おいしいものブティック平翠軒 ~ 良い物を作る人への恩返し。全国の良い品が揃う、食のセレクトショップ

「美観地区で良いところありますか?」

「倉敷に行くんだけど、行ったほうが良いお店ってどこ?」

このような相談を受けたとき、筆者が1番におすすめするお店が「おいしいものブティック平翠軒」です。

全国から選りすぐりの美味しいものにあふれた店内は、まさに美味しいもの好きの聖地!

ちょっと背伸びをした気分で、とっておきの宝物を探しましょう。

親切で優秀なスタッフさんがたくさんいるので、商品の迷子になっても安心ですよ。

本当に美味しい食べ物、良い物を求める人にぴったりのセレクトショップ、「おいしいものブティック平翠軒(へいすいけん)」を紹介します。

大正時代の倉庫を改装した「おいしいものブティック平翠軒」

雨のなか、蔦の葉の緑がいっそう美しく映える「おいしいものブティック平翠軒」。

美観地区の中心地からやや離れた、静かな住宅街にあるこぢんまりとしたお店ですが、全国から美味しいものを求めてお客さんがやってきます。

有名百貨店や、セレクトショップのバイヤーもお忍びで来店するそうですよ。

お店の外観も趣があり、写真を撮っていく人の姿も見られます。

平翠軒は、もともと大正時代からある森田酒造の倉庫だった建物を改装し、1990年4月に創業しました。

1階はブティック、2階はギャラリー「破゛流知庵(ばるちあん)くらしき」を併設しています。

平翠軒のすぐとなりにある「森田酒造」。

森田酒造は、平翠軒の社長・森田昭一郎さんの祖父、森田尚二さんによって、明治42年(1909年)に創業されました。

以前(2017年6月3日放送)、NHKの『ブラタモリ』に登場したこともある、倉敷を代表する酒蔵なんですよ。

かわいらしいかわせみがデザインされた、平翠軒のロゴマーク。

平翠軒の由来は、森田家に江戸時代より伝わる茶室の名前からだそうです。

さて、お店の中に入りましょう。
どんな美味しいものに出会えるのか、いつもワクワクする瞬間です。

どこを見ても美味しいものでいっぱい!平翠軒の店内

四方をぐるりと商品が並ぶ、平翠軒の店内。いつもこの光景に見とれてしまいます!

平翠軒は、森田昭一郎社長が全国を巡って見つけた食品、約1,500種類が並ぶセレクトショップです。

開店当初は約150種類でスタートしましたが、スタッフさんのお話によると、いまも増え続けているそうです。

入り口付近にもはみ出してしまうほど、多種多様な商品が並びます。

お菓子、調味料、おつまみ、缶詰に瓶詰め、ジャム、オイル、珍味…。

何度通っても飽きることがない平翠軒のラインナップを、ほんの一部だけですが紹介しますね。

お店中央、チルド冷蔵庫

お店中央に位置するのは、チルド商品がぎっしり詰まった冷蔵スペースです。

デッドスペースにもジュースが並び、隙間がほぼない状態はすごいですね!

