絶景と秘湯に出会う山旅(44)日本百名山の羊蹄山とニセコ昆布温泉・ホテル甘露の森

富士山に似た円錐形で蝦夷富士とも呼ばれる北海道の「羊蹄山」。標高は1,898mで、初夏になると100種類以上の高山植物が花を咲かせます。その花々をぜひ観てみたいと、快晴の日に往復9時間かけて登頂しました。そしてニセコ昆布温泉の「ホテル甘露の森」に宿泊。気持ちいい汗をかきました。

美しい山容 日本百名山の羊蹄山へ

北海道の山は、これまでは大雪山を縦走したことがあるだけでしたが、ようやく、北海道2つめの百名山に挑戦することができました。本州は梅雨のさなかでしたが、天気を見計らって6月下旬、南側に位置する真狩村の羊蹄山自然公園登山口に向かいました。公園にはキャンプ場やテニスコート、子どもの遊び場もあります。

いまでは「羊蹄山」という名称で定着していますが、実は『日本書紀』に「後方羊蹄山(しりべしやま)」という名で登場しているそうです。『日本百名山』の著者・深田久弥は「山は歴史や信仰、そして人びとの暮らしとともにある」といい、単に「羊蹄山」と略すことに反対したそうで、同書には「後方羊蹄山」と記されています。

さて、羊蹄山への登山コースは4つあるといいます。倶知安(比羅夫)コースは登り5時間で下り3時間45分、真狩コースは登り5時間30分で下り4時間、京極コースは登り4時間で下り3時間30分、喜茂別コースは登り4時間で下り3時間45分。

それぞれ長所短所があるようですが、今回はニセコに宿を取ったので、真狩村の羊蹄山自然公園から真狩コースを登ることにしました。

登り始めると樹林の中を歩くことになりますが、登山道横のフキの葉っぱの大きいこと。やはり北海道は植物も大きく育つのですね。

以前、入笠山でも見かけたことのあるアマドコロ。ひょっとしたらオオナルコユリかも?

次第に足元の石が大きくなってゆきます。4合目あたりから傾斜がきつくなってきたようです。

6月下旬の北海道とはいえ、快晴だったので暑い一日でした。でも、登山道の脇に咲く花々に癒やされます。こちらはウコンウツギ。5合目くらいからたくさん見かけるようになります。

こちらはハクサンチドリ。白山に多く見られたこと、そして千鳥(チドリ)の飛ぶ姿に花の付き方が似ていることから名付けられたそうです。

左を向くと、避難小屋の向こうに標高1,308mのニセコアンヌプリが見えました。北海道ならではの雄大な風景が広がります。

この避難小屋は、倶知安コース9合目と真狩コース8合目の中間地点にあります。収容人数40名で、6月中旬~10月上旬は管理人が常駐しますが、売店はありません。水や食料は必ず持参してください。

9合目まで来ました。この周辺は細かな砂地のザレ場で、足がとられて登りがきつくなっていきます。とはいえ、このザレ場周辺は高山植物の宝庫なのです。

たくさんの高山植物に出会う

上の写真のシラネアオイが、あちこちに咲いていました。栃木と群馬をまたぐ日光白根山に多く見られたこと、花がタチアオイに似ていることからシラネアオイと名付けられたそうです。

ほかにも、下の写真のキバナシャクナゲをはじめ、さまざまま花々が咲き乱れているのには驚きます。

羊蹄山の9合目から上は高山植物の世界だそうです。特に北西の比羅夫登山口から登る倶知安コース9合目から山頂周辺は、国の天然記念物に指定されているほど。

7月から8月上旬には標高1,700m以上の山頂周辺で100種以上の高山植物が花を咲かせるというのです。とはいえ、今回のルートも十分に高山植物を観ることができます。

花を愛でながらザレ場を乗り越えて、ついに山頂の火口が見える場所までやってきました。ここにきてわかったのは、火口が一つではなく複数あること。一番大きい火口「父釜」は直径700m、深さ200mもあるといいます。大きい順に「母釜」「子釜」と名前が付けられています。

