障害者がもっと投票しやすく 参院選・当事者、家族から寄せられた声

郵便投票請求書を記入する蒲原さん。住所や氏名を書くのにも時間がかかる=大村市内

 「もっと障害者が投票しやすくしてほしい―」。参院選の投票日(7月10日)を前に、長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」に当事者や家族から投稿が届いた。脳性まひがある大村市の蒲原千春さん(38)、有権者の長男が知的障害者という長崎市の女性(58)の声を紹介する。

「郵便投票 負担軽減を」脳性まひの蒲原千春さん(38)=大村市=

 

 「書くのにちょっと時間がかかるんだけどね」。参院選公示後の6月下旬、大村市在住で生まれながらに脳性まひがある蒲原千春さんは、市内のデイサービスセンターで郵便投票の請求書を記入していた。
 蒲原さんは下半身が動かず左手も不自由。健常者ならすぐに終わるような住所や氏名、電話番号の記入、封筒の宛名書きも大変な作業だ。「手間はかかるけど、せっかくの1票を無駄にしたくない」と話す。
 郵便投票は、重度の障害がある人や要介護5の人など、投票所に行くことが困難な人を対象とした制度。選挙管理委員会に投票用紙を請求することで、郵便を通じて自宅などで投票ができる。県選管によると、昨年秋の衆院選では県内で188人が利用した。
 蒲原さんは若い頃、投票で悔しい思いをした経験がある。投票所に行く際は両親の介助を受けていたが、ある日、天候が悪く「危ないので連れて行けない」と言われ棄権せざるを得なかった。「障害があるからこそ、投票を通じて意思表明したかった」。現在は知人に教えてもらった郵便投票を使い、欠かさず1票を投じているという。
 だが、蒲原さんにとって請求書記入や投票用紙郵送といった作業の負担は軽くない。権利である投票に、封筒や切手代の自己負担が生じることにも疑問を感じている。「郵便投票は障害者にとって必要な制度。投票用紙請求書に返信用封筒を同封するなど、国や自治体は手続きの簡略化や負担軽減と同時に、制度の周知やインターネット投票の導入にも取り組んでほしい」と求める。
 6月末に投票用紙が届いた。福祉政策を重視して選んだ投票先を書き込んで返送した。「『選挙に行っても意味がない』という人もいるけど、伝えようと努力することが大事。障害の有無や年齢、性別に関係なく暮らしやすい世の中になれば」。1票を通じて社会が少しでも良くなるように願っている。 
 

「投票所の配慮、工夫」 知的障害者の母親(58)=長崎市=


「知的障害者が投票しやすくなる配慮、工夫がもっとあれば」と話す女性=長崎新聞社

 長崎市の女性は長男(24)が知的障害を伴う自閉症。コミュニケーションが苦手で慣れない場所や事態への対応が難しいといった特性から選挙の投票はハードルが高いが、女性は「できるだけ同年代と同じ経験をさせたい」と毎回、一緒に準備を重ねて臨んできた。「知的障害者が投票しやすくなるような投票所の配慮、工夫などがもっとあれば」と話す。
 長男は障害福祉サービス事業所で就労。2018年に選挙権年齢に達した。知的障害者の場合、家族らが投票所に付き添うことが可能だが、投票自体は1人で記入し投票箱に入れるのが原則となる。期日前投票は投票以外の手続きもあって複雑なため、現状は投票日に自ら投票している。
 女性と長男は投票前に関連の新聞記事を見ながら誰に投票するか相談。長男が候補者の写真や公約を見比べて決め、投票用紙に書く練習をして投票所へ行く。
 初めの頃は投票の途中でキョロキョロしはじめたり、係員に「(候補者の)名前を書いて」と言われ、自分の名前を書いたりと失敗を重ねた。昨年の衆院選では個人名を書く1枚目はうまくいったが、2枚目の政党名を忘れてしまい、係員の手助けで何とか投票を終えることができた。

 2人で何度か訪れた投票所だが、女性は「『知的障害者は歓迎されていないのかも』と弱気になってしまう。専門知識のある人が会場にいたり、支援することが掲示されていたりしたら心強いのに」と振り返る。投票所内の動線も知的障害者には複雑。「投票用紙と入れる箱の色が同じだと理解しやすいかも」。事前練習となる模擬投票の実施や、事業所単位で期日前投票できる仕組みもあると有効だと考えている。
 参院選もそろそろ投票の準備を始める頃。「無事投票を終えると本人も心なしか誇らしげで、うれしそうなんです」。女性は10日の本番に期待を込めた。


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