舞台『薔薇王の葬列』演出 松崎史也 インタビュー

菅野文によるファンタジー漫画『薔薇王の葬列』、シェイクスピアの有名な史劇『ヘンリー六世』と『リチャード三世』を原案とし、『月刊プリンセス』で2013年11月号から2022年2月号まで連載された。2022年にテレビアニメ版が放映、そして満を持しての舞台化。白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家の王位を巡る戦い「薔薇戦争」を描いている。シェイクスピアの原作ではリチャード三世は醜悪不具として描かれているが、ここでは男女両方の性を持つ人物として描かれている。数多くの2.5次元舞台を手掛け、今回、この作品の演出を手掛けることになった松崎史也さんのインタビューが実現した。

――この作品の演出を手掛けることになったことについて感想を。

松崎:自分がもともとシェイクスピア作品を脚色、演出してきたこともあり、2.5次元を主戦場としてやってきたこともあり、こういうタイミングでこの作品を自分が演出するのは然るべきときに然るべき話が来たなと思いました。

――『薔薇王の葬列』はカテゴリ的には2.5次元かもしれませんが、ほかの作品とは違った印象を受けます。

松崎:はい。そもそも僕が2.5次元作品を手掛けることになったのが、ここ7~8年で、作品がすでに多様化している状態だったので。あまり2.5次元演劇というものに抵抗や偏見はそれほどなかったんですね。どちらかというとかなり演劇として正しい部分もあると思って作っています。例えばシェイクスピア作品をやるとなると、すでにロールモデルがいくつもあって、役柄だとか時代背景を研究してから挑みますよね。それは2.5次元演劇をやる場合の作業と近いんです。それが完全オリジナルの場合は研究対象が少ないから、基本的に自分の想像力だとか、脚本と演出の相互理解によってのみ進めることになる。もともと、わりとどちらもやっている自分としては、調べられるものがあってそれを使うか使わないか、演劇を作っていくとして近いものがあるのかなと感じていまして。もちろんセリフの使い方とか世界観というものは作品によって違いはありますけれども。

――この作品は、漫画原作でありながらシェイクスピアだなとも思います。使われている言葉自体が、ところどころ坪内逍遥による訳(※)が入っていますし。

松崎:菅野先生が本当に好きで書いていらっしゃるんだなというのが伝わってきますよね。翻訳されている、いくつかの『ヘンリー六世』と『リチャード三世』をお読みになったうえで再構築している。それは自分もシェイクスピア作品をやったときにしている作業で、ここは現代的に理解していただくにはこうだよな、でもここは残したい、みたいな。共感できる部分はすごく多いですね。圧倒的に、いわゆるシェイクスピア的台詞回しというのを残したいんだという意思が端々に現れていますよね。それを漫画で表現するのは、生身で表現するよりもすごく難しいことだと思います。いつまでも長ゼリフ的にフキダシを大きくして文字を並べればいいわけではないから。それはコマを割りながら、別の回想であったり他の人のシーンをはさみながら、同じ人物のセリフが続いているような手法を取って工夫もされています。そこが素敵なところですけれども、一方これをまた舞台にするとなるとその表現のままやるのか。戻すという言い方ではないんですけど俳優が生身でやる場合は、どういう表現がふさわしいのか、いわゆる原典に対して適切であるかということを選び取り直すということになるなと思っています。

――アニメでも脚本を書かれていた内田さんが舞台でも同様に担当されていますね。

松崎:内田さんも僕が考えている課題を同じように考えていらっしゃったみたいで、共感していただけました。アニメで一度描いている分、キャラクターと世界と物語の理解がそもそも高いので、舞台ではここを表現したいということに対するレスポンスが早くて助かりました。

――一方、楽曲はアニメと違う、舞台オリジナルになっています。舞台ならではの『薔薇王の葬列』はどのように表現したいと考えていらっしゃるのでしょうか。

松崎:原案がそもそも「読み物としてのシェイクスピア」ではなく、「舞台のシェイクスピア」なんですよね。俳優が上演するという前提に基づいた「演劇」。それを分解、再構築したのが漫画で。さらにアニメを経て今回の舞台でさらにリビルドしている。再現するのが1つ前のアニメだけではなく、3つあるもののどこをどう立てていくと『薔薇王の葬列』という作品自体の表現しうる面白みを表せるか、演劇として上演できるかということを探っていく作業になります。なので、シンプルに見どころみたいなとことでいうと、薔薇の花びらが降ってくる表現は漫画やアニメで多用されていますよね。やっぱり劇場の空間で実際に降ってくるものと俳優を両方観られるというのがそもそも演劇の魅力であると思っていて、ここが演劇表現にできるのかという箇所が見どころになるのではないかと。

――リチャード三世も人物像として非常に癖があるというか。そもそもシェイクスピア自身もそういうのができる俳優がちょうどいたから当て書きしたんじゃないかという推測もできそうですね。

松崎:そうですね。いくつかやっていると「この役とこの役は同じ俳優だったんだろうな」というのが見えてくるんですよね、シェイクスピア演劇は。最近イギリスの駐車場でリチャード三世の骨が見つかったんですよね。そしたら本当に「背中が湾曲」という…だからその伝承ありきで書いたのか、俳優に合わせたのか、というのはシェイクスピアのみぞ知るという感じだったんでしょうね。それを、男女両方の性を持っているが故の、ねじれというものを違う形で表現していることが、ある種キャッチーな、引きの強い設定にしつつもより苦しみというのがリアルさを持って届く部分もあります。
男性性、女性性両方とも満たされないという苦しみを描くのが、苦しんで生きてきたうえに、王位を渇望するしかない道を選ばされるというのが、原作をすごく大胆に解釈したうえで説得力を持たせているなと思いました。そのリチャード三世に対する表現が『薔薇王の葬列』のおもしろさでもありますよね。

