【追う!マイ・カナガワ】住民が善意で手入れの花々、横浜市が撤去? 市が看板で予告、でも実は…

きれいな花々が咲く“沿道”の様子(2015年)

 「長年、地域の男性が善意で手入れしていたようなのですが…」。きれいな花々が咲く“沿道”が、見るも無残な荒れ地になったと残念がる写真が、横浜市の女性(48)から「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。植栽を撤去する旨の土木事務所の勧告書が張り出されているという。記者は疑問と怒りに押され、現場に向かった。 

 京急線の能見台駅から歩いて5分ほど。同市金沢区堀口の高台にあるマンションの擁壁と歩道の間に、幅約1メートル長さ約50メートルにわたって沿道スペースがあり、雑草が生え、ごみが捨てられていた。

 立て看板には『ここは横浜市が管理する道路区域です。植栽は撤去します』とある。

 投稿者の夫(45)は「地域の人たちを長年楽しませてくれた善意を、こんな看板で踏みにじるなんて」と言うと、落ちているたばこの吸い殻を悲しそうに見つめた。記者は荒れ地の中に、きれいに咲く花を一輪見つけ、写真に収めた。

 手入れしていたのは年配の男性のようだが、どんな人なのだろうか。

 近所で聞き込みすると、男性を知っているという女性(77)に出会った。地域の様々なボランティアで熱心に活動し、地元では知られた存在のようだ。植物の知識が豊富で、女性が庭の枝切りを頼むと「快くやってもらえた」という。

◆植栽への思い

 記者は後日、その脇谷哲夫さん宅を訪れた。

 高松市の自然あふれる環境で育った脇谷さんは、「種を近所からもらい、よく植えていた」と、少年時代から花好きだったという。

 銀行員として勤め上げ、約30年前に同区に引っ越してきたが、目に付いたのが荒れた沿道だった。「きれいにしたい」。近所でシランの球根を分けてもらい、20年以上、一人で手入れを続けた。

 勧告書について尋ねると「もう94歳。限界で昨秋にやめた。自分は十分やり切った」と明るく笑う。投稿者も記者も勘違いしていたが、脇谷さんが金沢土木事務所に引退を申し出たということだった。

 記者が“最後”の一輪の写真を渡すと、「ガザニア、生きてくれていたのか。ありがとう」。写真を持つ手に力が入った。

◆埋める方針?

 しかし、金沢土木事務所はなぜ、きつい言葉が並ぶ「勧告書」を張り出したのか。あれでは地域住民も誤解するだろう。

 問い合わせると、担当者は「不法投棄などに使う勧告書で、適切でなかったと反省しています。撤去はしておらず、自然に荒れてしまっています」と申し訳なさそう。脇谷さんのこれまでのボランティアには敬意を表したいという。

 花が消え、地域が残念がっていることを伝えると、「今後は調査した上で沿道をコンクリートで埋める方針です。できればその前に植栽を続ける人が出てくればいいのですが」とも。道路の清掃や美化に携わる「ハマロードサポーター」に登録した人が、花咲く沿道を復活させたいと申し出れば、できる限り協力したい意向という。

◆取材班から
 思いを引き継ぎ、植栽を続ける人が現れれば、「アドバイスなど、できることは手伝いたい」と脇谷さん。読者のみなさん、いかがでしょうか。

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