美味しそうな生ハムやレバーペーストなど、種類豊富な肉の加工品。

プチ贅沢にぴったり!ついつい手を伸ばしたくなります。

ドライカレー、ホットック、ラザニアなどのチルド商品。

「幻」と呼ばれる「吉田牧場のチーズ」もあります。入荷するとすぐに売れてしまうそうです。

調味料、ドレッシングの棚

こちらはドレッシングや鍋の素、調味料などの瓶が並ぶスペースです。

倉敷市にある調味料メーカー「倉敷鉱泉」のブランド「石原信義の塩ポン酢」など、お鍋に欠かせない商品が並びます。

倉敷鉱泉はもともとラムネ製造が主でしたが、ポン酢、鍋の素、焼き肉のたれ、ドレッシングなど、いろいろな調味料を開発しているんですよ。

便利な炊き込みご飯の素も、平翠軒はバラエティ豊かに揃っています。

我が家のお気に入りは手前にある「山菜釜飯の素」。
優しい塩加減で、たっぷりの山菜が楽しめるので重宝しています。

お酒のおつまみも乾物から瓶詰めの珍味まで、豊富な品揃えです。

ジャム、缶詰、日本酒、オリーブオイル

ジャムやマーマレード、蜂蜜、メープルシロップなどが並ぶ一角。

とってもきれいな色とりどりのジャムは、見ているだけで楽しくなりますね。

缶詰もこの種類と量!オイルサーディンやかきの燻製、子持ちししゃもにラフテー…。

缶詰だけで日本全国を旅行した気分になれそうです。

もちろん、平翠軒の親会社である森田酒造の日本酒も購入できますよ。

森田酒造創業以来の製法を守り続けてきたロングセラー「萬年雪」のシリーズなど、お祝い事や贈り物にも重宝されています。

そしてイタリアから空輸される「オリーブオイル」も欠かせません。

主にサラダなどの生食用に使われる北イタリア産、ソテーなど加熱用の南イタリア産と、用途によって使い分けされています。

我が家も取材を機に、北イタリア産のエクストラバージンオリーブオイルを購入しました。

本当に飛び上がるほど美味しくて、それ以来食卓に欠かせない存在となっています。

平翠軒オリジナル商品を探してみよう

平翠軒は、商品を全国から集めるだけでなく、オリジナル商品もたくさん開発しています。

こちらは「瀬戸内産牡蠣のオイル漬け」1,099円(税込)。

瀬戸内の虫明や寄島、広島の1番牡蠣をXO醤に付けて、ガーリックオイルで焼いています。

瓶の中にはふっくらとした牡蠣がぎっしり。牡蠣好きにはたまらない一品です。

こちらは「酒宝 あかひら」1,944円(税込)。
春獲れぼらの卵巣を、森田酒造の大吟醸酒粕をベースにたペーストに漬け、熟成させた珍味です。

そのままスライスしても良し、軽くあぶってお茶漬けにしても良し。お酒がすすみそうな贅沢なおつまみですね。

美味しいおつまみときたら、お酒もセットでいかがでしょう。

お店のスタッフさんおすすめの「萬年雪 未搾り酒 荒走り」1,577円(税込)は、早朝5時から6時までのあいだだけ採取される、特殊な日本酒です。

ワインのような香り、豊かな味わいがあり、荒搾りを求めて来店するお客さんも多いのだとか。

入り口すぐの場所にある「酒屋のぼんぼん」2個入り389円、3個入り702円、5個入り1,080円(各税込)。

「お坊ちゃん」のボンボンと、チョコレートボンボンをかけたのでしょうか?

チョコレートの中には、アルコールを飛ばした純米酒がたっぷりと入っています。
バレンタイン時期には売り切れになるロングセラー商品です。

それにしても、お酒のおつまみや珍味、チョコレートまで作ってしまうなんてすごいですね。

筆者が個人的におすすめの商品

取材とはいえ、筆者も平翠軒の大ファンです!購入したもののなかから、個人的におすすめの商品を紹介します。

こちらは平翠軒特製、「バルサミコ入りミートソース」486円(税込)。

「なんとしても美味しいミートソースが欲しい」というコンセプトで作られたこのソース。

バルサミコの酸味、トマトのフレッシュな甘味が最高!210グラムとたっぷり入っています。

こちらは秋田県三吉フーズの「ばっけ味噌」616円(税込)。

ばっけは秋田弁で「ふきのとう」、つまりふきのとう味噌ですね。

鮮烈なふきのとうの香り、そして素朴で懐かしい味わいにごはんが止まりません。

広島県の女性グループが作る「ビバガーリック」は、青森県産のにんにくをオリーブオイルで2時間煮込んだもの。

お肉や魚のソテーに、蒸し野菜に絡めても美味しい!

