外資系大手IT企業の部長が語る、転職すべき人と今の会社に残るべき人

転職には「上手なやり方」があり、具体的な方法論や、基本的な考え方を学ばず転職活動を始めても、上手くいかないケースが多くあります。

そこで、作家で外資系大手IT企業の現役企画部長の安斎 響市( @AnzaiKyo1 )氏の著書『転職の最終兵器 未来を変える転職のための21のヒント』(かんき出版)より、一部を抜粋・編集して転職のためのヒントを紹介します。


自分のキャリアは、自らの手で選ぶ

「好きでもない会社で、いつまでも我慢していたら、毎日働いてる意味はない」

このセリフを吐くことができるのは、過去に「自分がいるべきではない場所」を抜け出して、自らの手で「自分の居場所」を勝ち取った人
だけです。

会社員として生きるすべての人の大前提として、キャリアは、会社任せではなく、自分の頭で考えて作り上げないといけません。

会社が謳う「社員の長期的キャリアプラン支援」「社員一人ひとりの自己実現をサポートする人事評価制度」などは、「まやかし」に過ぎず、言ってしまえば「会社のために長期的に貢献してくれる都合のいい社員の育成と支援」でしかありません。

ある意味、会社にとって「評価すべき優秀な社員」とは、「会社にとって都合のいい社員」のことです。

会社都合の人事異動などに、ただ流されるがまま惰性で何年も過ごしても、自らが望むキャリアを手に入れられるとは限らないですし、「自分に合わない場所」でいくら頑張っても、モチベーションが上がらず、なかなか成果が出ないことも多々あります。

もちろん、今働いている会社の環境に十分に満足しているのであれば、それで結構ですが、もし会社に対して強い不満や不信感がある場合、「今いる会社がすべてではない」という意識を持つことも、時には必要です。

「置かれた場所で咲きなさい」という言葉がありますが、たまたま置かれた、その場所が、「自分が輝ける場所」ではない可能性もあります。

薄暗い日陰のすみっこで、何とか咲こうと無理して頑張っても、きっと、その場所では、小さくて弱々しい花しか咲かせることはできません。

「置かれた場所で咲きなさい」はいい言葉ですが、どんな名言も、使い方次第では「呪い」となって人を苦しめます。無闇やたらと「置かれた場所」にこだわって、泣きながら厳しい環境に耐えて長い間苦しみ続けるよりも、「自分の身を置く場所は、自分で決める」意識が大切です。

会社は会社。自分は自分

世の中にはさまざまな会社があり、それぞれに企業独自の社風や文化があります。

その中には、サービス残業が常態化しているブラックな会社、年功序列で若手社員が活躍できない会社、上司に個室に閉じ込められて大声で恫喝されるパワハラ体質の会社なども、実際にあるでしょう。

そして、大事なのは「会社は会社」「自分は自分」という考え方です。

仮に、誰もが知る製品やサービスを展開する大手有名企業に勤めていたとしても、すごいのは自分ではなく、会社の方です。仮にブラックで薄給激務の会社に勤めていたとしても、悪いのは自分ではなく、会社の方です。

自分の置かれた不運な状況に絶望してしまう人もいるかもしれませんが、勤めている会社が散々な環境だったとしても、自分自身のことまで卑屈に考えることはありません。

どうしても「この環境は合わない」と思ったら、転職という選択肢もあります。

新卒で入った会社に長く勤めていると、どうしても「その会社で働いていること」が自己のアイデンティティーになってしまう人がいます。

しかし、「会社は会社」「自分は自分」と切り離して考えることが、きっと、特定の会社に長期的に依存せず「強いキャリア」を作っていくためのヒントになると思います。

2021年に総務省が実施した「労働力調査」によれば、25歳~34歳の転職希望者は全国で237万人と、同世代の5人に一人が転職を検討しているという結果になりました(総務省統計局「労働力調査」2021年(令和3年)7~9月期平均結果より)。

今の時代、転職は決して珍しいことではなく、もはや「当たり前のこと」になりつつあります。

また、よく勘違いしている人がいますが、今まで働いてきた会社を辞めたからといって、過去の経験や仕事での評価がすべて「無駄」になってしまうわけではありません。ゲームに例えると、転職は、「リセットボタン」ではなく「強くてニューゲーム」みたいなものです。

