コロナ拡大の北朝鮮で医薬品不足…行政幹部ら「買占め」も

「新義州(シニジュ)では薬がなくなりつつあり、買おうにも買うことができない」

平安北道(ピョンアンブクト)の新義州は、国境を流れる鴨緑江を挟んで中国と向かい合い、中朝貿易の7割が通過する貿易都市として繁栄してきた。トンジュ(金主、新興富裕層)の不動産投資も活発に行われ、目新しい高層マンションが立ち並ぶ様子は、対岸の中国からも見ることができる。

そんな、国内で一二を争う豊かな都市である新義州で、薬がなくなりつつあるというのだ。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、2020年1月にコロナ鎖国が始まってから、合法、非合法の輸入が一切できなくなり、かつてはいくらでも購入できた中国製の医薬品が品薄となってしまった。今年2月になってようやく国際貨物列車の運行が再開されたものの、中国側でのコロナ感染拡大により4月に中断、5月末になってごく一部再開されたが、5月の中朝貿易額は、前月比で85.2%減少した。

品薄を商機と見て、一儲けしようという人々も、さらなる品薄を煽っている。トンジュや幹部はもちろん、違法な医薬品の取り引きを取り締まるべき司法機関のイルクン(幹部)や人民班長(町内会長)も、医薬品の買い占めに乗り出しているのだ。

「(人民班長が)カネを受け取って薬を売る現象が5月末ごろから起きている。人々は大いに不満を抱き、中にはケンカする人もいる」(情報筋)

本来、医薬品は病院、薬局を通じて無償で受け取れることになっているが、そんな「社会主義保健制度」は崩壊して久しく、医薬品は市場で買うのが当たり前になっている。そんな商売に、人民班長まで乗り出しているのだ。住民は反発はしつつも、それ以外に薬を手に入れる方法がなく、仕方なく買っている。

深刻化する医薬品不足だが、当局は、金正恩総書記が自宅で使用している医薬品を寄付した、他の党幹部もそれに続いているなどと、「人民愛」アピールには熱心なものの、実際に国民の役に立つ対策は取れていない。根拠不明な民間療法を紹介するのが関の山だ。

ちなみに、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は24日、「気管支炎の症状が出た時にいかにすべきか」と題した記事で、大量の水を飲む、塩水でうがいする、湯気を吸う、生姜茶を飲む、トウガラシやカラシなど辛いものを食べる、ニンニク、タマネギ、カボチャの種など粘液の分泌量を減らすものを食べるといった民間療法が効果的だと紹介している。

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