ビバガーリックがあると、毎日の献立の幅がグッと広がり重宝しています。

山口県柚子屋本店の「夏みかんスライス」。見た目に惹かれて衝動買いしました。

夏みかんの果皮と実のあいだにある、白くて柔らかい部分をスライスし、シロップ漬けにしたものです。

しっとりとした食感に、夏みかんの香りが残るシロップも絶品。ヨーグルトにかけて食べています。

森田家のコレクションが並ぶギャラリー「破゛流知庵(ばるちあん)倉敷」

新型コロナウイルス感染症対策のため、2022年10月現在は休止中です

平翠軒の2階、ギャラリー「破゛流知庵(ばるちあん)くらしき」にもお邪魔させてもらいました。

入り口にある階段を上り、ギャラリーへ進みます。

大正時代からの梁を生かした、ギャラリー兼カフェになっています。

2階には初めて足を運びましたが、こんな素敵な空間が広がっていたのですね。

美しい日本人形の数々。展示の品はすべて森田家に伝わる秘蔵コレクション。

季節によって、版画や掛け軸などに変わるそうです。

カフェのコーヒーをいただきながら、平翠軒の社長、森田昭一郎(もりた しょういちろう)さんにお話を伺いました。

良い人が作る良い物を届けたい。平翠軒店主・森田昭一郎(しょういちろう)さんインタビュー

インタビューは2020年2月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

──全国からお客さんを集めている平翠軒ですが、なぜこのようなお店を作ろうと思ったのですか。

森田────

もともとうちは祖父の代から酒蔵(森田酒造)として酒造りをしています。

酒造りというのは、1年に1度の商売なんですね。

うちは寒作り(気温の低い冬場に仕込む)なので、新米が出て11月から3月が酒造期になります。

その数ヶ月の一発勝負で1年が決まるんです。

もちろん酒造りがうまく行かない年もあり、それが続くと不満や不安がどんどん募ってくるわけなんです。

それで、あるときもう全部投げ出したくてふらふらっと放浪に出たんです。

──美味しいものを求めて、ではなく、放浪ですか?

森田────

そう、もう嫌になってしまったんでしょうね(笑)。

その旅を通して、物作りをしているところを訪ね歩きました。

人や物に出会って、また一から頑張ろうという元気をもらったんです。

その恩返しのつもりで、旅で出会った人たちの作ったものを置く店がしたいと思ったことがきっかけです。

全国にはこんなに良いものを作っている人たちがいる、人との出会いですね。

美味しいことより大切なことは、作っている人が良いかどうか。

良い人が作れば、良いものができるに決まっているんですよ。

良い人の物を、分かってくれる人に売りたい、届けたい。

その関係を平翠軒で作りたいです。

──旅を通して、印象に残っている土地や食べ物はありますか。

森田────

能登半島ですね。今でもよく行きますが、能登半島で出会った「いなだ鰤(ぶり)」が原点です。

私はどこに行ってもまず、地元の人が行くような市場に行くんです。

金沢の近江町市場に行ったとき、ふと見上げると流木のようなものがあって、よく見ると魚の形をしている。

これはなんだろうと地元の人に聞いたらそれが「いなだ鰤」だったんです。

店内に展示しているいなだ鰤(ぶり)

昔は今ほど流通が整っていなかったから、鰤が余っていたんですよね。

その鰤を日陰につるしておいて、夜は凍り朝になると溶ける。

その繰り返しでカチカチの保存食ができた。

食べるとかつお節みたいで、だんだん鰤の脂がしみ出てくるんです。

まだ物を捨てられない精神、生活の知恵が生きていたんだよね。

今は寒ブリなんて高く売れて、わざわざいなだ鰤を作る人もいなくなってしまったけど、そういう物を大切にする気持ち、息づかいを大切にしたいと思っています。

酒造りも同じことです。

酒を造るにはたくさんのお米が必要ですよね。

そのまま蒔いたら芽吹いたかも知れない物を使ってお酒を造る、お米の可能性を潰すということです。

どこかに罪深い気持ちがあります。

なので、「なんとか生かしたい」という考え方を大切にしたい、と思っています。

うまい、まずいはどうでも良いんです

いなだ鰤なんて塩辛くてそんなに美味いもんでもない(笑)。

でも、それでいいと思っています。

──平翠軒にはたくさんの商品が並んでいます。
お店作りのこだわりは何かありますか。

森田────

平翠軒のお客さんの80%は主婦のかた、それも50~70代の年齢層がメインターゲットです。

となると、そのかたがたが無理なく買い物が楽しめるようなお店造りにしています。

お客さんが楽な姿勢のまま目を向けられるように、床上90センチ~2メートルのあいだに商品を詰め込みます。

ひざも曲げなくて良いし、無理して首を上げなくてもいいでしょう。

メインターゲットのお客さんがどんな見方をするのか、1番都合の良いスタイルは何かを常に考えています。

すべての商品に置かれるムービングポップ

お店のポップを見ました?