自分の目の前の仕事が無意味に思えたとしても、「○○業界での経験あり」「○○職での実務経験3年以上」という事実だけでも、転職活動では一定の武器になることがあります。

転職先の企業選びさえ間違えなければ、過去の経験は、何らかの形で必ず生きます。

あくまで前向きに、過去を上手く生かして先に進みましょう。

社内を見渡して、「20年後の自分」を想像する

「安定した大手企業だと信じていたのに、突然のリストラでクビを切られる」という話は、現実世界にもたくさんあります。

私がかつて在籍していた日系大手企業でも、以前、退職金割増しを餌にして40代以上の社員に何とか会社を出て行ってもらおうとする「大量リストラ」がありました。

最近では、それほど珍しい話でもないと思います。

変化の早い現代社会において、「雇用の安定」などというものは、もはや存在しません。トヨタ自動車の豊田章男社長さえも、2019年には「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と語っています(2019年10月13日、日本自動車工業会の会長会見にて)。

トヨタでさえも雇用を守れないのであれば、一体どの企業が、今後ずっと雇用を守れるというのでしょう? 今日時点では経営が順調そうに見える大手ブランド企業でも、10年後、20年後にはどうなっているかなんて、誰にもわかりません。

一方、今の会社に40代、50代になるまで残っていた場合、どんな経験やキャリアを積めるか? どんな働き方ができるようになるのか? というのは、その会社で5年も働けば、大体わかってきます。社内に、年代別のロールモデルがたくさんいますからね。

社会人として数年働いて、自分の「ビジネススキル」に少しずつ自信がついてきたら、将来どんなキャリアを歩んでいきたいのか、遅くても30歳までには、ある程度の道筋を見据えておくべきだと思います。

自分の上司や、社内で活躍している先輩を見ていて、「こんな風になりたい」とあこがれを抱けるなら、その姿を目指しましょう。

逆に、社内を見渡して「将来こんな風には絶対になりたくないな」と思ってしまうようなら、その時は、選択肢の一つとして、新しい環境と出会うために「転職」を考えるべきなのかもしれません。

転職することが「答え」とは限らない

転職活動は、非常に辛く、厳しい戦いです。最短でも2カ月くらいはかかりますし、人によっては1年~2年かけてもまったく内定が出る気配がない、という場合もあります。

自分は何のために転職をするのか、という「転職の軸」を決めるのは大切なことですが、その理想が高ければ高いほど、「理想と現実のギャップ」に苦しむことになります。

考えてみればわかると思います。例えば、「年収600万円以上稼ぎたい」と強く願っても、自分に「年収600万円」を提示してくれる会社を現実的に見つけられなければ、いつまでも転職はできません。

同様に、「願望」や「理想」だけでは上手くいかないのが転職活動です。この時、主な選択肢としては、(1)条件をある程度妥協して「年収500万円以上ならOK」などとする、(2)転職を一旦は見送って、「年収600万円」のポジションの内定を獲得できるような経験やスキルを長期的に積む、の2つがあります。

どちらが正解かは、わかりません。人それぞれの考え方次第です。

ただ、自分が望んでいた「転職の条件」はなかなか満たせそうにないことを知ったからといって、安易にハードルを下げて妥協した転職をすることが、自分の人生にとって長期的にプラスになるかというと、私は少し疑問です。

待遇などの条件を下げたり、希望の職種を変えたり、「最初は契約社員でもいいから」などと大幅にハードルを下げてしまったら、転職をする意味がありません。

最初に決めた「転職の軸」を大幅に曲げてまで、どこでもいいからと転職するくらいなら、とりあえず今の会社に残った方がよほどマシです。

転職活動が長期化してくると、ついつい妥協して、簡単に内定が出る会社を受けたくなってしまうものですが、そんなことをしても、自分のためにはなりません。

転職活動のゴールは、必ずしも「転職」とは限りません。「転職活動をやめる」のは、「転職活動を始める」よりも、はるかに勇気の要ることですが、時には必要な判断です。

「あきらめる」わけではありません。

長期的な利益を得るために、短期的な利益を捨てるということです。

安斎 響市 著

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