――男女両方の性を持っている設定をしたというところが、この作品の芯の部分であるとも言えますよね。原作の『リチャード三世』とは違うところでのコンプレックスであったりとか。そういうことであるからこそ、お母さんからネグレクトを受ける。そこのところが非常にキモですよね。

松崎:ええ。テーマが非常に現代的になっていると思います。

――今回の配役も、非常に興味深いですが。魅力を感じている部分は?

松崎:主演の2人に関しては、若月さんも有馬くんも、自分のそれぞれ別の作品で主演として出ていただいているんですね。でもうれしいことに、僕がその2人をここに連れてきたわけではなく、制作陣が「リチャードの苦悩を表現するにはふさわしい」ということでピックアップしているんです。こういう形で物語を背負ってもらうには非常に信頼できるキャスティングをされたということが、作品にとっても推進力になると思います。
あと、その二人以外のキャストに関しても、全員が全員、頼もしい方ばかりなので。長くやっていていつでも素晴らしい結果を出してくれる人もいれば、今いちばん脂が乗りまくっている人もいる。初々しくて、この演劇でどうなるかわかりません、みたいな俳優ではなくって。もちろん、フレッシュさがいい方向に向かうことって多いですが。でも、今回はすでにいくつもの演劇を経て、こういう表現を求めているという俳優たちだと思うので。自分が『薔薇王の葬列』をやるのであれば周りの想像以上を超えた表現をしてくれる、意欲的に、野心的に取り組んでくれる俳優たちが揃ったなと思います。割と主演級の一騎当千みたいな人ばかりなところが、シェイクスピア的になるのではないかなと思います。

――それから、和田さんがヘンリーのような儚げな役をやるのにも注目したいです。

松崎:そうですね。琢磨くんのほうが原作のヘンリーよりもずいぶんしっかりしているというか(笑)。線の細いというか消えてしまいそうなヘンリー像があると思うんですけれど。生身で表現する際にヘンリーの、王であることへの苦しみを演劇で表現する上では演技の幹がしっかりしている方がいいかなと思っていて。リチャードに対してのヘンリー、だけではなくヘンリー六世としての人生が感じられる物語を作りたかった。そうなると雅さと質量を感じさせる俳優として和田琢磨くんがよかった。ヘンリー六世の表現が都合よい、ウソっぽいものにならないためにはかなりの技術と経験値が必要ですしね。

――それでは、最後にメッセージを。

松崎:もともと演劇がスタートであるものを巡り巡って演劇で表現するという行為が、正しいのか間違っているのか、面白いのかそうでないのかということも含めた非常に意欲的な試みであると思っています。演劇から一度離れているものだから、それをもう一度舞台上で表現するというのが果たしてこの作品にとって正解の見せ方なのだろうかということにきちんと向き合いたいと思っていまして。それをするには脚本が、とか演出が、というだけのプランの作業ではなく、シェイクスピアの時代は照明も音響もない、俳優がただ舞台に立っているということで演劇が成立していたので、もういちど俳優が眼の前で演技するということに立ち返る様子を観ながら稽古の中で注意深く「演劇」にすることによって生まれる面白さを探っていきたいと考えています。劇場に楽しみに観に来ていただきたいと思います。お客様に観ていただいた上で初めて演劇が完成したとも言えるので、一緒に作品を作りに来ていただきたいと願っております。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

<稽古の様子>

物語
中世イングランド。
白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家による王座を巡る戦い――“薔薇戦争”。
ヨーク家の三男として生を受けたリチャードは、同じ名を持つ父の愛を一身に受けるが、実の母セシリーには「悪魔の子」と呼ばれ蔑まれていた。
戦乱の中、父・ヨーク公爵を王にすることを願うリチャードは、森で羊飼いの青年・ヘンリーと出会い、束の間の逢瀬に心を通わせる。互いの正体を知らぬ二人。しかしヘンリーの正体は、宿敵ランカスター家の王・ヘンリー六世その人であった。
リチャードは運命の戦禍を必死に生き抜いていく。
その身に宿す「男」と「女」、二つの存在に身を引き裂かれそうになりながら――。

概要
日程・会場:2022年6月10日〜6月19日 日本青年館ホール
原作:TVアニメ「薔薇王の葬列」
演出:松崎史也
脚本:内田裕基
[出演]
リチャード:若月佑美/有馬爽人(Wキャスト)
ヘンリー:和田琢磨
エドワード:君沢ユウキ
ジョージ:高本 学
ケイツピー:加藤 将
ウォリック伯爵:瀬戸祐介
エドワード王太子:廣野凌大
アン:星波
セシリー:藤岡沙也香
マーガレット:田中良子
ヨーク公リチャード:谷口賢志 ほか

制作:バンダイナムコクリエイティブ/Office ENDRESS
主催・企画:舞台「薔薇王の葬列」製作委員会

公式HP:https://officeendless.com/sp/baraou_stage/
公式ツイッター:https://mobile.twitter.com/baraou_stage

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし

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