あれは固定ポップじゃなくてムービングポップで、動かせるポップなんです。

商品の上にポンと置いてあるだけ。

そうすると、手にとって楽な姿勢や目線で見てもらえる、商品の理解が深まるでしょう。

お客さんがポップを見たあとは、必ずスタッフがポップを元に戻します。

そうすることでいつも整頓されるし、品だしもスムーズにできる。

一石二鳥だよね。

ポップは私が考えて、奥さんに書いてもらっています。

約1,500種類、全部です。

和紙と筆を使っているのは、洋風のものでも生活のなかに取り込めるように。

小さなポップのなか、せいぜい50文字くらいにどんな言葉をいれるか、いつも悩みますね。

──商品は約1,500種類とありますが、そのなかでも特におすすめを教えてください。

森田────

これはもう「吉田牧場のチーズ」です。

私はとにかく全作さん(吉田牧場・吉田全作さん)が好きなんですよ。

物を作ること、そのものの原型のような人なんです。

吉田さんは自分の家族のためのチーズ作りをしている人。

家族のためのチーズなんだから、悪いはずがないんです。

牛にもすごくこだわっていて、吉田さんは自分でブラウンスイスという牛を育てて、そのミルクでチーズを作っています。

ホルスタインなんかに比べるとミルクの量は少ないんだけど、吉田さんのチーズはブラウンスイスじゃないとだめ。

手間暇もお金もすごくかかるんだけど、絶対に妥協しない姿が好きです。

あとはオリーブオイルですね。

良いオリーブオイルの選別ってどうするか分かりますか?

飲んでみることが1番なんですよ
本場イタリアのオリーブオイルは、油臭くなく、ナッツや青リンゴのような爽やかで香ばしい香りがします。

平翠軒は、オリーブオイルをイタリアから5リットル缶で輸入しています。

個人のトレーダーに頼んで空輸してもらうので、新鮮なものが手に入るんです。

平翠軒のオリーブオイルを一度でも使った人は離れませんよ。

──お店を続けて印象に残っていること、良かったと思うことは何ですか。

森田────

リピーターが増えてきたことでしょうか。安心して物が食べられる証明になったかな。

良い物を作ろうと思うと、そもそもの素材が良くないといけませんよね。

これは真面目に物作りをしている人みんなが困っていることなんだけど、良い素材になればなるほど、真面目に物を作ろうとするとコストがかかります。

どうやって家族を養うか、無駄を無くすか、生産者は頭を悩ませています。

高い物は高いだけ、安い物は安いだけの価値なんです。

良い物っていうのは、作る人と使う人が一緒になって考えていくんです

良い物を家族に食べさせようとすると、高いお金がいるから一時的にマイナスになるけど、将来絶対プラスになって返ってくると思う。

食べ物を通して学ぶことはとても多いですよ。

ただ単純に、美味しい、まずい、高い、安いだけの話ではないと思います。

美味しい、の背景にある物語「おいしいものブティック平翠軒」

平翠軒の食品カタログ、「ごちそうの絵本」という冊子があります。冊子に、こんな文章が書いてありました。

私たちにとって食べ物とは風土との素晴らしい関係の象徴ではないか、自然と人間とのかけがえのない交わりの結晶ではないかということです。

飽食と呼ばれている時代で、そのような食べ物が、意外と少ない、分からないような気がします。

本当に美味しいもの、良いものは、きっと、作り手の思いまで感じられるのではないでしょうか。

平翠軒の商品のひとつひとつは、森田社長が各地で出会った軌跡、そのもののような気がします。

作っている人の顔が見えるもの、物語や背景が感じられる食べ物。

平翠軒へ行けば、きっとお気に入りの一品が見つかることでしょう。

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