選挙取材のプロ・畠山理仁氏に聞く!街頭演説を100倍楽しむコツ【参院選2022】

(撮影:畠山氏)

2022年7月10日に参議院議員選挙が投開票を迎えます。

「投票するなら、きちんと候補者を選びたい!でもどうやって選んだらいいのかわからない!」という有権者の皆さまにおすすめしたいのが候補者の街頭演説を実際に見てみること。

今回は、取材歴20年を超える選挙取材のプロであるフリージャーナリストの畠山理仁氏に、街頭演説の魅力や街頭演説を効率よく回るためのテクニックを伺いました。

実は筆者の夏森も街頭演説未経験(もちろん聴衆として)。お話を聞くうちに「次の週末は街頭演説ツアーじゃ!」と心が熱くなる素敵なお話でした。

候補者選びや比例の投票先に迷っている方、「選挙には行かない」と決めている方もぜひご一読ください。

取材のきっかけは新聞に載った選挙情報の少なさから

夏森アキラ(以下、夏森):

まず畠山さんご自身について伺います。選挙の取材を始めたきっかけはあったんでしょうか?

フリージャーナリスト畠山理仁氏(以下、畠山氏):

雑誌の編集部でニュースを扱う部署で仕事をしていたことがあるんです。月曜日の企画会議のために新聞を隅々まで読むと、毎週どこかで選挙があり、候補者の情報や選挙の結果が載っていることに気づいたんです。そこに、名前と肩書と年齢しか書かれていない候補者がたくさんいた。「この人はどんな人なんだろう」と興味を持って会いに行ったのがきっかけです。

夏森:

「全ての候補者に会うべし」という畠山さんらしいきっかけですね!

さて、公示から約1週間経ちましたが、今年の参院選はこれまでどのくらい選挙区や候補者を見られましたか?(※取材日は6月28日)

畠山氏:

34人が立候補した東京選挙区だけですね。

候補者は、街頭演説を実際に現場で見た人と直接取材できた人をあわせて33人。あと1人は電話とメールで取材できました。

夏森:

1日平均4人のペースですね!しかも東京選挙区をほぼコンプリート。そのスケジューリングのテクニックも含めて、お話を伺っていきたいです。

ずばり!街頭演説でわかる3つのポイントとは?

夏森:

ずばり、街頭演説の魅力は何ですか?

畠山氏:

まず、「人に話を伝える力があるかどうか」が分かります。

夏森:

政治家として重要な資質ですね。

畠山氏:

それから、街頭演説にはトラブルがつきものなんです。聴衆から意外な野次が飛んでくることもあります。

そういうトラブルに候補者がどう対応するのかという瞬発力を見ることができる。これは候補者を生で見ることの良さですね。

夏森:

臨機応変な対応力が問われるのですね。

畠山氏:

あとは、自分の感覚が世間とどれくらいズレているかということも分かります。

街頭演説には人の足が止まる演説があれば、スルーされる演説もあります。

長い時間話をしていても人の足を止める演説の場合は、無名の候補者であっても良いことを言っている。話し方が上手な人だと足が止まるんですよ。

「これは良い演説だな」って自分が思ったときに周りの人の足も止まったら「自分の感覚は割と世間と似ているんだな」っていうことがわかる。

一方で「自分はつまらないな」と思っていても人が集まってくることもあったりします。自分がこの社会の中でどういう位置に立ってるのかっていうのが、なんとなくわかる。自己分析ができるっていうことがありますね。

夏森:

候補者選びの材料だけでなく、自分自身のリトマス紙にもなるということですね。

動画ではわからない街頭演説の面白さとは

(撮影:畠山氏)

夏森:

最近は街頭演説の様子をYouTubeやTwitterなどにアップしている候補者もいます。動画ではわからない街頭演説の面白さはありますか?

畠山氏:

街頭演説の動画って聴衆は映らないんです。個人情報の問題もありますし、候補者が主役なので。だから周りの聴衆の反応がわからないんです。
動員された人なのか、それとも自然に足が止まった人なのかっていうのを見るためには、やはり現場に行くのが一番。

僕はスタッフがどういう風に動いているのかっていうのも見るので、自分の視点できょろきょろできるのは現場で候補者を見ることのメリットですね。

夏森:

街頭演説のスタッフからはどんなことがわかるのでしょうか?

