「死ぬまで元気」のための「5つのM」(後編)

「5つのM」を知って

認知症や心疾患を予防

Q.「5つのM」(下表参照)②Mind(精神、認知機能):先進国での認知症患者数の推移は?

A.

社会の高齢化とともに、世界中で認知症患者数は増加していますが、先進国だけを見た場合、65歳以上の患者の割合が下降傾向にあることが知られています。認知症教育が一般に浸透し、人々が禁煙を徹底、生活習慣を改善することによって、発症率が下がってきているということです。明るいニュースですね。

認知症は、個人で修復できるリスクが40%、そうでない未知のリスクが60%に大別できます。つまり、何とかできるリスクが40%もあるのです。例えば、視覚や聴覚のメンテナンスも予防のポイントです。目と耳は、脳に情報を送るアンテナ器官。それをケアすることで、脳を刺激することが可能です。白内障などは手術で治せるので、認知症予防につながると思って、眼科医と相談し、治療を受けてください。

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Q.「5つのM」③Medi cation(薬):高齢者に向き、不向きの薬について教えてください。

A.

家庭の常備薬である鎮痛・解熱剤タイレノール(有効成分アセトアミノフェン)は、空腹時にも服用でき、高齢者にとって比較的安全な薬です。肝臓で代謝されるので、大量に服用すると肝臓に障害が出る恐れもあります。

高齢者に避けてほしいのは、総合感冒薬です。咳、鼻水、喉の痛み、熱など、風邪の症状全てをカバーする成分が含まれており、該当する症状がなければ不必要な成分まで服用し、副作用リスクだけを負うことになります。特に、鼻水止めの薬は要注意。この薬は眠気を誘うので、フラフラして転倒した高齢者が救急医療室に運ばれるケースを何度となく見てきました。また、尿を出にくくすることがあり、夜中排尿できなくなり救急車を呼ぶケースもあります。

その他、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛剤)に分類されるアドビル(イブプロフェン)などは、腎臓で代謝されるものが多く、常用すると腎臓障害や胃潰瘍になる恐れがあります。解熱や鎮痛目的では、これらの薬は高齢者にはあまり勧められません。

Q.「5つのM」④Multi-complexity(多様な疾病などの予防):高齢者向けの食事とは?

A.

地中海料理が心筋梗塞のリスクを軽減することが、さまざまな研究で示されています。心臓の持病がある人を、地中海ダイエットとそれ以外のグループに分け、5年間追跡・比較したところ、地中海ダイエットグループの方が心筋梗塞の再発率が低かったそうです。循環器内科に通っている高齢者が、日々のダイエットに取り入れるのは良いことだと思います。

それから、予防というのはすぐに効果が表れないので、ついおろそかにしがちですが、5・10年後の自分の健康のために、年に一度の健康診断や、ワクチンの接種は積極的に受けてほしいと思います。

例えば、50代の女性なら、必要な定期検診の項目には大腸がん、(日本なら胃がんも)、子宮頸がん、乳がんがあります。糖尿病や高血圧のリスクも知っておきましょう。接種すべきワクチンも、インフルエンザ、帯状疱疹、破傷風、そして今はコロナワクチンがありますね。健康管理はなかなか多忙です。

そして最後になりましたが、「5つのM」の5つ目。やはり人生いくつになっても、楽しみや生きがいを持つことが、元気に長生きする秘訣だと思います。

山田悠史先生
Yuji Yamada, MD
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米国老年医学専門医/マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。
2008年慶應義塾大学医学部卒業。
東京医科歯科大学医学部附属病院などで研修。
15年からマウントサイナイ大学ベスイスラエル病院内科研修医。
20年から同大学病院老年医学フェロー。
22年から同大学アシスタントプロフェッサー。
著書に「最高の老後 『死ぬまで元気』を実現する5つのM」(講談社)。

Icahn School of Medicine at Mount Sinai
Brookdale Department of Geriatrics and Palliative Medicine
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