<レスリング>【2022年明治杯全日本選抜選手権・特集】死角なし! 決勝、プレーオフを勝ち抜いて世界選手権へ…女子50kg級・須﨑優衣(キッツ)

 

(文=フリージャーナリスト・粟野仁雄)

 弾むような、はきはきした記者会見は健在だった。「金メダリストの重圧はなかったです。試合が楽しくてレスリングが大好きだと感じました」とほほ笑んだ。

決勝に続いて行われたプレーオフでも快勝、世界選手権行き切符を手にした須﨑優衣(キッツ)=撮影・矢吹建夫

 2022年明治杯全日本選抜選手権で、約10か月ぶりに公式戦のマットに登場した東京オリンピック女子50kg級金メダリストの須﨑優衣(キッツ)。決勝の相手は、昨年の世界選手権(オスロ)と全日本選手権を制している吉元玲美那(至学館大)

 須﨑は素早く2度バックを取り4点のリード。第2ピリオドは吉元にタックルを取られて反撃されたが、2点に抑え、4ー2で下した。9月の世界選手権(ベオグラード)の代表権を賭けたプレーオフは再び吉元と対戦する。
 
 「そこ大事だよ、しっかり。そうそう、よく見えているよ」「下がらない、下がらない。顔まっすぐに」。須﨑のセコンドに入ったJOCエリートアカデミーの吉村祥子コーチの声は終始、途切れない。6点をリードし、試合終盤も、吉元の反撃を逆にカウンター気味に2点を奪うなどして8-0で圧勝した。「いいスタートが切れた」と笑みを浮かべた。

社会人になり、責任感と自主性が出てきた

 須﨑は東京オリンピックで、4試合すべてを無失点でテクニカルフォール勝ちする驚異の活躍だった。鋭いタックルから背後に回ってのアンクルホールドなどが中心だったが、今大会では相手を上からつぶすがぶり攻撃、組んだ状態から足を取る、など攻撃に幅も出てきた。防御も強く、見ていて危なげがない。2年ぶり5度目の優勝で、栄えある明治杯(最優秀選手賞)を受賞した。

明治杯を受賞し、笑顔で歓声にこたえる=撮影・矢吹建夫

 今春、早大を卒業し、故郷の千葉県にあるバルブ製造会社「キッツ」に入社、総務部で広報などを担当する。「入社させてもらい、また新しくたくさんの人に応援してもらえる。会社の看板を背負っているということで、活躍して恩返しできるようにしたい」「反省点が多いのは自分の伸びしろ。パリに向けていいきっかけになったなと思います」などと笑顔を引き締めた。

 アカデミー時代から現在にかけて須﨑を指導する吉村コーチは、女子レスリングがオリンピック種目ではなかった黎明期に活躍した名選手。女子44kg級の世界選手権では5度優勝しているが、女子が初めて採用された2004年アテネ・オリンピックは全盛期を過ぎていた。

須﨑の成長と勝利を支えた吉村祥子コーチ(右)=筆者撮影

 須﨑について「社会人になって責任感が強くなり、体重調整なども自分でしっかりやっている。多くの意見を取り入れて消化するなど、人として成長した。スピードも上がっているし、タックルに入った後の処理が巧くなっている」と話している。

 須﨑は2019年のこの大会決勝で、2016年リオジャネイロ金メダリストの登坂絵莉に圧勝して優勝したが、プレーオフで入江ゆき(自衛隊)に敗れ号泣した。自力での東京オリンピック代表の道は途絶えたが、運命は須﨑に味方。首の皮一枚つながった須﨑が東京オリンピック代表の座をつかむという強運の持ち主でもある。

 12月の全日本選手権からは、吉元に加えて入江も復帰参戦してくるのか。女子最軽量の争いから目が離せない。

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