佐野元春インタビュー ④ 僕のリリックはコヨーテバンドの演奏でより豊かに響く  「今、何処(WHERE ARE YOU)」は深いアルバム。きっと10年後に聴いても楽しんでもらえると思う。

ポップミュージックは常に若い世代の側にいる

― かつてのレコードはCDになって、今は配信が主流になっています。佐野さんは公式サイトを立ち上げたのも早かったと思いますし、配信も2005年という極めて早い時期からやられていると思います。このような変化の中で、音楽の価値が変わってきているように感じますか?

佐野:僕の中では音楽の価値は変わっていない。いい音楽は生まれ続けているし、そこに触発される自分も変わらずにいる。

― リリースの形態を変えながら時代に対応してゆくというのは、ミュージシャンのスタンスとして、プライオリティが高い部分でしょうか?

佐野:リスナーに楽しく聴いてもらえればリリースの形態にはこだわらない。

― 今は音楽を探す楽しみが失われた時代になったような気がします。例えば、ジェームス・ブラウンの輸入盤なんか、田舎では手に入る代物ではなかったし、都会のある程度情報に敏感な人でなければ探し当てられなかったと思います。それが、今は簡単に手に入るようになって、便利になった反面、見つけた時の嬉しさや、探す楽しみが失われてきたようにも思えますが。

佐野:いや、それは、古い世代の見方だと思う。新しい世代はそんな風には思っていない。ポップミュージックは常に若い世代の側にいる。そして彼らに勇気を与えたり、慰めたりする。配信の時代になって確かに何かが変わったのかもしれないけれど、新しい世代にとっては大した問題ではない。いずれにしても良い音楽があれば、彼らは必ずディグする。メインストリームの音楽だけに価値がある時代ではなくなってきている。むしろ、僕から言わせてもらえれば、若い音楽リスナーは豊かなリソースに恵まれている分、賢い。みんなが良い音楽を見つけやすくなったのは素晴らしい状況だ。

― つまり、良い音楽であれば、チャートの上位に上がる機会に恵まれるということですか?

佐野:多分ね。その機会はきっとある。ただヒットするには別の力が働く。音楽に限った話じゃないけれど。

「今、何処」は時代にハマったんじゃないかと思っている

― ここからは、最近リリースされた2枚のアルバム『ENTERTAINMENT!』と『今、何処(WHERE ARE YOU)』についてお訊きします。

佐野:いいね。

― 一聴して感じたのは、『今、何処(WHERE ARE YOU)』は、後になって気づきが多くなるアルバムではないかと思えました。

佐野:できれば “今” 気づいてくれたら嬉しいんだけど(笑)。

― 『SOMEDAY』も同じでした。後からこういうことを言っていたんだな、と。

佐野:あぁ。そういえば、初期の「アンジェリーナ」「ガラスのジェネレーション」「サムデイ」もリリースした時はあまりパッとしなかった。でもファンのおかげで今では僕の代表曲だ。今回の『今、何処(WHERE ARE YOU)』はいい感じで時代にハマったんじゃないかと思っているので、ファンもすぐに気づいてくれると思う。

― 佐野さんにとってThe Coyote Bandはどのようなバンドですか。

佐野:The Coyote Bandの素晴らしいところは、どのバンドにもない素晴らしいハーモニーを持っているところ。ひとりひとりがリードヴォーカルをとれる力量を持っている。そこに注目して欲しい。それとアンサンブルがしっかりしている。まるで大人数のオーケストラみたいなサウンドだ。結成して今年で17年。僕にとってはホームのようなバンドだ。僕の曲は彼らの演奏に支えられている。僕のリリックは彼らの演奏でより豊かに響く。それにみんなハンサムだ(笑)。

最高の自信作「ENTERTAINMENT!」と「今、何処」

― バンド内でもみなさん手応えを感じていましたか?

佐野:ヤバいくらい相当な手応えだ。みんな早くリリースして気持ちを落ち着かせたいと言ってる(笑)。

― 世代の異なる人たちとひとつの音を奏でるという部分に難しさはありますか?

佐野:ロックするのに世代は関係ない。同じ音楽仲間と良い音楽を奏でているという感覚だ。聴いてきた音楽も共通している。

― なるほど。音とヴォーカルが溶け合ってひとつのサウンドになっているように感じました。

佐野:それはいいね。ずっとライブを一緒にやってきてるからだと思う。もう、佐野元春とバッキングバンドという関係を完全に越えている。特に新作の『ENTERTAINMENT!』と『今、何処(WHERE ARE YOU)』はけっこうピークに来てる。この2枚のアルバムは、僕とThe Coyote Bandにとって最高の自信作だ。

― 『ENTERTAINMENT!』はコロナ禍で制作されたアルバムということですよね。

佐野:そうだね、でも曲はコロナ禍の以前に書いたものが多い。

― そうだったんですね。僕はこのアルバムで、パンデミックから多くの人が感じた閉塞感の先にある光のようなものを感じました。

佐野:ソングライターは時々少し未来に行って、未来で見た景色を持ち帰って曲に託す。偶然とは言っても今のことを歌っているように聴こえるね。

― この2枚を聴き比べると、『今、何処(WHERE ARE YOU)』で次のフェーズに行っている印象も感じます。すごく豊潤でもあって、長く聴き込まなくてはいけないアルバムに感じます。

佐野:ありがとう。『今、何処(WHERE ARE YOU)』は深いアルバム。きっと10年後に聴いても楽しんでもらえると思う。

― 決して派手なアルバムではないですよね。

佐野:派手っていうのがどんなのかわからないけれど、洒落た言い方をすれば “シック” なロックアルバムだ。相手に八を言って、十二を知ってもらうような表現。その分飽きないで聴いてもらえると思う。まぁ時々滑っちゃうこともあるけれど気にしない。

― 名盤ライブ『SOMEDAY』のようにかつての作品について今のご自身でアウトプットするという作業と並行して、このような凄い新譜を2枚リリースされているわけですよね。キャリア・アーティストとは思えない勢いを感じます。

佐野:以前と創作のペースはあまり変わってない。僕はものを作る人間なので、情熱が石炭になる。それを燃やして新しい創作に向き合う。だから情熱が無くならない限り続けていくと思う。それに… ここまでやってきたら、良い曲を書き、ゴキゲンなステージをやるというのが自分の使命なのかな… と思い始めてる。だとしたらファンのために身体もちゃんとメンテナンスしなくてはと思っている。以前はそんなこと考えてもみなかったよ。

(取材・構成 / 本田隆)

4回にわたってお届けした、佐野元春ロングインタビュー、いかがでしたでしょうか。80年代初頭、アルバム『SOMEDAY』で日本のロックシーン、いや音楽シーンに投じた新たなサウンドの定石は、多くのファンにとって、その後長きに渡り人生の伴奏者となり、生きていく上の様々なシーンを色鮮やかに演出してきたはずだ。元春は、今も、ここに留まることなく自らのサウンドをクリエイトし、今も最前線を走り続けている。そんな彼のEarly Days、そして今、これからを紡ぐ発言のリアリティはファンにとって得難いものになったと思う。

カタリベ: 本田隆

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