見逃してない? 日本の犯罪小説が原作の韓国ノワール『藁にもすがる獣たち』 大金を巡るサスペンス! チョン・ウソンら出演

『藁にもすがる獣たち』© 2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. ©曽根圭介/講談社

意外と見逃してるかも? 小規模公開の名作

年間数百本の映画が公開される日本。しかも世界ではその数十倍の映画が製作されており、またドラマやドキュメンタリーを含めると膨大な量の映像制作物が発表されている。特に動画配信サービスが乱立し、それぞれがオリジナル作品を発表するに至り、まったく追いつけないという方がほとんどなどではないだろうか。かく言う筆者自身も新作の波に巻き込まれ、動画配信サービスの「お気に入り」は減ることが無いまま次々と新作が放り込まれている状況。

そんな中、映画館では本国で大ヒットしたにも関わらず諸事情によって数週間の上映で配信メディアに送られる作品や、「未公開にしてなるものか!」という関係者の意地と努力によって特集上映で数回公開されただけという作品も多数。多くの観客の目に触れることなく、ひっそりとメディアリリースされて……という作品と改めて出会えるのは映画専門チャンネルならではであろう。という訳で今回は、日本の小説が原作の韓国映画『藁にもすがる獣たち』(2020年)の紹介となる。

乱歩賞作家・曽根圭介の小説を韓国が映画化

原作は曽根圭介。「沈底魚」で第53回江戸川乱歩賞を受賞した曽根の作品の中でも、テンポの良さと、バラバラだった時間軸のストーリー群がクライマックスに繋がっていく爽快感が秀逸な作品だ(曽根のサウナ店長だった時の経験が活かされた作品でもある)。

そんな曽根の原作は韓国でもハングル版が販売されており、たまたま短編映画監督のキム・ヨンフンが手に取り、そのタイトルのインパクトと見事なストーリーテリングに惹かれて映画化を熱望。韓国ノワール映画の大ファンである曽根がこれを快諾し、映画製作がスタートしたという作品だ。

①ある日、場末のサウナでアルバイトをするジュンマン(ぺ・ソンウ)は、外出したまま戻らない客の荷物の中身を確認すると、そこには多額の現金が入っていた。事業に失敗し、子供の学費にも事欠くジュンマンにとって、この金は喉から手が出るほど欲しいものだった。意を決したジュンマンは、サウナの倉庫に忘れ物としておかれているバッグを持って帰宅しようとするが……。

②人妻のミラン(シン・ヒョンビン)は、場末のクラブホステスとして働きながら借金を返す日々。家では夫から家庭内暴力を受けていたミランは、客としてクラブを訪れたジンテ(チョン・ガラム)と肉体関係になる。ミランが夫に暴力を振るわれていることをしったジンテは、ミランの夫を殺して保険金を手に入れる計画を考えるが……。

③出国管理局で働くテヨン(チョン・ウソン)は、同棲していたが失踪した彼女の借金の保証人になっており、その返済のために悪徳金融業者ドゥマン(チョン・マンシク)に追われまくっていた。テヨンは一発逆転をたくらみ、詐欺で大金を手にした元同級生の海外逃亡を手伝おうとしていた……。

チョン・ウソンやユン・ヨジョンら実力派俳優豪華共演!

借金返済のために、藁にもすがりたい男女が繰り広げる悲喜劇。上記の3つのストーリーを軸に、その周辺の人々が微妙に繋がり始め、いつしかその繋がりが新たな悲劇を生んでいく。しかもその時系列が後半でビタッと収斂されていく脚本と演出は、監督・脚本のキム・ヨンフンにとって本作が長編第一作とは思えぬ手腕である。

そんな映画を支える俳優陣も豪華。『無垢なる証人』(2019年)『アシュラ』(2016年)のチョン・ウソン、『シークレット・サンシャイン』(2007年)のチョン・ドヨン、『メタモルフォーゼ/変身』(2019年)のぺ・ソンウ、『バンガ?バンガ!』(2010年)のシン・ヒョンビン、『詩人の恋』(2017年)のチョン・ガラム、『哀しき獣』(2010年)『アシュラ』のチョン・マンシク、そして『ミナリ』(2020年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンまで、キラ星のごとき俳優陣の演技合戦を観ているだけで楽しい。

本作の出来栄えについて、そもそも実写化は難しいと考えていた原作者の曽根は、本作を基に原作を書き直したいと思うほど気に入っているという。大量に人が死ぬ映画ではあるのだが、最後に小さくガッツポーズを取りたくなる、そんな爽快感も持ち合わせている、見事な娯楽作品である。

文:高橋ターヤン

『藁にもすがる獣たち』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「今月の韓国映画」で2022年7月放送

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