畠山氏:

例えば自分がその候補者のことを応援したいと思っても、周りにいる人たちとのノリが合うかどうかって結構重要だと思うんです(笑)。
体育会系のノリについていけない人は「あの政党は無理」ってなりますよね。そういうのもわかるんですよね。

どういう人が応援している候補者なのかも現場に行くとわかります。普通の人付き合いと同じですよね。

夏森:

そういう観点で候補者を選ぶのもありなんですね!目から鱗です。

畠山氏:

実際に生身の人にお会いすると「この人とは仲良くなれそうだ」とか、「ちょっとこの人は無理そうだな」とか、「仕事上の付き合いなら何とか」とか、「仕事でもお付き合いしたくないな」とか……一瞬でたくさんの情報が手に入ります。

演説が終わった後に聞きに来てた人たちがどういう動きをするのかも、非常に面白いですよ。

夏森:

演説が終わった後も楽しめるとは!どういうところが面白いのでしょうか?

畠山氏:

候補者がいなくなってからクレームを言う人もいるんですよ。「お前らの動きは何だ」とか、候補者本人には言えなかったけど党に対して感じている不満をぶつける人もいます。。

先日も「このままだと党がダメになるぞ」って4分くらい大声で説教している熱心な支援者がいましたね。

夏森:

情熱ゆえの、クレームなのですね。

畠山氏:

街頭演説の現場では必ず事件が起きます。

それから、実際その場で演説を聞いてると、本当に心にグサッと刺さる一言を言う演説があったり、涙がでそうになる演説をされる方がいたり。こういうのは報道だけではわからないですね。

私は街頭演説を「野外ライブ」にたとえることが多いんですけど、「これはアルバムに収録されてなかったけど、こんないい曲があったんだ」というような発見が毎回あります。1回我慢して通しで見てみると、何かしら発見があります。

絶対行った方がいいと思います。

街頭演説に行こう!実践テクニック

夏森:

私も街頭演説に行きたい、行かなければ!という気持ちになってきました。

実際に街頭演説を計画的に見に行くにはどこから始めたら良いんでしょうか?

畠山氏:

今はSNSで8割くらい街頭演説のスケジュールはわかります。

だいたい前日の21時とか22時に街頭演説の予定が出るんですけど、チェックしたらこういうのを作るんですよ。

※こちらは畠山氏のお話を参考に筆者が作成した例。

畠山氏:

名前を縦に1列にして、8時から20時の時間軸を作ってどこで何をやるかって言うのを埋めていきます。僕は連絡先も書きます。

まだ会ってない人に会いに行く、というのはマークしていますね。

夏森:

1日1シートなんですね。

畠山氏:

はい。こういう感じで一覧にしていくとスタンプラリーができて「街頭演説しない」とか「取材拒否します」って言う人以外はだいたい会えます。

スタッフが少ないとSNSの更新が追いつかないところもあるので、選挙事務所に直接電話することもあります。22時くらいまでは誰かいますね。

夏森:

前日の夜って言うのがポイントですね。

実は取材前に「次の週末どこかで街頭演説ないかな」と探してみたのですが、全然見つけられなくて。1週間ぐらい前から予定が出ているものだと思ってました。

畠山氏:

あ~、それだと全然わからないですね。前日が一番いいです。

内部では大まかに決まっているんですけど、直前に変更になることもよくあります。

ただ、東京なら新宿駅の西口、南口のバスタの前、東南口、アルタ前で1か所ずっといれば、1日で6名くらい見られますよ。甲子園みたいな場所なんです。あとは新橋のSL広場とか渋谷のハチ公前とかですかね。

夏森:

街頭演説のメッカなんですね!

ちなみに私は兵庫県民なのですが、兵庫選挙区の見どころはありますか?

畠山氏:

兵庫選挙区かあ……兵庫……う〜ん、大阪が面白いと思いますよ。

18人の候補者がいて、全員コンプリートは難しいけど面白い候補者がいっぱいいます。候補者の幅をすごくよくみられると思います。

夏森:

まさかの県外でした。(笑)

確かにこれまで畠山さんから伺った街頭演説の面白さという意味では、都市規模の大きな大阪選挙区の方が魅力的かもしれません。各党の政策を長い目で見るという点においても学びがたくさんありそうです。

大変貴重なお話の数々、ありがとうございました!伺ったお話を参考に次の週末は街頭演説ツアーに行ってきます!

肩肘張る必要はなし!街頭演説を気楽に楽しもう!

今回は、フリージャーナリストの畠山理仁氏に街頭演説の魅力について伺いました。

お話を伺う前は「街頭演説で候補者と政策を見極めるべし!」と肩に力が入っていましたが、「『人として応援したいかどうか』で決めていいんだ」と考えを改めることができました。

伺ったお話を参考に次の週末は街頭演説デビューしようと思います!

今回お話を伺った畠山氏の最新刊『コロナ時代の選挙漫遊記』は絶賛発売中。

コロナ禍で畠山氏が取材した15の選挙について書かれており、街頭演説の魅力が具体的かつ鮮明に描かれた「選挙に行きたくなる1冊」です。

ぜひ、手に取ってお読みください!

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