【参院選2022×「Z世代」】コロナで少子化加速、対策は 当事者の今だからこそ投票

子どもの誕生を期に政治に目を向け始めたリョウタ

 新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、少子化が加速している。2021年の出生数は過去最少の約81万人で、30年と想定されていた80万人割れが目前に迫る。出産費用の増加傾向を受け、公的医療保険から支給される出産育児一時金を増額する政府方針も打ち出された。  

◆子育て政策を重視

 「ニュースで見ました。出産一時金を増やしてくれるのはありがたいけど、3人目は考えていない。2人でも家計が厳しいので出産後の支援もあるといいのに」。2児の父で、建設会社に勤めるリョウタ(23)=川崎市=はそうこぼす。  

 これまで投票に行ったことはないが、今回の参院選こそは、「正直誰でもいいから、投票だけしてみようかな」と考えている。

 政治に関心を持つようになったのは、子どもが生まれてからだ。中学時代は夜遊びに夢中だった。定時制高校で軟式野球部に入部してから生活リズムが整い、勉強に目が向いた。大学に進学したが、同い年の妻との間に長女を授かり、半年で中退。父が経営する会社で働き始めた。

 次女も生まれ、価値観が百八十度変わった。「人を育てることがどれだけ大変か。習い事でも、お金をかけようと思えばいくらでもかけられる」。投票で重視するのも子育て政策だが、政治には距離を感じる。「若い政治家がいないし、いいイメージもない。不正のニュースばかりで何を信じ、どこに投票していいか分からない」

 Z世代でも、大学卒業後の奨学金返済に苦しむ人が少なくない上、ここ30年で非正規雇用の割合は増大した。不安定な経済事情から結婚に踏み切れない若者や、子どもを持つことをためらう夫婦もいるのが現状だ。

◆課題が反映されず

 物価高や安全保障などが参院選の主要争点となる一方で、少子化対策を前面に打ち出す候補者は多くない。社会全体で育児負担が女性に偏る中、女性議員の割合も国政ではわずか14%だ。野党の多くは教育費の無償化などを公約に掲げ、現政権も子ども関連予算の「倍増」をうたうが、肝心の財源確保の道筋までは見えてこない。

 子育ての課題が、政策に反映されていない─。そう感じ、育児の真っ最中に立候補した地方議員もいる。

 町田市議の矢口まゆさん(32)は長女3歳、次女1歳だった4年前に初めて出馬した。高校卒業後に専門学校に通うため北海道から上京。就職後に結婚し、出産を機に退職して町田市に転居した。実家が遠く、友人もいない孤独な子育て環境で「困っていることが山ほどあった。自分が病気になっても病院に行けず、2人目の出産時は上の子の預け先に悩んだ」。保育園ではフォークをくわえて小さな子どもが歩いていたり、窒息の危険があるミニトマトが丸ごと給食に出ていたりする現状も知り、衝撃を受けた。

 そうした問題に取り組んでいる政治家を調べたが、見つからなかった。「そもそも子育て中の議員が少ない。でも、私のように孤独な子育てで困っている人も多いはず」。まずはできる範囲で行動しようとママの会を立ち上げ、土日の遊び場をつくった。それでも次々と子育て課題が見つかり、政治で変えなければと決意した。

 当選後の働きかけで、同市で宿泊保育の年齢が引き下げられたり、保育園の給食が変更になったり…。自身のホームページに、実績を細かく並べている。「政治で何が変わるのかが分からないとみんな興味も持てないし、有権者も選べない」

 自身の学生時代も選挙に関心はなかった。政治の力で困り事を解決しようとは考えてもいなかったが、育児との両立に不安を抱えながらも政治の世界に足を踏み入れた今、市民の声を議会で発信し、提案することで多くのことを変えられると実感する。

 「やっぱり、子どもが成長してからでは遅い。今の子育ての苦労は今しか分からない」。今まさに悩んでいる当事者だからこそ、また若い今だからこそ、見える課題があるのではと感じている。

◆韓国は日本より深刻

 日本以上に少子化が進む韓国では2021年の合計特殊出生率が0.81。経済協力開発機構(OECD)加盟国で最下位だ。韓国の若者は現状をどう感じているのか、早大大学院で政治学を学ぶ留学生のイ・ソクミンさん(25)に聞いた。

 ソクミン 少子化は国が滅びるかもしれない問題で、国として最優先で取り組むべき。地下資源のない国にとって唯一の“資源”が「人」だ。北朝鮮と対峙(たいじ)する韓国は男性に兵役義務があり、ドローンやAIが人の代わりになるという主張も一部であるが、戦争で最後の役割を担うのは人。安全保障の面からも少子化の影響は大きい。

 韓国では10年ほど前に、恋愛・結婚・出産を諦めた若者世代を指す「三放世代」という言葉も生まれた。

 ソクミン 就職難で、高校の友人でも安定した職に就けているのは数人しかいない。家の値段も高く、普通のサラリーマンは一生働いてもソウルで家を買えない。教育費も高い。親は生活費を減らしてまで教育費を捻出し、塾の市場が毎年のように大きくなっている。こんな環境で若者が結婚や出産を諦めるのはある意味当然。若者の問題というより、社会状況が原因だと思う。

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