返還25周年で香港入りした習近平主席

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澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・習主席の香港訪問で奇妙なでき事が相次ぎ、様々な憶測を呼んでいる。

・習主席は香港高官たった4人の前で講話、祝賀会がキャンセルに。香港に宿泊せず深圳に戻った。

・「江沢民派」本拠地での暗殺恐れたか。新行政長官人事をみると香港は「警察都市」へと変貌。

今年(2022年)6月30日、習近平主席は翌日の返還25年周年式典へ出席するため、彭麗媛夫人を伴い、高速鉄道で香港を訪れた。この習主席の香港訪問は、1泊2日の短い日程だったが、様々な憶測を呼んでいる。

その前に、なぜ、今の香港がかつての香港の輝きを失ったのか、ごく簡単におさらいをしておこう。

2020年6月30日、中国の全国人民代表大会常務委員会は「(香港版)国家安全維持法」を可決し、同日23時から施行した。これこそが、香港を「中国化」させた主因だろう。

この法律では、以下の4つが犯罪行為(a)となる。

(1)分離独立:国家からの離脱

(2)反政府:中央政府の権力・権限を揺るがす行い

(3)テロリズム:暴力や威圧行動

(4)香港に介入する外国勢力との結託

例えば、新法第55条には、中国大陸側の保安当局者に対し、「複雑」で「深刻」あるいは「難解」な国家安全保障事件の一部を調査する権限を与える(b)と書かれている。また、捜査から判決、処罰に至るまでの全てを、中国大陸の当局が引き継ぐこともできる(第56条)。

他方、同法では、裁判が非公開で行われたり(第41条)、陪審員なしで行われたり(第46条)する可能性がある。また、容疑者は保釈されないとある(第42条)。容疑者の拘束期間についても制限がないようで、事件は「しかるべきタイミングで」処理されるべきだとだけ記されている。

以上のように、香港は、中央政府の意向に従う「1国1制度」となった。これで英国によって「近代化」された香港は、「前近代」的な中国に飲み込まれたのである。

▲写真 習主席訪問にあたり、厳重な警備が敷かれた香港(2022年6月30日 香港) 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images

さて、7月1日、習近平主席は式典の中で、「真の民主主義」は25年前に中国が香港を支配したときに始まったと主張(c)している。けれども、香港は、北京当局が国際公約した「50年」が半分で終わり、「第2の主権移転」という「第2の返還」を完了(d)した。

実は、今度の習主席香港訪問で、奇妙なでき事が起きている。

第1に、6月30日、習主席が特別列車で香港「西九龍」駅に到着した。その際、習主席は、林鄭月娥・香港行政長官ら、香港高官たった4人の前で講話(e)を行っている。

第2は、その晩、歓迎祝賀会が開催される予定だった。ところが、その祝賀会はキャンセルされ、習主席は林鄭長官による晩餐会に臨んでいる(f)。

第3に、当夜、習主席は香港内で宿泊せずに、中国大陸の深圳へ戻った。天候(台風3号)やコロナ対策への配慮というよりも、大湾区の統合開発構想、特に香港と深圳の統合開発に関する香港新政府への期待を示すために特別にアレンジされた行程ではないかという見方がある(g)。

しかし、この説明では、多くの人は納得できないだろう。むしろ、習主席が香港での暗殺を恐れて、深圳へ戻った(h)という説の方が、説得力がある。主席は香港を「江沢民派」本拠地と見なしてきたので、パーティや宿泊が安心できなかったのではないか。ただし、香港内では、厳重な警備が敷かれていた(i)。

▲写真 第6代香港行政長官に選出された李家超氏(右)と林鄭月娥・香港行政長官(左)(2022年5月9日 香港) 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images

ところで、第6代新香港行政長官の李家超(警察出身)は、今年5月に行われた行政長官選挙で選挙委員会約1460人中1416票を獲得して当選した。また、政務司司長(香港政府首席高官)の陳国基は初代国家安全委員会事務総長だった。この人事からすると、香港は「警察都市」へと変貌したと言っても過言ではないだろう。

<注>

(a)『BBC』「中国の『香港国家安全維持法』 香港市民が恐れるのは」

(2020年6月30日付)

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(b)『BBC』「香港の『国家安全法』 なぜ人々をおびえさせるのか」

(2020年7月2日付)

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(c)『CNN』「習近平が香港の反対派を粉砕 今度は中国への返還が『真の民主主義の始まり』と主張」(2022年7月1日付)

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なお、原文は『人民日報』習近平主席による「香港返還25周年慶祝大会及び香港特別行政区第6期政府就任式での演説」(2022年7月2日付第2面)

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-07/02/nw.D110000renmrb_20220702_2-02.htm

(d)『自由時報』「香港返還25周年 習近平、香港訪問で『権威を打ち立てる』」(2022年7月1日付)

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(e)『自由時報』「習近平の香港演説、壇上にはわずか4人:王皓が皮肉たっぷりに『ゼロコロナ政策』批判:ソーシャル・ディスタンスを保つ」(2022年7月1日付)

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(f)『上報』「習近平は、香港でのコロナに脅かされ、夕食会をキャンセルしたという、香港警察は『一匹オオカミ』のテロ攻撃を防ぐために刺し傷に強いベストを着用」(2022年6月30日付)

https://www.upmedia.mg/news_info.php?Type=3&SerialNo=148157

(g)『香港01』「香港返還25周年、習近平の日帰り訪問の背景には何があるのか」(2022年6月29日付、更新6月30日付)

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(h)『自由時報』「臆病なのか? 習近平の香港訪問は奇妙だ 范世平:『叙事詩級』の国際的ジョーク」(2022年6月30日付、更新7月1日付)

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(i)『BBC』「香港:習近平、返還記念日に中国の支配を正当化」(2022年7月2日付)

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トップ写真:7月1日に英国から中国への返還から25周年を迎えた香港で、習近平主席の演説を生中継するスクリーン。(2022年7月1日 香港) 出典:Photo by Anthony Kwan/Getty Images