円安でもS&P500への積立投資を続けるべき?

2022年に入って、急速に進んだ円安。これまで、米国株市場の好調を背景に、米国市場の値動きを示す「S&P500」と連動する投資信託に投資してきた方も多いでしょう。株高と円安が同時に進むなら、外貨建て資産にとってはポジティブなので気にする人も少なかったのではと思います。

しかし、米国株式市場は全体に下落傾向になり、そんな中、ドル円が1ドル136円になるなど円安が一気に進んでいます。こうなってくると「円高になってから買いたい」などと思う方もいるかもしれません。

そこで今回は「円安でもS&P500への積立投資を続けるべき?」というテーマを一緒に考えていきます。


【結論】為替レートは気にする必要はない

「円安でもS&P500への投資を続けるべき?」という問いには、「円安でも投資を続けるべきか」と「S&P500に投資を続けるべきか」かの2つが含まれています。まずは「円安でも投資を続けるべきか」を取り上げます。

このところニュースでよく耳にする「円安」とは、海外の通貨からみて円の価値が安くなることです。たとえば、為替レート(2つの通貨の交換比率)が1ドル=100円が1ドル=130円になった場合は、同じ1ドルで交換できる円の金額が増えたということですから、ドルから見ると円の価値が安くなっている(円安になっている)というわけです。

2つの通貨の関係はシーソーのようなもので、どちらかの通貨が高くなれば、もう一方の通貨は安くなります。円とドルの場合、「円高ドル安」「円安ドル高」は同時に起こります。

為替レートは、日々上下に変動しています。リーマンショック発生後の2008年9月以降のドル/円の為替レートと、米国市場の値動きをもとに算出されるS&P500の動きは、次のようになっています。

ドル/円の為替レートとS&P500の推移(2008年9月~2022年5月)

Investing.comのデータをもとに(株)Money&You作成

この15年近く、為替レートも上下に変動しています。70円台と円高になっている時期もある一方で、2014年11月から円安が進み、2016年1月まで、おおむね110円台後半から120円台の円安局面を迎えていることもわかります。

このときも、円安が進むに連れて「円安局面でも投資すべきかどうか」といった話はありました。しかし、当時はまだ海外資産への投資はメジャーではなく、今ひとつ盛り上がらなかったことを記憶しています。米国株・米国株投信・米国株ETFといった海外資産への投資方法も限られていました。

でも、もしリーマンショック明けからS&P500に毎月1万円ずつ積立投資していたとしたら、資産はどう増えていたでしょうか。

リーマンショックからS&P500に月1万円ずつ投資した場合

Investing.comのデータをもとに(株)Money&You作成

2022年5月時点の資産総額は約504万円。積立元本165万円の3倍以上に増えていることがわかります。2014年11月~2016年1月の円安だった期間も、資産が減るような事態にはなっていません。さらに、リーマンショックだけでなく、コロナショックの下落も、短期間で乗り越えています。長期間の積立投資によって、着実に資産を増やせています。

以上から学べることは、「為替変動によらず資産を増やす」ためには、投資している資産が長期的に右肩上がりになるかどうかがポイントです。

円安・円高関係なく海外投資を続けるべき

米国はもちろん、世界経済は為替レートに関係なく成長しています。IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し(World Economic Outlook)」 でも、2022年・23年の世界経済の成長率は3.6%と予想しています。ロシアのウクライナ侵攻や、燃料価格・食料価格の上昇の影響で下方改定されているとはいえ、依然として3.6%の成長が期待できるのであれば、為替レートに関係なく全世界への投資を続けるべきと考えます。

また、為替レートが円安になると、円建ての資産の価値が下がる一方で、海外の資産の価値は上がります。円安とドル高はセットで起こります。ドルに限った話ではありませんが、海外の資産を持っているのであれば、円安が進むことで資産が増える(為替差益が得られる)ことになるので、投資を続けても問題ないでしょう。

さらに、もしも今後円高の局面がやってきたときにも、長期積立投資を続けていれば、海外資産を安く(多く)買い付けることが可能。そうすることで、平均購入単価が引き下げられますので、その後値上がりしたときに得られる利益も大きくなります。また、円安局面を迎えたときには為替差益を得ることもできるようになります。

したがって、為替レートの変動とは関係なしに、長期的に右肩上がりになる資産への積立投資を続けるのがおすすめです。今の市場の値動きが気になる気持ちはわかりますが、淡々と長期間、積立を続けることで、複利効果と非課税の恩恵を受けながら大きな資産を築くことができるでしょう。

米国株「S&P500」に投資を続けるべき?

