大邱FC鈴木圭太、無名の日本人DFがモンテネグロと韓国で評価される訳とは

今年1月、韓国Kリーグの蔚山現代が、横浜F・マリノスから天野純を獲得したと発表した。日本代表経験のある選手の突然の韓国移籍は多くのサポーターを驚かせた。

時を同じくして、ヨーロッパから韓国に挑戦の舞台を移したサムライがいる。今季からKリーグ1、大邱FCに入団した鈴木圭太だ。

高校卒業後すぐにモンテネグロへ渡り、トライアウトを経て2部のFKイバルとプロ契約を結びその後1部へ。6年もの間、モンテネグロでプレーした異色の経歴の持ち主である。

左サイドバックを主戦場とする鈴木は、積極果敢な攻撃参加が最大の武器で、体を張った献身的なプレーも惜しまない。身長172cmとDFとしては決して大きい選手ではないが、大柄な東欧人選手とのコンタクトプレーにも引けを取らないタフさを兼ね備える。

昨季はモンテネグロのFKポドゴリツァでUEFAカンファレスリーグに出場するなど、モンテネグロで着実に成長するシーズンを送っていた。彼がモンテネグロで培ったものとは何か。欧州でのステップアップも目指せた中、なぜ新天地に韓国を選んだのか。

今回は韓国で日々奮闘する日本人選手、鈴木圭太に話を聞いた。

モンテネグロに渡ったワケ…「全然勝てない」

――もともと中学は神奈川県のチームでプレーされていて、そこから大阪の桃山学院高校に進んだのはなぜですか?

僕が中学2年生のときに大迫さん(FKアドリア・モンテネグロ)という方からヨーロッパ・ブルガリアのチームに2週間練習参加させてくれるという話をもらい海外サッカーを経験しました。その後、大迫さんと大学の同期の桃山学院の監督を紹介してもらいました。高校に行く時点でもう卒業後は海外行こうと決めていました。大学に行くことは考えていませんでしたし、海外を1度見ている状態で高校3年間を過ごしたのはすごく大きかったです。

――2週間という短いヨーロッパ合宿だったと思いますが、この短い期間でもヨーロッパでプレーしたいという思いが芽生えたということですか?

そうですね。もともと日本では目立つ選手じゃなかったので、そんな自分がヨーロッパで練習参加させてもらって、同年代の外国人よりは自分の方が技術があるなというのは感じました。でもヨーロッパ人とはフィジカル的なところで『ぜんぜん勝てない』ということも感じました。そこで逆に日本人が得意としないフィジカル的な体の強さだとか対人の強さを身に着けたいと思い、後にヨーロッパにチャレンジするという決断に至ったんだと思います。

――モンテネグロ6年間で培ったものは何ですか?1番の収穫を教えてください。

1番の収穫はメンタル的なところだと思います。やはり外国人として行っているので、パフォーマンスを要求されます。高校を卒業してすぐにプロリーグに入ったので、サッカーで辛いことやしんどいことが増えてきて、挫折を何回も経験しました。それを乗り越えてきたことで、メンタル的に強くなっていると感じたのが1番の収穫だと思います。

ヨーロッパ→アジアにどう対応するか。「間合いを変える」

――大邱FCでの鈴木選手のプレーを何試合か見たのですが、よく走って献身的なプレーが印象的でした。もともとそういうプレースタイルだったんですか?

いや、厳しい環境がそうさせたと思います。もともと高校のときはトップ下で攻撃しかやってなかったのですが、モンテネグロに行って何が自分に足りないんだろうと考えたときに、やはり献身性が1番自分に足りないと思ったので、意識して取り組みました。それが今は強みになっていると思います。

――自分がチームの犠牲になれないと生き残れない世界だったのですね。

僕はプロカテゴリーに入ると特別上手い選手じゃないので、そういうところで自分を表現していかなくちゃいけないと思います。

――モンテネグロで6年間プレーした後に大邱FCに移籍しました。どうして韓国に行くことになったのでしょうか?

