知って得する感染症の豆知識(前編)

バクテリアは「生物」

ウイルスは「構造体」

Q. 感染症にはどんな種類がありますか?

A.

ウイルス、バクテリア(細菌)、真菌(カビ類)、寄生虫、アメーバ、さらにはプリオンなどが原因となって起こる病気は全て感染症と考えられます。

実に多くの感染症があり、人類の歴史は感染症との戦いの歴史でもあります。14世紀ヨーロッパの黒死病はペスト菌が原因でした。文明が発達して公衆衛生も向上し、医学も進化した現代では、世界規模のパンデミックを引き起こすのはウイルス感染にほぼ限定されると言っても過言ではないでしょう。1919年のスペイン風邪は、インフルエンザウイルスが原因でした。

「ちまたに出回っている、この赤いスパイク(突起)がある新型コロナウイルス感染症(Covid-19のウイルス)のイメージは、コンピューターグラフィックで色を付けてわかりやすくしただけのもの。肉眼で見えないほど小さく、10億分の1メートルの大きさしかないウイルスには、色も何もありません。電子顕微鏡で見ると、ウイルスがモノクロ状態で点在するのが確認される程度です」と斎藤先生

Q. ウイルスとバクテリアの違いは?

A.

まず大きさが全然違います。バクテリアがミクロ(100万分の1メートル)なら、ウイルスはナノ(10億分の1メートル)と、ウイルスの方が格段に小さいです。

そして、バクテリアが腺毛や鞭毛を持ち、自分で動き、外部から栄養を取って生きる「生物」であるのに対して、ウイルスは遺伝情報を含むDNA(デオキシリボ核酸)がたんぱく質の殻に入っているだけの「構造体」にすぎません。自分で外部から栄養を取り入れることも、自力で動くこともできません。そんなウイルスが存続し続けるには、ホスト(動物や人間)の細胞やバクテリアに入り込み、その細胞の増殖機能を利用するしかありません。新型コロナウイルスもしかり。体液(唾液など)による飛沫感染や空気感染でホストからホストへと渡り歩き、繁殖を繰り返します。

ウイルス、特にRNAウイルスは、生き延びるために簡単に変異できるという特技も持ちます。ただ、変異を重ねるごとに感染力が増す代わりに、毒性は弱くなる傾向にあります。今回のパンデミックでも、デルタ株までは毒性が強かったのですが、オミクロン株に至ってからは、感染力は増したものの、確実に弱毒化してきたと言えます。

それから、ウイルスよりもさらに未知の構造体なのが、狂牛病の感染源でもあるプリオン。主にタンパク質でできており、増殖や感染の仕組みなどは解明されていません。

Q. 新型コロナ感染症は撲滅できますか?

A.

インフルエンザが撲滅されていないように、新型コロナウイルス感染症の撲滅も難しいでしょう。ただ、変異過程でどんどん弱毒化するので、今後は新型コロナとの共存時代に入ります。欧米はその辺をすでに見極め、共存体制に入っています。

共存時代に大事なのは、なるべく多くの人がワクチンを接種し、ウイルスの感染、増殖の機会を奪うこと。コロナワクチンは莫大な量のデータが支持する安全なワクチンです。誤情報に惑わされず、しかるべき情報源から正しい情報を得てください。ワクチンは、感染しないためのものではありません。感染率を下げ、感染した場合の重症化を予防するためのもので、自分と、周囲の人を守るために打つものです。

最近発表されたイスラエルの調査で、ファイザー、モデルナ製ワクチンを2回接種し、ブースターを1回打った人と2回打った人を比較したところ、感染率はほぼ同じでしたが、重症化率は2回打った人が格段に低いことが分かっています。今後は、頻度は分かりませんが、インフルエンザ同様に定期的にワクチン接種をして、感染した場合の重症化を回避することで新型コロナウイルスとうまく共存していかざるを得ないでしょう。(後編につづく)

斎藤孝先生
Takashi Saito, DO
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感染症専門医。
DO=Doctor of Osteopathic Medicine。
MDと共に米国の医師学位。
東京外国語大学フランス語学科卒業後、住友商事入社。
米国駐在員を経て、米国医科大学院入学。
ニューヨークで内科レジデンシーと感染症フェローシップ修了。現在ニュージャージー州Hackensack Meridian Healthで感染症指導医、同医科大学院(Hackensack Meridian School of Medicine)助教授。

Hackensack Meridian Health
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