続けて、「S&P500に投資を続けるべきか」ですが、結論からいうと筆者は投資を続けるべきだと考えます。その理由をひとことでいうと、「米国は今後も成長するから」に尽きます。米国株は一過性のブームではなく、今後も投資が集まり、値上がりしていくとみています。今後も米国が成長を続ける限り、S&P500に投資することでその恩恵が受けられるでしょう。米国株が値上がりする理由は、次のようなところにあります。

米国株が値上がりする理由1:米国は世界最大の経済大国であり続けるから

米国のGDP(国内総生産)は世界トップ。まぎれもなく、米国は世界トップの経済大国です。しかも、主要先進国の中で唯一、人口が増加しています。およそ3.3億人いる米国の人口は今なお増加を続け、2050年には3.8億人に達すると見込まれています。日本の人口が2011年以降本格的な減少に転じているのとは、対照的です。
人口の増加は、モノやサービスの生産・消費といった経済活動につながります。それにより、米国の経済は拡大していくと考えられるのです。

米国株が値上がりする理由2:「高配当銘柄」「連続増配銘柄」が多くあるから

米国株の中には、配当金の高い「高配当銘柄」や配当金の金額を毎年増やしている「連続増配銘柄」がたくさんあります。なかでも増配は、50年以上連続で続けている会社もあるほど。収益が安定しているからこそ、配当金を出し続けることができるのです。近年話題になったFIRE(経済的自立と早期リタイア)でも、米国株は不労所得を生み出す有望な投資先として話題に。日本と違い、年4回配当金を出す企業が一般的なのもうれしいですね。

米国株が値上がりする理由3:世界的な大企業がたくさんあるから

GAFAM (グーグル・アマゾン・フェイスブック(※現メタ)・アップル・マイクロソフト)を筆頭に、米国には世界的な大企業があります。しかも、大企業にもかかわらず将来への投資も積極的で、高い成長力を保ち続けています。

米国株が値上がりする理由4:優秀な経営者が多いから。

「米国企業の経営者」というと、すぐに数人思い浮かぶのではないでしょうか。少し前ならば、アップルのスティーブ・ジョブズ氏、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏などが出てくるでしょうか。最近でも、アマゾンのジェフ・ベソス氏、メタのマーク・ザッカーバーグ氏、テスラのイーロン・マスク氏など、日本でも名前をよく聞きます。彼らは、高い報酬を得る代わりに、高い成果を挙げています。そして、米国をさらに成長させていくのです。

米国株が値上がりする理由5:株式市場のスケールが大きいから

岡三証券の資料によると、2022年5月時点の世界の株式時価総額は105.6兆ドル。そのうち45.2兆ドル(42.8%)が米国です。2位は中国(10.3兆ドル・9.8%)、3位は日本(5.6兆ドル・5.3%)ですので、米国株式市場はダントツで世界トップのスケールといっていいでしょう。世界中から投資マネーが集まることで米国企業が成長し、さらなる成長を期待してさらなる投資マネーが集まるという好循環が生まれるのです。

市場の値下がりにはどう対処したらいい?

もっとも、米国株が有望といっても、2022年は冴えない展開を見せています。特に今後、円高に転じたときには、円高による海外資産の目減りと株価下落による損失の両方が同時に起こる可能性が高いでしょう。円ベースで見ると大きな値下がり局面で、一時的に大きく資産が減ることも十分考えられます。

しかし、そうした値下がり局面がやってきても、これまで同様、長期積立投資を続けていきましょう。値動きのある商品を一定額ずつ積立購入すると、徐々に商品の平均購入単価を下げられる「ドルコスト平均法」の効果が得られます。商品の平均購入単価を下げられれば、少しの値上がりでも利益を出せるようになります。

もっとも、自分のリスク許容度に見合わない投資をしているようだと、日々の値動きが気になってしまい、落ち着いて投資を続けられなくなってしまいます。長く投資を続けるためにも、家計に無理のない積立金額で積み立てを行うこと、そしてリスク許容度にあった投資信託に変更することが大切です。

米国株投信の値動きが激しくて精神的に厳しい…という場合は、全世界株や先進国株といった、米国以外の国にも幅広く投資する投信を購入すると、より多くの国に分散投資できるため、リスクの低減に役立ちます。国内株の投信も同様で、米国株投信よりもリスクは控えめです。また、複数の資産に投資するバランス型投信で、債券にも投資している商品を選ぶことでも、リスクを下げることができます。


「円安でも投資を続けるべきか」と「S&P500に投資を続けるべきか」。2つの問いを通じて、円安でもS&P500への投資を続けるべきかを考えてきました。そして、長期間投資を続けると為替レートの動向に関係なく利益を出せるようになることと、米国はこれからも投資先として有望であり続けることを紹介しました。目先の値動きにとらわれず、長期的な視点をもって、資産形成に取り組んでいきましょう。

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