反時計回りに最高所を目指します。大きな岩がゴロゴロ。それらを乗り越えて進むことになります。

火口周辺の岩場にも特有の花々が咲いていました。ピンクの小さな花はエゾノツガザクラ、輝くような黄色の花はミヤマキンバイでしょうね。美しく輝く花々に感動します。

岩場を乗り越え、高山植物に癒やされながら、ついに最高所に到着です。標高1,898m地点。この日は天気に恵まれました。

山頂から火口全体を撮ろうとしたのですが、広すぎてカメラに収まりません。この後、この火口をぐるっと一周しました。

麓と1,500mの標高差がある羊蹄山。山頂の気温は麓よりマイナス10℃が目安です。しかも単独峰なので、9合目より上は強風が吹くことが多く、急激な天候悪化や気温変化もあるといいます。天候には十分に気をつけて登ってください。

羊蹄山自然公園

住所:北海道虻田郡真狩村社

電話:0136-45-2955

公式サイト:https://www.vill.makkari.lg.jp/kanko/asobu/natural_park

「ニセコ昆布温泉 甘露の森」に癒やされて

今回宿泊したのは、ニセコ昆布温泉の「ホテル甘露の森」。ニセコの観光地からは離れた山あいの森の中にあります。静かで気持ちのいいロケーション。「甘露」とは不老不死をも意味しますが、周囲の森がリフレッシュさせてくれるということなのでしょうね。

ちなみにニセコ温泉郷には10カ所以上の温泉があるといいます。昆布温泉とは珍しい名前だったので調べてみると、もともとは地名で、アイヌ語の「トコンポ・ヌプリ」(小さなコブ山)に由来し「トコンポ」が「昆布」となったといいます。

外資系の立派なホテルから民宿まで、ニセコにはたくさんの宿がありますが、リーズナブルな値段と評判の良さでこのホテルに決めました。玄関先の雰囲気からもよさそうな印象を受けます。

北海道の宿だけあって、建物は頑丈で広々としています。そして何よりもうれしいのは、どこも大きな窓で、緑の光が差し込んでくること。リラックス効果とでもいうのでしょうか、気持ちがゆったりと、そして晴れ晴れとします。

館内のオブジェも凝っています。夜にはロビーラウンジで「森の演奏会」と題した音楽会が開かれます。この夜もピアノと声楽でクラシックコンサートが開かれていました。地元の演奏家による生演奏で歌やピアノやギター、バイオリン、サックスにウクレレなどを楽しむことができるそうです。

部屋はいたってシンプルですが、窓からは緑の木立が目の前に見えます。まぶしいくらいの緑。

爽快感間違いなし「森の天空露天風呂」

(C)ホテル甘露の森

登山で汗をかいた後は温泉にかぎります。上の写真は大浴場です。広々として大きな窓から緑が差し込んできます。泉質は含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉(硫化水素型)で、メタケイ酸が1kg中200mg以上もあるという、まさに美肌の湯。大浴場はかけ流し循環併用で、露天風呂は源泉かけ流しだそうです。

(C)ホテル甘露の森

その露天風呂ですが、これがすばらしいのです。緑の木立のなかに突き出した東屋のような「森の天空露天風呂」。男女別々にあり、時間を気にすることなく、ゆったりとお湯と緑を満喫できます。手を伸ばせば木の葉に届きそう。北海道ニセコならではの大自然を感じる露天風呂です。

一味違う 北海道の海の幸山の幸

食事はレストランでいただきました。基本は和食洋食を組み合わせたハーフビュッフェですが、この時はコロナ禍のためにコースの料理となっていました。

山あいですがお造りも。上の写真は牡丹海老に噴火湾産の蛸、そして紅トロ。

こちらは豆腐と野菜の豆乳鍋。北海道の幸は何でもおいしいのですが、特に野菜はホクホクして甘みを感じますね。下の写真は海老とキノコのオイル煮。

ちなみにハーフビュッフェは和食と洋食を組み合わせたもので、上の写真のような季節のお造りに陶板料理、メイン料理(肉料理または魚料理)のコースに、前菜や季節の料理、デザートなど好きなものを選べる仕組みだそうです。

デザートはホテル自慢のクリームブリュレでした。気持ちのいい陽気のなか、山歩きと気持ちのいい温泉を存分に楽しむことができました。

ホテル甘露の森

住所:北海道虻田郡ニセコ町ニセコ415

電話:0136-58-3800

公式サイト:https://kanronomori.com

[All Photos by Masato Abe]

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