<南風>ガジュマルの力

 今の事務所で仕事を始めて9年目となったが、この地を最初に訪れてからお気に入りの場所であることに変わりない。裁判所が近いといった利便性を上回るその大きな理由は近くにあるガジュマルの存在である。

 沖縄の名木百選にも選ばれている「城岳のガジュマル」と初めて対面した時、そのスケールと雰囲気に圧倒された。住宅街のど真ん中、車道のすぐ傍らに、そこだけ異世界が広がっていた。巨大な幹、長く絡み合う無数と思わせるほどの気根、幹のそこかしこには宿り木。大きな陰影を落とす枝の下の舗道には年季の入ったこけが生えている。

 肉眼で見えない微細なものも含めて、一体どれだけの生命体がこの木に息づいているのだろうと軽い興奮を覚えた。同時に、この場所にこの巨木が保存されていることの貴重さを感じた。

 県のHPによると、「道路拡張工事の際に切られるところを道路線形の変更により、地域のシンボルとして活かされるようになった」とのこと。見れば、近くのスーパーの駐車場内にも、大きなガジュマルが大切に保存されている。近くの公園にも個性的なフォルムのガジュマルが何本もある。裁判所に抜ける道にも、拝所に大きなガジュマルが(いつぞやの台風で倒壊してしまい残念である)。

 もちろん勝手な想像でしかないが、これらガジュマルに、静かに見守られながらエネルギーを注いでもらっているような気がするのである。子どもの時から植物が好きで、空想好きだった私は、木を眺めてはとりとめのない物語を想像するのが癖だった。良い齢になり、日常の諸々にあくせくする今、物語を紡ぐ余裕がないのは悲しいが、ガジュマルたちの傍らを通る度、心の中で言葉にもならないあいさつを掛ける。本当にささやかなこの「コミュニケーション」が、私にとって日々の励みとなっている。

(林千賀子、弁護士)

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