モンテネグロに6年間いて、昨シーズンはヨーロッパカンファレスリーグに出場したというのもあり、タイミング的に今だなと思いました。モンテネグロ最後のシーズンのパフォーマンスがかなり良かったので、どれくらい自分が通用するのか、確認を含めて進路を選びました。一応、ヨーロッパのチームからも少し声をかけてもらったのですが、大邱はACLに出場できるチャンスがあって、サポーターが熱いと聞いていましたし、新しいチャレンジとして韓国行きを決めました。

――Kリーグでプレーする前と、実際にプレーしてみてのギャップはありますか?

ギャップはそんなになかったですね。僕はKリーグをリスペクトしているので、だからこそ想像した通りだなと。モンテネグロのプロカテゴリーで丸4年くらいプレーしているので、自分だったらやれるだろうとはずっと思っていました。

――Kリーグや韓国サッカーに対して、もともとどういった印象を持っていましたか?

韓国はヨーロッパと近いフィジカルや対人の強さを求められるだろうと思っていましたが、やはり想像通りでした。走るところは走らなければいけないし、大邱のスタイルは休む時間がないので、90分戦い続けるサッカーなんだということは事前に知っていました。モンテネグロのサッカーとはスピード感が違うので、最初は練習から速いなっていうのはありました。でも何試合か出させてもらってからは慣れてきて自分の感覚も良くなってきているので、ぜんぜんやれるんだなと感じました。

――速いというのは、寄せのスピードですか?

寄せのスピードが速いです。アジア人とヨーロッパ人の違いって、半径1〜2mのスピードだと思っています。モンテネグロの選手は俊敏性が韓国人選手よりはないので、僕はモンテネグロでは俊敏性で有利に立てたのですが、韓国人選手は俊敏性も兼ね備えていてちょっとタイプが違いました。そこで少し間合いなどを変えなければいけないと思いました。

感銘受けた「韓国サッカーの“見せ方”」

――最近の試合を見ていると、体が一回り大きくなったんじゃないかなと感じたのですが、トレーニングなど何か韓国に行って変えた部分はあるのですか?

特別何か変えたりはしていませんが、練習の強度が高いので、午前中にジムに行ってからそのまま流れで練習をすることがあって、それで体が大きくなっているのかなと。あとはモンテネグロのときより食べる量が増えていて、それは関係あると思います。

――現在、ポジション争いをしている相手が韓国代表のホン・チョル選手です。レベルの高い競争をしていると思いますが、その中で鈴木選手が自分の強みを出すために取り組んでいることや意識していることはありますか?

自分は裏に走ってそこから起点になるプレーを求められていると思ってるので、彼(ホン・チョル選手)より走って、彼よりもっと攻撃参加をする。それだけは負けちゃいけないと思っています。

――プレーする環境面について、大邱FCの練習施設はモンテネグロのチームと比べると?

グラウンドも整備されていますし、環境はすごく整っています。ヨーロッパでプレーしていたとき、僕のチームは人工芝で練習していたのですが、大邱は毎回天然芝で練習しているんです。そういった面でやはり試合にアジャストしやすい環境があります。おそらく大邱の練習施設は韓国の中でもトップクラスだと思います。

――大邱はスタジアムもすごく良いですよね。ゴールが決まった後に音楽が流れたり、見せ方にも拘っているように感じます。

サッカー専用スタジアムなので、お客さんとの距離は近いです。韓国はどこも見せ方がすごいなと思うことが多いです。

【動画】大邸FC、ゴールを決めた後はこんな演出がある

――現地のサイトやSNSなどを覗くと、鈴木選手がエネルギッシュに動くプレーがファンの方々から気に入られていると感じるのですが、大邱のあの熱心なファンとのコミュニケーションはありますか?

ファンの方々からは試合の前後にSNSでたくさんのメッセージをいただくので毎回返しています。すごく温かく、やりやすい環境をサポーターの方々が作ってくれているので、とてもありがたいです。やっぱり大邱のスタジアムに行くと込み上げてくるものがあるので、もっと試合に出て自分を表現しなきゃいけないなと思います。

――現在チームメイトとのコミュニケーションはどのようにしていますか?

