「助けられた恩 今度は誰かに」 豪雨で被災の夫婦は防災士 風化させないために

再び同じような被害を繰り返してはいけないと、被災した住民たちもさまざまな取り組みを続けています。広島県坂町の小屋浦地区では住民が防災士の資格をとり活動しています。災害を風化させまいと奮闘する夫婦の思いです。

RCC

被災から10日後の坂町小屋浦をドローンで撮影した映像です。山が崩れ、谷筋を下った土石流が町を飲み込んだ状況を伝えています。茶色い土砂に覆われた住宅地。被害は広範囲にわたっていました。

RCC

映像は、小屋浦地区にできたばかりの災害伝承ホールで上映されました。西日本豪雨をきっかけに防災士になった住民でつくる小屋浦防災士会が企画しました。

撮影したのは、防災士の元吉保さんです。4年前、地区の海側にある元吉さんの自宅周辺は、山側からの濁流に覆われました。車もほぼ完全に隠れてしまうほどでした。

RCC

妻・仁美さん
「2階まで水が上がったらどこに避難しようってことばかり考えていた。」

6日夕方、車で40分のところにある会社を出た元吉さんは、翌日の未明になって、ようやく泳ぐような状態で自宅にたどり着いたといいます。

元吉保さん
「生活に必要なもの全部下にありますから、また一から全部揃えなくてはならないという状況だった。」

RCC

避難生活も経験し、当時は多くを失いましたが、たまたま残ったものがありました。ドローンです。もともとは趣味でバイクのレースを撮影するために購入したものでした。

元吉保さん
「(災害が)週末だったんですけど、ちょうどその週末に(バイクの)撮影に行く予定があって、ドローンは車に積んでいた。なのでドローンだけは助かりました。」

RCC

そして撮影したのが、被災10日後の映像です。

元吉保さん
「(発災から)10日後って言ったらまだ生々しい映像もあったりするんですけど、そういうものを映像で残して伝えていかなくちゃなという思いがあった」

RCC

思いつくままに故郷を撮影し、SNSに投稿しました。投稿を見たボランティア団体から山の撮り方を教わり、元吉さんは被災した町を本格的に撮影し始めることになりました。

元吉保さん
「毎年、大雨が降るんで、雨の後にダムがちゃんと機能しているのか気になるんじゃないかなと思って、大雨のあと、ダムの建設の進捗状況とか、そういうのを撮影して」

RCC

上映会で、元吉さんは4年前の映像と、先月撮影したばかりの映像を紹介して、復旧の状況を伝えていました。

RCC

住民
「子どもや孫の時代にもこういう映像は残しておいてほしい」

RCC

住民「これを見ると関心をもって平素からどういうことをしたらいいかっていうのを改めて感じる。災害の規模もこれで初めて見るわけですが、復旧の状態も少々ではないですね」

特別な思いで、映像を見に来ていた人もいました。

RCC

「友だちが…ごめんなさい…。まだ見つかっていなくて…。」

元吉さんは、夫婦で「災害を風化せない」ために取り組んでいます。

小屋浦防災士会では、妻で看護師の仁美さんも活動しています。

RCC

元吉保さん
「そもそも元吉がボランティア活動してるとか、近所の人と話をしてるっていうのが信じられない。」

元吉仁美さん
「親族もビックリ。」

元吉保さん
「ボランティアをしたことがなかった。でもそれだけボランティアに助けてもらったときに本当に考えが変わりましたね、完全に」

RCC

映像を残すことが自分が小屋浦にできること。元吉さんは災害の記憶の風化を防ぎたいと考えています。

元吉保さん
「個人それぞれの防災意識というのは我々もまだ分からない。いまからみんなとつながって一緒に防災に取り組んでいかなくちゃなと。始まったばかり。まだまだいまからです」

RCC

そして、西日本豪雨から4年となったきょう。町では子どもたちも災害の教訓を学んでいました。

地域唯一の保育園では、園の前にある川が増水した想定で、避難訓練が行われていました。

机の下に隠れる訓練のあと、園には仁美さんの姿がありました。防災士たちが、子どもたちに大雨や地震があったときどうしたらいいかを伝える教室です。

RCC

仁美さんもパネルを使って、災害が起きたときの体の守り方を伝えていました。

RCC

元吉仁美さん
「子どもたちがすごく興味をもって聞いてくれたので少しは役に立ったのかな。みなさんの顔を見たり、地域の役に立てることがあったらなと思っている。」

RCC

元吉さんと仁美さんが昼食に来たのは、自宅近くの台湾料理店です。ここに来るとたくさんのボランティアが食事に来ていた4年前の夏を思い出すそうです。

元吉仁美さん
「職場の人とかお友達が土砂をかき出しにきてくれた」

元吉さん夫婦は被災して多くの人に助けられた恩を、今度は誰かに返したいと話します。

RCC

元吉保さん
「夕焼けが太陽がちょうどあの辺に沈むんですけど、日の入りくらいの時間に来てもらえたら、めちゃきれい、ここ。」

復旧は進んでも、ここで起きたことを忘れない。地域の人たちは、災害の記憶をつないでいます。

© 株式会社中国放送