利益がそこまでなくても個人事業主が法人化するメリットはある? 節税以外にも恩恵あり

個人事業を開業し、事業もある程度軌道に乗ってくると法人化について考える機会もあるでしょう。ただ、そもそも法人化した方が良いのか、どのタイミングですれば良いのかについては悩むひとも多いはず。この記事では、法人化するメリットといつ法人化するのが良いかを解説していきます。


法人化とはなに?

法人化とは、法人を設立し、個人事業で行っていた事業を法人で行うことを言います。法人とは、法律で一人の人として扱われる団体、組織のことで、「株式会社」「合同会社」「NPO法人」「一般社団法人」などが挙げられます

個人事業から法人に事業を移す場合、一般的には株式会社や合同会社といった形を取る場合が多いでしょう。

法人化のメリット

・節税できる

個人事業主が法人化を検討する上で、節税対策を考えることがあるでしょう。

個人事業の場合、売上から経費を引いた利益のすべてが所得税の課税対象となります。所得金額が高くなるほど税率は上がり、所得税は最大で約45%が課税されます。住民税もプラスされると、最大約55%になります。事業のために残す分と事業主の報酬、両方が課税対象となります。

一方、法人を設立した場合、事業の利益の中から事業のために残すお金が法人税の課税対象となります。税率は、住民税と合わせても30%程度。経営者の報酬も法人の「損金(個人事業主でいう経費)」として処理できるため、法人と個人で所得を分散し、課税を抑えることができます。

法人の事業主の報酬(役員報酬)については、所得税の税率は個人事業主と違いはありません。ただ、役員報酬がそのまま給与所得となるのではなく、収入に応じた「給与所得控除」により、一定額が控除されて所得としてカウントされます。つまり、通常の経費に加えて、役員報酬の一部が必要経費として所得税や住民税控除の対象となるということです。

このような仕組みで法人化により節税に繋がります。

・健康保険、厚生年金に加入できる

日本の年金制度は2階建ての制度になっており、1階部分の国民年金の他に、会社員であれば2階建て部分の厚生年金を支払うことで将来の公的年金の受給額が増え、遺族年金や障害年金も手厚くなります。

しかし、個人事業主になると1階部分の国民年金のみの加入となり、会社員と比べ年金の給付額が少なくなります。また、国民健康保険においても、健康保険では受けられた「傷病手当金(ケガや病気で働けない期間の収入の補償)」が受けられなくなるなど、社会保障の面で会社員に比べ心もとないものになります。

法人を設立すると、経営者も厚生年金、健康保険への加入が義務付けられています。個人事業主と比べて保険料の負担は増えますが、厚生年金と健康保険の保険料の半分を会社の経費で支払うことができます。

「社会保険料が高い」といわれますが、役員報酬の金額や、家族を扶養に追加することで社会保険料を抑えることもでき、場合によっては社会保険料を節約しながら個人事業主より手厚い社会保障を備えることも可能です。

・会社としての信用度がアップ

株式会社などの法人格がつくことで、しっかり事業として取り組んでいると取引先からの評価に繋がります。また、金融機関から資金調達を行う際も、会社のお金と個人のお金を分別して見える化できることで融資が有利に受けられる場合もあります。

法人化のデメリット

・税金の申告が複雑

法人の確定申告は、個人の確定申告よりも書類が多く複雑です。個人の確定申告を自分で行っているひとも、法人となると難しい場合も多いでしょう。その場合、税理士に依頼するか、会計ソフトのオプションである「申告サービス」などが必要で、その分コストが増えることがあります。

・赤字でも7万円の住民税の支払いが必要

法人の場合、赤字でも法人住民税均等割で年間7万円が必要になります。

・従業員に社会保険(厚生年金、健康保険)への加入義務が発生する場合がある

個人事業主の場合、その業種や規模により従業員への厚生年金、健康保険加入義務が発生しない事業所もあります。ただ、法人の場合は週30時間以上(会社の規模によっては20時間以上)など、一定の基準を満たした従業員は加入義務が発生します。そのため、会社の社会保険料負担が増えることがあります。

法人化はどのタイミングが良いのか?

法人化すべきタイミングは、節税対策で考えると「利益が〇〇円以上」など、おもに利益を基準に決められることが多いです。

しかし、実際には節税だけでなく、会社としての信用度アップや社会保障を手厚くし、さらに社会保険料の節約に繋がるケースもあるため、早い段階から行った方が良い場合もあります。

例えば、下記のようなケースでは実際に利益はそれほどなくても、大きなメリットをもたらす結果となりました。

ご夫婦でリラクゼーションサロンを営むAさんの場合

家族構成は、夫35歳、妻32歳、第一子4歳、第ニ子2歳。年間の所得は約500万円(妻に専従者給与を80万円支給、青色申告55万円の控除後)。妻は夫の事業の経理を担当。夫婦共に国民年金保険の第一号被保険者、国民健康保険に加入。

法人化前

法人化後

役員報酬・夫180万円、給与・妻88万円(第三号被保険者として夫の扶養に追加)。自宅の一室をサロンとして使っているため、毎月家賃として4万円代表者である夫に支払う。生命保険料、法人から個人型確定拠出年金の掛け金を拠出。法人利益200万円で計算。出張旅費規程導入

その差額をまとめると以下の通りです。

このように、税金、社会保険料だけで100万円近くも支出が減ることになります。しかも、厚生年金に加入し将来受け取れる年金や遺族年金なども手厚く、傷病手当金も僅かな金額ではありますが受け取ることができるようになりました。さらに、3歳未満児の保育料も前年の課税所得で算出されますので、保育料まで最低水準に下がります。

税理士報酬の上昇や、会計ソフトの申告サービス分など費用が上がるところもありますが、それらを差し引きしても大きな削減効果を産むことがあります。今回の事例は従業員がいない場合ですが、社会保険料の負担が発生しても法人化すると、大きなメリットが得られる場合もあります。

そのため、副業ではなく本業として事業を行っていこうと考えているのであれば、早い段階で法人化を検討した方が良いかもしれません。社会保険や税金の面でのメリット、デメリットを考慮し、検討してみましょう。

気になったタイミングこそ法人化のとき

ここまで、法人化のタイミングを考えるにあたってのタイミングをどのように考えれば良いかをお伝えしてきました。

解説してきた通り、法人化は利益がある程度まで達するまで待つよりも早い方が良い場合もあります。そのため、「気になったときがタイミング」と言えるかもしれません。

今回の内容を元に、メリット・デメリットを比較しながら検討してみましょう。

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