2022参院選長崎 物価高と賃金 足元の暮らし揺るがす 政治への視線・1

値上げが続く食用油の売り場=長崎市浜口町、食彩館

 ロシアのウクライナ侵攻が始まった今年2月、長崎県佐世保市で暮らすシングルマザーの女性(43)は、漠然と恐怖と感じた。だがそれが、足元の暮らしをこんなにも揺るがすとは、想像もしなかった。
 小学6年の息子と70代の母との3人暮らし。看護補助として病院に勤め、月3日ほど夜勤にも入る。給料の大半が光熱費と食費。綱渡りの生活を、ウクライナ情勢で加速した物価高が直撃した。
 野菜、サラダ油、調味料、パン-。あらゆる食品が値上がりし、買うのをためらう。情報を集めて複数のスーパーを回ったり、見切り品の時間帯を狙ったりして何とかやりくりする。
 光熱費とガソリン代も家計を圧迫する。電気代の支払いが遅れ、最近は送電停止の「最終通告はがき」が届いてから、期日ぎりぎりに納める。ライフラインの維持でやっとだ。
 賃金が上がる見込みはなく、ダブルワークも考えている。息子の進学に伴う教育費、足を痛めた母の介護など将来の悩みの種は尽きない。暮らしに精いっぱいで「正直、政治のことは分からない」。医療や教育など身近な暮らしに関わる政策を見比べ、1票を投じるつもりだ。
 店側も苦悩している。長崎市浜口町のスーパー「食彩館」の福森和浩店長(50)は、売り場を見渡し、ため息をついた。「先月はしょうゆ。来月からまた油が上がる。すると次はマヨネーズやドレッシング。値上げしていない商品の方が少ないくらい」
 帝国データバンクの調査では、今年値上げしたか値上げを予定する食品は1万品目を突破。同店でも毎月のように商品の値上げが続く。「うちのような小さな店は大手のように据え置きでは勝負できない。長年業界にいるが、こんなに大変なのは初めてかも」と胸の内を明かす。
 30年近く続く地域密着型のスーパー。利用客には、斜面地で暮らす高齢者が多く、購入した商品を自宅に配達するサービスが店の売りになっている。ガソリン価格高騰で採算は合わず、負担も大きいが「お客さんが店を選ぶ理由でもある」と続けるつもりだ。
 選挙戦での政党や候補者の訴えは「夢物語のようで実感が湧かない」というのが正直な感想だ。社会が不透明さを増す中「確実に生活できるように」と政治にいちるの望みを託す。

 参院選が22日に公示され、候補者が舌戦を繰り広げている。物価高、コロナ対策、人口減少、安全保障。さまざまな論点をめぐり、有権者の視線を探った。


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