<書評>『琉球の音楽を考える 歴史と理論と歌と三線』 多岐にわたる骨太芸能論

 本書は、琉球・沖縄の「音楽と芸能の歴史」「音楽の理論」「島々の歌」「古典音楽」の4部構成であり、古琉球・近世琉球の音楽を中心に中央と地方の芸能について論じている。また、芸能の音楽的側面と文学的側面から、その身体性に言及するなど多岐にわたる芸能論であるが、ここでは琉球の古典音楽と古典舞踊を中心に述べる。

 周知のように、琉球古典音楽の特徴は長く伸ばして歌うことにあるが、ウスデークの旋律も同様の歌い方であり、「長く伸ばすため、時には重々し過ぎて歌詞と産み字の区別が分からなくなる」と述べる。また、ウスデークはムラごとに独特の曲、独特の旋律を伝えると述べ、古典音楽の関わりについて考察する。

 著者は古典音楽を、「御前風様式」「昔節様式」「口説様式」「二揚様式」に分類する。「御前風様式」は端節(はぶし)に相当するもので、「口説様式」は「語る音楽」と伝えられてきた。高音で歌う「二揚様式」は、独唱歌として好まれてきた。つまり、著者の楽曲様式の分類は、古典音楽の用語や伝統的な言い伝えと重なっており、それゆえ説得力がある。また、富原守清の『琉球音楽考』や松村真信の『欽定工工四』について、著者はその問題点を指摘しつつも、長所についてもわかりやすく説明し評価する。先達の名著を聖典とせず、果敢に切り込む姿勢は新しい古典音楽研究の到来を実感させるものがある。

 琉球舞踊の所作については、「昔節様式」の楽式と舞踊構造を対比させて説明するが、そこでも著者独自の見解が示される。例えば、「諸屯」の静止した「三角目付」は、琉球舞踊の「行く」「戻る」の基本原則の逸脱ではあるが、それゆえ集中力と緊張感を高めると指摘する。その論理性と鑑賞力の高さには脱帽させられる。

 本書は、沖縄の音楽を中心にした芸能の解説書であるが、「芸能は娯楽ではなく儀礼、およびその延長線上にあった」という考えを基にした骨太の芸能論であり、新見に満ちた好著である。

(狩俣恵一・沖縄国際大名誉教授)
 かねしろ・あつみ 1953年山口県生まれ、東京音楽大教授、沖縄県立芸術大名誉教授。著書に「ヤマトンチュのための沖縄音楽入門」「沖縄音楽の構造」など。

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