これぞ “月9” 柴門ふみ原作ドラマ「同・級・生」主題歌は ZIGGY「GLORIA」  「同・級・生」が備える“トレンディドラマの鉄則”

気鋭のテレビマン・大多亮に託された月9の命運

フジテレビ月曜夜9時のドラマ枠、通称 “月9” がその地位を確立したのは、1991年の『東京ラブストーリー』(以下、『東ラブ』)、『101回目のプロポーズ』の爆発的ヒットが契機だとされている。今や語り草の「月曜夜に街からOLが消えた」という伝説が誕生したのもこの頃だ。

ただ、それ以前からフジテレビは若者層をターゲットとした新基軸のドラマ枠として同枠には入れ込んでおり、初期には『アナウンサーぷっつん物語』『教師びんびん物語』といった職業モノでヒット作を生んでいる。

そんな月9の潮目が変わったのが1989年のことだった。時はバブル全盛期。大金が乱れ飛び、誰もが明るい未来を信じて疑わなかった夢の時代に、同枠のプロデューサーとして投入されたのが当時30歳の気鋭のテレビマン・大多亮だった。それまでの外注から自社制作へと舵を切るという重要なタイミングで、こうした若い才能に同枠の命運を託したフジテレビの感性とセンスが光る人選だ。

柴門ふみ原作「同・級・生」始まったトレンディドラマの新時代

着任した大多はさっそく従来の職業モノ路線を一新。東京を舞台にした煌びやかで華やかな、若者ターゲットに特化した恋愛ドラマ―― すなわち「トレンディドラマ」を追求していくことになる。その第1弾が、中山美穂と前田耕陽を主演に据えた『君の瞳に恋してる!』だ。ポニーキャニオンの作品紹介によるあらすじは以下のとおり。

「あこがれの代官山に住みたい女子大生の瞳は格安のマンションを見つけ友人の麻知子、照代と3人で共同生活をはじめる。ところが隣室にマンション探しで部屋を争った軟派な男・元と、初対面のデートでいきなり瞳の唇を奪った耕平が越してくる」

―― という、声に出して読みたくなるほどトレンディ感に溢れたストーリー。ここで最高視聴率23.6%を記録するなど手応えを掴んだ大多は、同年の7~9月期に、やはり若者の恋愛を描いた『同・級・生』を手掛けることになる。

ラブコメ寄りだった『君の瞳に~』とは打って変わって、『同・級・生』は些細なすれ違いから別れを選んだ男女の葛藤を描いたマジメなお話。そして月9では初となる非・オリジナル作品でもある。原作は柴門ふみの同名漫画。つまり月9と『東ラブ』柴門ふみの縁はここで生まれていたわけだ。

特筆すべきは脚本を担当した坂元裕二。そう、本作は今をときめく大御所が22歳にして初めて手掛けた連ドラデビュー作なのだ。プロ野球の世界では中日・星野仙一監督が「初の戦後生まれ監督」として脚光を浴びていた時期に、ドラマ界では視聴者とも大して年齢差のない若手達によって新時代が築かれようとしていたのである。

これぞ月9!「同・級・生」が備える“トレンディドラマの鉄則”

メガヒットの『東ラブ』の影に隠れがちだが、『同・級・生』はあらゆるトレンディドラマの鉄則を踏んだ「これぞ月9!」と呼ぶにふさわしい作品に仕上がっている。

主人公の名取ちなみ(安田成美)は就職後一人暮らしをしているのだが、新人OLの給料じゃとても住めないような都内マンションでの一人暮らし(あるいはルームシェア)はトレンドドラマのお約束。

また行きつけのオシャレなダイニングバーの存在も欠かせない。どういうわけだか登場人物たちが事あるごとに鉢合わせし、口にする話題といえばとにかく恋愛一択。時には揉め事に発展することも……。

相手役の鴨居透(緒方直人)は “広告代理店に勤める若手サラリーマン” とのことだが、リゲインのCMよろしく24時間働いているような様子はまるで無く、むしろ仕事終わりには必ずと言っていいほど元カノ(ちなみ)と会ったり、風邪をひいた今カノ(杏子=菊池桃子)の看病をしたりと随分余裕のある生活っぷりが羨ましくもある。

ちなみには優子(山口智子)、茜(中井美穂)という親友がおり、もちろんそれぞれの恋愛模様が描かれる。出てくる男女全員が何かしらの恋愛関係に絡んでくるのもトレンディドラマの王道パターンだ。

なお、本ドラマは透くんの優柔不断さによって物語が転がっていくことになる。『東ラブ』織田裕二もそうだが、バブル期の男は恋人をどちらか一方に決めるのに丸々1クールを要してしまうのだ。

主題歌はZIGGY最大のヒット曲「GLORIA」

こんな感じで見事なまでに「トレンディドラマとは」を体現した『同・級・生』だが、なんといっても忘れてはならないのは主題歌だ。

『東ラブ』には「ラブストーリーは突然に」、『101回目のプロポーズ』には「SAY YES」。トレンディドラマに留まらず、作品に華を添えてくれるのが主題歌の存在。

本作では人気バンドZIGGYの代表曲「GLORIA」が使用されているが、後の定型となった “クライマックスでイントロを流す” という必殺技はまだ発明されておらず、文字通り主題歌としてオープニングでのみスタッフクレジットと共に流れる形式となっている。

ドラマのための書き下ろし曲ではないが、躍動感と爽やかさが若い男女の織りなす恋物語と絶妙に合っていて、この曲を聴くと安田成美と緒方直人の顔が浮かぶという方も未だにおられるのではないだろうか。それも無理からな話で、最終話では20.8%の高視聴率を記録。「GLORIA」もバンド最大のヒット曲となり、50代の上司とカラオケに行くと流れる頻度高し。

その後怒濤の如く生まれた数多のトレンディドラマの波に飲まれ、後世で語られる機会があまり多くない作品ではあるが、月9の歴史を語るうえでは絶対に外せない一本として個人的に推し続けている。フジテレビ公式で有料配信もされているようなので、是非観てもらいたい。

カタリベ: 広瀬いくと

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