学生時代に芽生えた社会問題への関心も、多忙な日常に埋もれていく。同僚や友人との会話で、政治が話題になることは少ないだろう。

◆原動力は怒りや不満

 韓国から来日して7年。早大大学院で政治学を学ぶ留学生、イ・ソクミンさん(25)は「投票の原動力は怒りや不満。その感情の吐き出し方が分からない人が、日本にはたくさんいる」との感想を抱く。

 自身は「国政選挙は毎回投票する」という。母国の国政選挙のために都内の投票所を探し、在外投票制度を利用してきた。地元の地方議員選挙には同制度が使えないことがもどかしい。

 「韓国では不満を解消するツールとして選挙があって、投票への意識が根付いている」

 2017年に朴槿恵(パククネ)大統領(当時)が民間人の友人を国政に介入させたとして罷免されたが、多くの若者らも加わった大規模な街頭デモが政権を追い込んだとされる。ただ当時、デモに加わることはなかった。

 「韓国の若者には、自分たちの力で朴政権を終わらせたというプライドや経験がある」と感じているものの、「自分の意思を持って政治を動かすには、選挙で権利を行使することが最も効果的な抵抗の方法」との思いが強いからだ。

 母国の若者の投票への思いの強さは、朝鮮半島情勢の不安定さも一因とみる。「北朝鮮との関係は遠い国の話ではなく、自分に直接関係があるという意識がある」。男性には兵役義務があり、北朝鮮に遠戚や離散家族がいるケースもある。

 そうした日韓の若者が置かれた状況の違いも踏まえ、「不満を解決する手段は政治しかないという認識をみんなが持てば投票率は上がる。現状に満足しているなら、投票率を上げる必要もない」と語るのだ。

◆スウェーデンと大差

 「日本の若者が特別、政治に関心がないわけではない。問題は行動するか、しないか。日本はその間で分断されている」

 若者の声を集め、若者世代に直結する政策を政治家に提言している日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さん(33)は、その分析を裏付けるデータを提示した。

 2018年に内閣府が行った日本と海外の若者の意識調査。スウェーデンの10~20代と比べると、政治に「関心がある」では日本は14ポイント下回り、「関心がない」は7ポイント上回った。それほど大きな差はなかったが、この世代の直近の国政選挙での投票率で比べると、日本の30~40%に対し、スウェーデンは85%と大差がついた。

 投票するか否か。両者を隔てる壁は「選挙で社会の現状やルールを変えた」実体験があるか否かに直結する、と室橋さんは考える。

 例えばEU諸国の多くは国が若者が集まる協議会を公的に設置し、法に基づき若者の声を政策に反映させる仕組みを設けている。

 中でもドイツのミュンヘン市のフォーラムでは、子どもたちが政策などを提言。受け取った市議たちは、事業を本気で実現しなければならない。「こうした仕組みを日本も取り入れて、若者が『自分の力でルールを変える』ことを体験できれば、その先の政治参加にきっとつながる」

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