2022参院選長崎 ジェンダー 興味あっても遠のく心 政治への視線・5完

参院選の女性候補(右)とこぶしを合わせる女性有権者=長崎市内

 「女性候補初の30%台」-。参院選公示翌日の6月23日、候補者に占める女性の割合が戦後の国政選挙で初めて3割を超えたことを新聞各紙が報じていた。男女の候補者をできるだけ均等にするよう政党に求める候補者男女均等法が施行されてから4年。一定の成果が出始めているようにも思えるが、長崎市の会社員、恭子さん(43)=仮名=は今も壁を感じている。
 無所属で出馬した女性候補の選挙を手伝っていたときのことだ。「組織がなく、ポスター貼り一つからつまずいた。(政治は)大きな組織出身の男性中心」。5歳の子どもを育てながらの時短勤務。社会問題に関心があり、立候補を薦められたこともあるが、「男性も同じかもしれないが、仕事を辞めて落選したら無職になり、生活基盤を失うリスクが大きい。選挙制度そのものが変わらないと」。
 恭子さんが望む選挙制度とは-。一定数の議席を女性に割り当てるクオータ制と、男女同数を義務付けるパリテ法の導入。「国政は難しいかもしれないけど、地方議員は裁判員みたいに抽選で選ぶ。選挙ですくい上げられなかった声に耳を傾けてこなかったから、少子化や非正規雇用の拡大などの問題に今の日本は困っている」。政治参画へのリスクを減らし、多様な視点を反映させることが現状を変える鍵とみる。
 世界経済フォーラムが公表しているジェンダーギャップ指数(2021年)。日本は政治分野で156カ国中147位と、ほぼ底に沈んでいる。全国会議員に占める女性の割合は14.4%(6月23日現在)。県内をみても、女性県議の割合は13.3%にとどまり、市町議会の女性議員に至ってはわずか8.2%(20年末現在)だ。政治参画への道のりは依然、険しい。
 定例会など議会への出席のほか、研修や視察、地域課題への対応、土日の行事参加と議員活動は多岐にわたり、子育てに追われている人がこうしたスケジュールをこなすのは現実的に難しい。「女性は家庭」といった性差(ジェンダー)に基づく価値観は今も根強く残り、議場での「セクハラやじ」を訴える声もある。
 本会議の一般質問で、意に反して他の議員と同じやり方を求められた女性市議は「男女問わず、『長いものに巻かれるのが良し』と思い込み、それに逆らう人をつぶす」と憤る。別の女性市議はオープンであるべき議論が“密室”で決められる現状にいらだつ。「地方自治は民主主義の学校といわれるが、(議会で)はっきりものを言えば言うほど排除される」
 男性市議の一人は「子育てと(議員活動と)の両立支援は道半ば。地方自治を学び、地域の信頼を得るには相当の努力が必要になる」と高い障壁を暗に認める。
 「政策を実現するためには大多数を占める男性議員に認められる必要があるが、男性議員を説得するために使う労力が無駄」。長崎市の会社員、美希さん(47)=仮名=は身近な女性議員の現実を目の当たりにするたびに、政治に興味はあっても心は遠のく。
 「性別が障壁なら変えるべき。でも、同世代の女性はそこまで女性議員の少なさを気にしていない感じがする。4年という期限を決め、一つのテーマに取り組む人と資金を募り、それを支えるグループがあったら」。諫早市の会社員、雅史さん(23)=仮名=はこう提案するが、今回の参院選で一足飛びに解決するとも思えない。政治が果たす役割とは。それぞれの1票に複雑な思いを重ねている。

      =おわり=


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