不安定化する世界と今後の「海外渡航」の注意点【政治学者が見る世界の今】

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界の情勢を考える人気シリーズ。今回は、欧米との対立を深めるロシアと中国の関係強化による海外渡航への影響を考えていきたい。※写真はすべてイメージです

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欧米企業のロシア撤退

(C) KULLAPONG PARCHERAT / Shutterstock.com

大国間の亀裂がこれまで以上に深刻さを増している。ロシアによるウクライナ侵攻から4カ月となるが、欧米企業のロシア撤退が後を絶たない。

フランスのタイヤ大手であるミシュランは6月末、ロシアでの事業から今年中に撤退すると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻以降、ミシュランはロシアでの事業をストップさせてきたが、すでに撤退を発表したマクドナルドやスターバックス、ナイキなど世界的企業に続く結果となった。この動きは今後とも続くことだろう。

ロシアと関係を強化する中国やインド、イラン、ブラジル

一方、プーチン大統領は撤退するならすればいいと欧米に対して相変わらず強気の態度を崩していない。プーチン大統領は6月末、ブラジルのボルソナロ大統領と電話会談して、エネルギーや農業の分野で関係を強化していくことを確認するなど、欧米とは一線を画す国々との関係強化に努めている。

欧米とは一線を画す中国やインド、イランなどもロシアとの関係を強化している。たとえば、中国税関総署は6月下旬、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55%、液化天然ガスが54%、それぞれ増加したと明らかにした。ウクライナ侵攻で中国がロシアと距離を置けば、こういった数値は絶対にあり得ず、中露が接近、協力している証といえる。

中国で邦人が不当に拘束されるケースも

このようななか、日本は欧米との結束を強化し、中国やロシアに対して厳しい姿勢を強調している。日本が自由民主主義国家で、人権や法の支配などの基本的価値観を重視するのであれば、欧米諸国との結束は何より重要となる。

しかし、中国やロシアとの必要以上の関係悪化は、中国やロシア、もしくは中国やロシア寄りの諸外国に邦人が訪問する際、少なからずリスクが増えることになる。中国では正当な理由が不明なまま、邦人が不当に拘束されるケースが続いている。

以前には、出張中で中国近現代史を専門とする日本人の大学教授が北京で拘束され、広州市で拘束されていた大手商社の40代男性が現地の裁判所からスパイ容疑で懲役3年の実刑判決を言い渡された。中国では2015年に反スパイ法が施行されたが、日本人が逮捕され、起訴され、懲役刑が下されるケースが続いている。

日本を取り巻く国際情勢が厳しくなれば、中国での不当拘束のようなケースが激増するわけではない。しかし、日本の軍事同盟国である米国が世界のリーダーだった時代はとうも昔に終わり、世界のパワーバランスは大きく変化している。今後の海外渡航においては、よりいっそう国際政治のパワーバランスの変化に着目する必要があろう。

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