覚せい剤の洋上密輸防げ 水際対策の最前線、暗夜の貨物船警戒 南北600キロ管轄する監視艇・鹿児島税関支署「なんせい」乗船ルポ

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カーテンに覆われた監視卓で、モニターに見入る税関職員=6月20日午前0時50分、鹿児島湾

 新型コロナウイルスによる国際線旅客機の減便で、海上貨物を介した覚醒剤の密輸が増える傾向にある。6月下旬、不正薬物やテロ関連物資などを取り締まる長崎税関鹿児島税関支署の大型監視艇「なんせい」(141トン)に乗り、水際対策の最前線を取材した。

 なんせいの主な管轄海域は県本土から与論島までの南北約600キロ。海岸線は2643キロと北海道、長崎に次いで長い。覚醒剤の「仕出し地」とされる中国や台湾、インドネシアに近く、国内有数の密輸警戒区域だ。監視業務に支障があるとして、乗組員数や年間航行日数は公表していない。

 「対象船、確認」。午後11時、レーダーが鹿児島湾に停泊する船を捉えた。インドネシアを出港した貨物船だ。港で積み荷を降ろすまで沖で待機するとの情報を事前に調べ、監視対象に選んだ。

 監視が悟られぬよう岳下拓也船長(54)が貨物船と一定の距離を取り、暗夜に溶け込むようにかじを切る。船の死角に入り込んだ。

 監視用モニターが並ぶ心臓部「監視卓」は光が外に漏れないよう黒いカーテンで覆われていた。事務官と呼ばれる税関職員が貨物船を映すモニターに目をこらす。集中力が切れないよう2〜3時間の交代制。近場の港で不審な動きがあれば陸上班が無線で知らせる。

 午前0時12分、貨物船の甲板で人影がモニターに映った。「見張りの交代かもしれない」。ベテラン事務官が話した十数分後、漁船が現れ、緊張が走った。「周辺海上に不審物がないか確認を」。若手事務官が指示に従い、即座に暗視機能付きカメラが捉えた貨物船と漁船の動きを追う。漁船は桜島沿岸に設置された定置網まで離れ、貨物船に近づくことはなかった。「不審な動きなし」。情報は無線で陸上班にも伝わり、事務官らは貨物船を映すモニターに再び見入った。

 事務官らが警戒したのは「瀬取り」。浮具を付けた薬物を海に落とし、漁船などを装った船が回収、陸揚げする手口だ。1999年、南さつま市笠沙の海岸で当時国内最多の覚醒剤564キロ、2016年には徳之島沖で約100キロの覚醒剤が瀬取りで密輸された。

 夜が明け、貨物船が港に接岸したのを確認し、監視は終わった。上之薗望央事務官(31)=鹿児島市出身=は「鹿児島を不正薬物やテロから守る役目がある。空振りが多いが、摘発に向け対応力を磨いていく」と話した。

■コロナ下、「船」経由増加

 財務省の統計によると、2021年に全国の税関が押収した不正薬物は1138キロ。最も多いのが覚醒剤で912キロに上る。うち約7割の626キロが貨物船を使って密輸された。

 新型コロナ禍前の19年の不正薬物の押収量は3339キロで覚醒剤は2587キロ。うち、「航空旅客」やクルーズ船などの旅客を含む「船員」を介した密輸は2トンを超えていた。感染が広がった20年は54キロ、21年は35キロと激減。一方で19年は43キロだった貨物船からの覚醒剤の押収は20、21年ともに600キロを超え、増加傾向にある。

 20年以降、覚醒剤全体の押収量は減っているが、国内で流通している末端価格に大きな変化はなく、押収量を超える覚醒剤が流入し続けているとみられる。鹿児島税関支署の小牟禮秀一総務課長(50)は「洋上で供給されている可能性が高い」と指摘。「見逃せば大量の薬物が国内に流入する。監視の目を日々光らせることが抑止力になる」と警戒を強める。

鹿児島税関支署の大型監視艇「なんせい」