データの活用技術に長けた人材を生み出す 日本初のデータサイエンス学部

文理融合型学部だからこそできる 価値を創造するデータサイエンスの学び

データサイエンスとは、情報学と統計学で構成された学問のことだ。どちらも古くからある学問だが、データサイエンスまたは統計学を冠した学部は、長らく海外の大学にしか存在しなかった。2017年、そのデータサイエンス学部を日本で初めて開設したのが滋賀大学だ。

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文理融合型の組織を完成させるため、理学部や工学部、経済学部で統計学や情報学を専門としてきた教員をはじめ、医学や社会学の専門家、公的機関や企業での実務に長けた教員を全国から集めている。そしてカリキュラムの特徴は、専門科目でデータエンジニアリンクグ系(情報学)とデータアナリスト系(統計学)をバランスよく学べる構成にある。基礎的な数学的な知識や思考は必要だが、「解析学」や「統計数学」の科目では、数学かが苦手な学生向けの手厚いサポートも用意されている。1学年約100名と比較的規模も小さく、教員との距離が近いので相談や質問もしやすいことだろう。

「データは分析して終わりではなく、そこから価値のある発見や、課題を解決した上で価値を創造する。つまり人を幸せにする何かを生み出したり、 意思決定したりすることこそが重要です。この価値創造には文系的思考が必要ですし、例年、入学者の3〜4割は文系出身者ですから、興味がある人なら諦めずに挑戦してほしいと思います」

→実践的な経験と思考を養う課題解決型学習

実践的な経験と思考を養う課題解決型学習

演習科目では、PBL(Project Based Learning =課題解決型学習)形式が中心だ。1〜2年次の入門演習を経て、3〜4年で本格的な演習を行う。トヨタ自動車やNTTドコモ、帝国データバンクなど、連携する約50社の企業や自治体の生データを利用して企業の課題解決をめざす実践的な演習も用意されている。

「課題は、小売店のクーポン利用による効果といったマーケティング系からレセプトデータによる医療分析までさまざまです。学生からは、課題を解決しようという使命感や熱意が伝わってきますね。企業の社員が講師を務める講義で生の現場の声が聞けることも、大きな刺激になっているようです」と椎名学部長は話す。

連携企業との共同研究を通じて実践感覚を磨く学生も多く、知識が活かせる業種は幅広い。2021年3月には第1期生が卒業したが、データサイエンティスト志望だけでなく、仕事にデータを活用できる強みにしようと考える学生も多いという。また大学院には、20人前後が進学した。データ分析やインターネット集客支援を行うベンチャー企業を立ち上げた学生も現れるなど、蒔かれた種は少しずつ花開いているようだ。

滋賀大学は、文部科学省から2017年に「数理及びデータサイエンスに係る教育強化」の拠点校、2022年には「数理・データサイエンス・AI教育の全国展開の推進」の拠点校として選定され、データサイエンス教育の普及にも取り組んでいる。現在は、大学生や研究者向けの教材制作を始め、動画配信システム「MOOC(ムーク:Massive Open Online Courses)」では、誰でも視聴できるデータサイエンス学部教員による講義も公開。2022年9月17日までは「高校生のためのデータサイエンス入門」も無料で公開されている。 データの活用技術を持つ人材の必要性は、政府のいくつかの戦略会議や省庁でもすでに認識されている。ビッグデータの活用など未来の産業や事業開発などに不可欠なデータサイエンス分野。その分野を滋賀大学とその卒業生が今後を担っていくことだろう。

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