アイスホッケーの「最高峰」NHLを目指し本場で挑戦するFW平野裕志朗 2部相当AHLで日本生まれの選手として初ゴール

AHLの試合に臨むアボッツフォード・カナックスの平野裕志朗=1月(アボッツフォード・カナックス提供=共同)

 アイスホッケーで最高峰の北米プロリーグ、NHLを目指し、26歳のFW平野裕志朗が本場での挑戦を続けている。日本勢ではGK福藤豊(栃木日光)とカナダ人の父、日本人の母を持つDFジョーダン・スペンスの2人しかプレーしていない舞台。今季は2部相当のAHLで日本生まれの選手として初のゴールを決めるなど道を切り開いた。結果を残せた要因や夢の実現に向けた思いなどを語った。(共同通信=星田裕美子)

 ▽2季ぶりの挑戦

 ―昨季は新型コロナウイルスの影響で契約した3部相当のECHL、サイクロンズがリーグ参戦を見送りました。1シーズンを思わぬ形で失いましたが、2季ぶりの北米リーグ挑戦を終えていかがですか。

 「ためてきたものを出し切れた。昨年話したときもここ数年が勝負と言ったが、新型コロナの状況下でたどり着ける最大限のところまで行けた」

 ―ECHLでは25試合で16ゴール、13アシストの驚異的な数字です。

 「最初の5試合は(ゴールもアシストもない)ノーポイントだった。昨年9月末に渡米するはずだったが、ビザの関係で開幕戦が2日後という状況で行った。時差ぼけで体もだるだる。流れがつくりづらかったが、5試合が終わって、これじゃ駄目だと思ったのがきっかけ。その後の20試合で29ポイントを取れたのは大きいし、自分でもびっくりした」

インタビューに答える、アイスホッケー男子日本代表のFW平野裕志朗=5月

 ―1月にはAHLに昇格。予感はありましたか。

 「いろいろなトラブルがあった。クリスマス前くらいにトロント・メープルリーフスの傘下から声がかかったが、チームがコロナで活動休止になって話がなくなった。次はタンパベイ・ライトニングの2部に呼ばれたが、今度は自分がコロナにかかってなくなった。最後にアボッツフォード・カナックスからタイミングよく呼んでもらった。呼ばれてもすぐに落とされることが結構多い環境で、カナダに行くにはビザをわざわざ取らないといけない。それだけのお金(と労力)をかけて呼んでくれるということは少しは見てもらえるだろうと思って決めた」

 ―カナックスに入った当初の雰囲気はどうでしたか。

 「アジア人がプレーすることはなかなかなかったので、結果を出すまでチームメートや相手チームからは厳しい目で見られていた。本当に試されていて、安心感を出した時には終わりだなというくらい切羽詰まった環境だった。そういった状況は1秒も気を抜けない。不安はもちろんあったが、結果がどうなっても楽しむしかないなって。最初はチームのために何ができるかを考えてやっていた。ミスをしてもいいから対応力のある選手を目指した」

 ▽苦悩が生きた今季

 ―ECHL挑戦1年目の2018~19年シーズンは果敢に1人で攻める持ち味を封印し、チームから求められるプレーに徹しました。苦しい時間だったと思いますが、今回の対応力につながる部分はありましたか。

 「今シーズン終わりにコーチが『ユウシロウはどんな選手とどこに入ってもできるよね』と言ってくれた。『(GKを除く5人1組で主力の)1、2セット目ではスキルで点を取りに行くプレーも、3、4セット目で(前線で相手に重圧をかける)フォアチェックにどんどん行くようなプレーも、どっちもできるよね』と。以前苦しみながら自分を捨ててプレーした時期がすごく生きたと感じた。1年目は自分を捨てるということに葛藤があって、それを崩してまでチームに対応しなければいけないのかという思いが心の中にあった。今回はそこがすんなりできたからこそプラスアルファの部分もすぐに出せた。1年目の学びがあったことが今回、AHLで長くプレーできた要因」