英語と日本語です。元Jリーガーの選手が多いのでよく助けてくれます。たまにチームメイトと夜ご飯を食べに行ったり、カフェに行ったりはさせてもらいます。僕のチームには大学4年間日本にいたキットマネーシャーがいて、その人が日本語を話せるので僕もリラックスして接することができます。彼が日本語を話せて面倒を見てくれるので、一緒に過ごすことが多いです」

鈴木は今季、大邱FCの一員としてACLにも出場。初めてのJリーグクラブとの対戦となった浦和レッズ戦では先発出場し、チームの勝利に繋がる決勝点のアシストを記録した。

――リーグ前半戦10位という状況で臨んだACL、チームとしてどのようなモチベーションで臨みましたか?

監督は絶対グループ突破で、チームとしてもグループ突破は最初の目標としていたので、モチベーションは高く入ったと思いますね。

――浦和レッズとの試合は対日本勢ということで、特別な感情で挑みましたか?もしくは平常心で挑みましたか?

自分の中ではいつものKリーグと変わらない感じでした。試合が始まるときにピッチに入って『酒井宏樹選手がいる』ことには驚きましたけど、それぐらいです。特別浦和レッズだからとということはなかったです。

――お話していて、あまり周りを気にしないという印象を受けたのですが、鈴木選手はもともとそういう性格なのですか?

海外でのプレー経験を経て、サッカーのことに関しては自分がやってきたことに自信があります。常に自分のことに集中しているので、あまり周りは気になりません。一選手としてやるべきことをやるだけだと考えています。

――浦和レッズとは2試合戦いました。浦和レッズとの対戦を振り返ってみて、試合の感想をお伺いしたいです。

浦和の選手は全員テクニックが高くて、大邱は相当走らされました。中2日で浦和と2試合だったのですが、よく1勝1分で勝ち越したなと思いました。

――特に2試合目は浦和がほとんどボールを持っていてチャンスも多かったです。

1つ前の試合でも支配率はたしか75%対25%くらいでした。ボールを持てないので走らされるわけじゃないですか。それでまた中2日で、僕達はメンバー1人も変えなかったのでみんなすごく大変そうでした。それでも初戦勝って、2試合目も点は取られないだろうなっていう自信は多分みんなあったと思います。

――マッチアップしたダビド・モーベルグ選手の印象はどうでしたか?

鈴木とマッチアップしたモーベルグ

あの選手は上手かったですね。たしか、1試合目は後半から出てきて、自分も結構疲れている状態だったので、あの時間帯であれだけドリブルされたら結構やっかいですね。めちゃくちゃ良い選手でした。

――ゼカ選手へのアシストのシーンを見て、身長が高い選手へのクロスはモンテネグロで培った部分があるのかなと思ったのですがどうでしょうか?

そうですね。モンテネグロもけっこうシンプルにクロスをあげろみたいな感じがありました。ゼカ選手も大きくて中でドンと構えてるので、ちょっとモンテネグロ人と被る部分があって、確かにそれは間違いなくあったと思います。

大邸のストライカー、ゼカ

――もしかしたらそれはゼカ選手含め、外国人選手の間合いなのかなと思いました。

何が正解かとかはないのですが、日本だとあそこからまた作り直したりしていたかもしれません。大邱のスタイル的にもあそこはクロスをあげろみたいな雰囲気はあるので。

――ACL決勝トーナメント1回戦の相手はKリーグ屈指の強豪、全北現代です。

全北はリーグ戦で対戦していますが、すごく良いチームですけど勝てるチャンスはぜんぜんあると思います。僕は毎試合モチベーション持ってやっているので、正直、ACLだから特別みたいなのはないです。いつも通り自分の全力を出してやるだけです。

――それでは最後に今シーズンの目標とキャリアの目標を教えていただきたいです。

今はポジション争いで負けている状態なので、今シーズンは試合に絡むこと。まずは試合に出ないと何も始まらないので。

キャリア的な目標は考えてないですが、とにかく僕は今を全力でやって、いろいろな国でサッカーをさせてもらいたいです。

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