商人に「国定価格」を強要…医薬品高騰に悩む北朝鮮

北朝鮮で売られている品物の値段には、国定価格と市場価格がある。前者は国が定めた公定価格で、国による配給で適用されるものだ。市場価格とは大きくかけ離れており、市場でこの価格で物を売ろうとする商人はいない。

おりからの医薬品不足で価格が高騰しているが、当局は商人に対して、この国定価格で販売するよう命令を下した。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局が発した布置(布告)では、点滴用の注射針250ウォン、抗生剤のクロラムフェニコールが3102ウォン、注射器245ウォン、乳酸点滴液3870ウォン、ゲンタマイシンが615ウォンなど、価格の一覧が示されている。「この価格以下で販売せよ」という意味合いがあり、いずれもほぼ国定価格だ。

(※以上、いずれも北朝鮮ウォン。以下同。1000北朝鮮ウォン=約20円)

薬品が異なるため、単純比較はできないが、今年5月下旬に両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)の市場では、抗生剤のアモキシシリンが3300ウォン、解熱鎮痛剤のAPCが5000ウォン、咳止めが4800ウォンで売られていた。国の示した価格と桁数が異なることがわかる。

2009年に行われた貨幣改革(デノミネーション)の直後、ハイパーインフレに陥ったにもかかわらず、当局は商人に対して国定価格での商品販売を強いた。そのため商人は売り惜しみし、深刻なモノ不足を招いた。抗議活動や犯罪が多発し、当局は公開処刑などの強硬策で対応したものの、北朝鮮がその混乱から抜け出すには10年近くの歳月を要した。

市場の医薬品商人としては、仕入れ価格よりはるかに安い値段で売れという当局の指示は絶対に受け入れられない。情報筋は触れていないが、今までの事例を考えると、従来の市場価格での密売、または売り惜しみで品薄に拍車をかける結果を招くのは、火を見るよりも明らかだろう。

一方、反社会主義・非社会主義連合指揮部は、今月から、商人の医薬品販売に対する取り締まりを始めた。個人が医薬品を販売する行為はそもそも違法で、病院か薬局を通じて入手せねばならないが、同国ではとっくの昔に「社会主義保健制度」と呼ばれる無償医療制度が崩壊し、市場で薬を買うのが当たり前になっていた。

そのため、法が厳格に適用され、取り締まられることはなかったのだが、ここに来て当局が態度を一変させたということだ。

連合指揮部の係官は、医薬品販売を行っている人の自宅近所で張り込みを行い、販売している現場を押さえて全量没収し、薬局に送っている。

金正恩総書記が、自宅用の医薬品を患者に寄付しているのに、販売をするとはけしからんということなのだろう。また、医薬品価格の高騰に、庶民の不満が高まったことも意識しているようだ。

しかし、情報筋は当局のやり方に疑問を呈している。取り締まりが行われたところで、薬局には依然として医薬品はなく、地域に1〜2ヶ所しかない薬局まで足を運ぶのは面倒だというのだ。市場や病院の近隣で薬を販売している商人の家で買う方が、値段は高くとも便利で、様々な薬が手に入るとのことだ。

そんな現状を無視した当局のやり方は、一時的なアピールに過ぎず、結局従来どおりの方式での薬の販売は続けられるだろうというのが、情報筋の見立てだ。極度な便乗値上げや買い占めは取り締まるとしても、市場のメカニズムを全く無視したやり方など、長続きするわけがないのだ。

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