AHL初ゴールの記念パックを持つアボッツフォード・カナックスの平野裕志朗=1月(アボッツフォード・カナックス提供=共同)

 ―オフにどんなことに取り組みたいですか。

 「今まではフィジカルで負けない体づくりをしてきたが、もっと一歩を速く出せる体にすることが大事だと感じた。体重を落としたり、筋肉のつけ方を変えたりしたい。AHLでは選手のプレーの読みがすごくいい。パスを通すタイミングと場所が大事で、今まで通っていたパスが最初は全く通らなかった。必ずスティックに当てられていた。その感覚をやっとつかんだので、オフシーズンも練習したい」

 ―体づくりもプロとして追求する大事な要素だと思いますが。

 「もっと早く気づきたかった。20代前半はお酒も食べるのも大好きでトレーニングをすればいいだろうという考えだったが、ちゃんと管理できるようになった。帰ってきてから日本食の誘惑はある。以前は毎日外食しておいしいものを食べ尽くしたが、今は家で自炊している。そういった管理もできるようになった。トレーニングでは陸上男子十種競技の右代啓祐さんと仲良くさせてもらっている。すごく苦しそうなトレーニング動画を送ってもらう。米国にいる時に「この筋肉を鍛えたいんですけど」と言うと、わざわざ動画を撮って送ってくれた。同じアスリートだから分かる部分を共有できる。モチベーションにもつながるし、右代さんみたいに結果を出してきた人だから刺さる言葉がある。それに同じ競技の人には言えない感覚をお互いに話し合えるのはすごくいい時間」

 ▽NHL挑戦の来季

 ―AHLで30試合に出場し、NHLまでの距離はどう感じましたか。

 「今まではNHLへの道を1本でしか考えていなかったが、一番近いリーグにいたからこそ上がるためにいろいろな選択肢が見えた。各選手のプレースタイルもあるが、上のチームがどういう選手を必要としているかをしっかり理解して続けることができればチャンスがあるのでは。上でやっている人たちは簡単に落とされないし、クビにもならない。残りの数枠を何千人、何万人で勝負していかないといけない。NHLにどう上がるかという感覚では近づいた気がした」

インタビューに答える、アイスホッケー男子日本代表のFW平野裕志朗

 ―来季は勝負の年になります。

 「そうですね。来シーズンはAHLでスタートして、ワンシーズンをプレーし続けることが最低限(の目標)だと思っている。まずはチームの中でトップに立って、必要とされる選手を目指したい。そうすれば上がるチャンスは来る」

 ―道を切り開いていくことに対しての思いは。

 「自分がNHLに行けばメディアももっと取り上げて、日本のアイスホッケーは必ず盛り上がると思っている。もちろん(キングズで今季デビューした)スペンスもいるが、ずっと日本で育ってきたのは自分。本当に人生を賭けて目指したい」

 ―レギュラーシーズン終盤にチームを離れ、日本代表として世界選手権ディビジョン1B(3部相当)に臨んだが昇格を逃しました。日本男子の未来をどう捉えていますか。

 「ここ10年くらいそうだと思うが、最後の最後で勝ちきれない。その課題をアイスホッケー界全体で分かっていないと成長できない。悔しい思いをしても1年後には忘れてまた惜しかったね、で終わる。その期間で何をするかで変わるのに、人間だから忘れるよね、と甘えている。日本のアイスホッケー界がどこを目標にやっているのか分からない。それを明確にしてほしい。まずは早くNHLに行って、物申せる存在になりたい」

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 ひらの・ゆうしろう 1995年生まれ。強豪の北海道・白樺学園高で全国高校選手権2連覇。スウェーデンや米国のジュニアリーグを経験し、NHLドラフト候補に挙がった。2018~19年から2シーズンはECHLのネイラーズで主にプレー。21~22年はECHLのサイクロンズで活躍し、今年1月にAHLのカナックスと契約した。

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