長崎・男児誘拐殺害から19年 子どもの立ち直り、司法と福祉両面で支え

夜まで明かりがついた「県長崎こども・女性・障害者支援センター」。子どもの健全育成のため、職員はひたむきに取り組んでいる=長崎市橋口町

 2003年に長崎市で4歳男児が12歳の少年に殺害された事件から1日で19年。事件後、子どもを被害者にも加害者にもしないための取り組みが進む。昨年度から運用を始めた県再犯防止推進計画でも非行防止を掲げ、関係機関の連携を求めている。こうした中、犯罪者の更生を支える保護観察官が人事交流で児童相談所に赴任。司法と福祉の両面から、子どもの立ち直りを見つめている。
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 苦しむ子どもの姿を目の当たりにした。虐待を受けた子どもに接し「心の傷の回復は本当に難しい」と実感した。同時に、別の思いもよぎった。「この子たちが保護観察所に来ることがありませんように…」
 昨年4月、県長崎こども・女性・障害者支援センター(同市)に赴任したAさんの本職は保護観察官。犯罪者や非行に走った少年の更生に携わってきた。再犯防止推進計画の策定作業の中で県と長崎保護観察所の人事交流が実現し、以前から興味があった児相で勤務することになった。
 児相では児童福祉司としてケースワーク業務に当たる。虐待通告を受け子どもの保護に急行することもあれば、不良行為や家庭の理由で生活指導が必要な子どもを支える「児童自立支援施設」に入ることもある。
 衝撃を受けたのは虐待された子どもたちの姿。体の傷はもちろん、フラッシュバックに苦しむなど心の傷の深さを目の当たりにした。加害行為の責任は重く、再犯を防ぐ更生保護の役割も大きいと痛感した。
 同時に、保護観察所で接してきた対象者の姿も思い浮かんだ。幼少期に傷ついた体験が十分にケアされないまま、犯罪や非行に手を染める人たちも多い。「(彼らは)満たされない思いを持っていた」。被害と加害は時にコインの裏表のようでもある。
 傷ついた子どもたちにどう接するべきか-。児相ではチームでの情報共有を徹底し、一人一人に合わせた対策を検討。面接では子どもの興味や理解に応じた話し方をしており「子どもにとっての安全・安心を一番に考える」姿を学んだ。自身も児童自立支援施設で指導に当たる際は「気持ちを受け止め、寄り添うことを意識している」という。
 人事交流は本年度まで。「今後どのように連携し、自分がどう潤滑油になれるか」日々模索している。ただ、司法も福祉も社会の安全安心を目指す点は同じ。更生保護の現場に戻っても、被害を受け葛藤を抱える子どもの姿は絶対に忘れない-そう、心に決めている。


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