2022参院選長崎 コロナ禍の面会 「国が方針出してほしい」 政治への視線・2

長女(左)と次女(右)に囲まれて面会をする入所者=長崎市、王樹

 「世の中はウィズコロナに向かっているのに私たちは取り残されている」。福岡県に住む50代の女性はやるせない思いを語り始めた。80代の両親は長崎県内の高齢者施設で暮らす。施設の決まりで、県外の人が面会するためには県内で2週間の待機が求められる。コロナ禍になって会える機会は激減した。
 政府は6月10日から訪日外国人観光客の入国手続きを再開。「検査や待機がいらない旅行者もいると聞くと、なぜ施設は変わらないのかと思ってしまう。施設任せではなく、国が方針を出してほしい。高齢者に残された時間はそんなに長くはない」と切実だ。
 約2年間、感染者を出さないために厳しい制限を設ける“ゼロコロナ”を続ける高齢者施設は「まだ多い」と話すのは別の施設に勤める男性ケアマネジャー。「お年寄りは感染したら重症化してしまうという心配が常に頭をよぎる。経営者は特にクラスター(感染者集団)を起こしてしまうと、どんな批判が待っているのかと恐れている」

 一方、「利用者の生活の質を上げたい」とウィズコロナへかじを切った施設もある。長崎市古賀町の高齢者施設「王樹(えんじゅ)」。6月下旬、面会室には家族の笑い声が響いていた。入所者の男性(95)は全盲で耳も聞こえづらいが、長女と次女が耳元で呼びかけるとうれしそうにうなずいた。
 関東に住む長女は待機を求められることもなく、帰郷翌日に再会できた。「もう95歳。会えないままお別れになってしまったら辛い。本当にありがたい」とほほ笑んだ。
 王樹でも他の施設同様、厳しく規制していた時期はあった。しかし、家族の希望に添えない申し訳なさをスタッフは抱えていたという。施設の運営会社「LIFE・DESIGN」の勝矢圭一代表取締役は「病院が病気やけがを治す場所だとしたら高齢者施設は利用者の生活の場」と考える。だからこそ、「感染のリスクはいくらか許容しながらも家族や世間と交流しながら生活を送ってもらうことを選んだ」と語る。
 同市下町の介護付き有料老人ホーム「アルファリビング長崎大浦」はさらに一歩踏み込んだ。6月1日から県外の家族でも検査なしでそれぞれの居室で面会できるようにした。施設長の女性は「感染防止の緊張感は保ちながらも、ご家族の思いを第一に考えて判断した」。家族には高齢者が感染した場合の重症化リスクを説明。マスク着用を徹底してもらい、飲食も控えてもらっているという。
 感染症に詳しい長崎大学病院の森内浩幸教授は「2週間の待機はさすがにやり過ぎ。家族と長い間会わないことで認知機能の衰えが早まることもある。検査で陰性なら会えるようにしてはどうか」とし、「誰もが納得できる部分から少しずつ緩和し、(クラスターなど)マイナスのことが起きてもバッシングしないような世論ができれば変わっていけると思う」と助言する。


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